家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

刻苧をやる

 漆、漆、寝ても覚めても頭は漆の事ばかり。漆アレルギーだけでなく漆ノイローゼ。謎の膨疹発生からは軽く漆トラウマ。ヤダなぁ、痒いなぁ、怖いなぁ。未だ捨て塗りが終わっただけ。漆本塗りはこれから。なのにもう飽きたなぁ。ここの所ずっと漆そのものか漆関連。施工作業は勿論、書いている事にももう飽きた。しかし、まだ下地の漆作業。

 

 キッチン天板L字接ぎ部。契を入れた時にも書いた通り、ここが動かないか心配。動けば隙間が出るのじゃなかろうか。お父さんが本職の頃、こういう所に対処する作業や施工は度々していたので気になる。という事でそもそも動かない事を目指しての契だったが、それだけでは気が済まない。出来る事はやっておこう。

 

 それぞれ違う動きをする物同士を連結や接合する際には、隙間を予め空けておく。材が動けるように現場加工、はたまた規格工業製品の可動材採用等をしたりする。建築物にもインフラ設備にも機械設備にも家電にも、枚挙に暇がない。他、やはり予め目地を付けておいたりもする。これは思い付くものがお父さんは少ない。外壁サイディング材の継目にシーリング、モルタルの目地。モルタル目地は、動いた際に発生するヒビをそこに集中させるようにと理解している。そうなると補修手間も少なくなりそう。

 

 という事でこれをやる。目地を入れておくのだ。長尺短尺のそれぞれの板を真っ平に隙間なく、まるで一枚物の板かのようにL字接合が出来たとしても、板がそれぞれ動くとそこは悲しい事になりそう。そもそも、そのような接合が出来る事は過信。多少の段違い等の接合をしてしまっても、目地があれば誤魔化しやすくなるはず。

f:id:kaokudensyou:20160913183945j:plain

 

 当初からこれを考えていた。素人には難しいだろうから精度や見た目は妥協する。この手の思考に批判的なのは妥協で終わっているからだ。では何だ、全本職が何から何まで一発で完璧に決められるとでも思っているのか。いや、違う。それが出来る事は言わずもがなの立派な技だが、事前事後の対処法の引き出しが多い事も本職が由縁だ。高難度や多人工施工に陥らない回避法、失敗や不細工にならない為の逃げ工法、又は誤魔化し法等。

 素人が手道具を上手く綺麗に扱えないのは至極当然。しかし、素人でも頭はヤル気次第でそれなりの華麗さを伴って使えるだろう、ってんだ。それでこちとら伝統構法の全面改修施主施工をしてんだよ、てやんでぃ。

 

 さて、この漆仕上げ品の板接合部目地。どうもお父さんの華麗な方法では何ら無かった。「刻苧(こくそ)彫り」という名称がある加工法らしい。孤高の域に到達したわけじゃない落胆さよりも、先人の例がある事の有難みが大きい。と言っても継ぎ目を谷彫りするだけっぽい。いや、違うか、分からん。この彫り巾諸々、何か奥義があるかもしれないが不明。よって、ただただ彫る。彫刻刀を買ってきて手彫り、というのは自信が無いので定規を当てがってのトリマ彫り。

f:id:kaokudensyou:20160913183955j:plain

 

 それよりも躓くのは刻苧作りの方。

 馴染みない漢字だが苧とは麻の古い言い方らしい。これを刻むと書いての刻苧。漆作業においてのパテ材でありシーリング材のようだ。大きな欠損部等を埋めたりするのに使われるが、柔軟性と言うのか追随性と言うのかもあるらしい。多分、若干だと思うけども。何故ならとても硬い物。陶器等の補修にて、破片が紛失していたらこれで補う程の物らしい。

 

 材料を一応書いておくと、糊漆、木粉、麻繊維。コンクリートで敢えて置き換えるならば、セメントが糊漆、砂が木粉、砂利が麻繊維かな。名の由来と思しき麻繊維は何故か必須ではないようだ。入れるとより強度が上がるという表現が見受けられたが、ならば入れずとも強度十分ならそれで良いらしい。

f:id:kaokudensyou:20160913183935j:plain f:id:kaokudensyou:20160913184007j:plain

 

 この混ぜ加減がよく分からない。親切な方による写真と分量割合の掲載をインターネットで見つける。見様見真似でやってみるも正解か分からない。まぁ、いつも何かとこんな感じだけども。刻苧彫り箇所に充填。この手のものは一回では済まず、日を置いて二回実施。

f:id:kaokudensyou:20160913184017j:plain