家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「知る」から「分かる」へ

 綺麗に平準に早く塗る。というのは左官職界では当たり前なんだろう。修行者がいる現場ではそういう話があるかもしてないが、インターネット上では見当たらない。それより多く目にした記述は「押さえ」という工程についてだ。漆喰施工最難関と名高いっぽい。

 日本の漆喰は軟らかい。原料の性質だけでない。地震大国で下地に泥土を使う事等々により、糊やスサを入れる。左官は水を塗る様なもの、の代表的と思われる漆喰は塗付時はただのクリームの様。それを平らに綺麗に、そして強固な壁にする為に締める工程を「押さえ」という。締まった壁にすると水にも強くなる、らしい。成る程、成る程。

 

 この「押さえ」について、文字や音声にて皆が口をそろえて言うのは、「難しい」「素人に出来るわけ無いだろ」「諦めろ」「馬鹿か、お前」という主旨の内容のみ。分かります、分かります。ヒビ割れと言う、初歩的な所を解決出来ていない者として安易には考えていません。ただ、どうやってやるものでしょうか。

 この解答となるような文言は、ついにお父さんには見つけられなかった。見付けるのではなく質問をするにしても、激しい罵倒が来るだろうしなぁ。

 

 よって、五回目にて実験。方法としては、塗り面が半乾状態で鏝圧を掛けて撫でる、というような事は知る。ふむ。一体、半乾状態とはどのような頃合いか、鏝圧はどれぐらいか、さっぱり分からないがやってみる。

 そして結果、難しいのが分かった。本職の速さと同じく、「知る」という事から「分かる」に変移した。「知る」と「分かる」は違う。

 

 「押さえ」が下手な事による一つの問題は、テカリ斑が出来るという事らしい。乾き気味の漆喰表面に鏝圧を掛けると、理屈は省略するがテカテカする。一方、乾いていない表面に同じ事をすると、材が動いてしまったり押し出されて浮いてしまったり。

f:id:kaokudensyou:20170528115753j:plain←テカリ斑

 

 ならば、まだ乾いていないグジュグジュの所が乾いたら全体を押さえ始めれば良いのか。とはならない。そうすると、乾き気味だったところは硬くなっていたりする。そんな所に「押さえ」は効かず、何なら削ってしまう。

 ならば、乾いた所から順に「押さえ」ればいいんじゃないか。ともならない。そんな部分部分で押さえても綺麗にはならない。何なら壁面が凸凹してしまう。

 ならば、そもそも「押さえ」なんかしないでいいんじゃないか。ともならない。面が粗くなる。表面強度を無視し、粗さも表情と捉えるのなら、水が掛かるわけでもない内壁ならアリかもしれないが、さてどうなんだろう。

f:id:kaokudensyou:20170528115951j:plain←乾き斑

 

 鏝圧をどれぐらいにすれば良いか、という謎。乾き具合の良い頃合いはどれ程か、という謎。それら以前に、乾き斑をどうすれば良いのか謎。全くお手上げ。新建材にシーラー塗布なら全体的なのかもしれないが、土下地ではどうする事も出来ないのではないか。さっぱり分からない。確かに、素人がどうこう出来る範疇にはなさそうだ、という事が大いに「分かる」。

 

客観視点

■同第五回目:同甲面

〇主目的

・糊の追加調合による検証

・本職用中塗り鏝、及び仕上鏝の使い処検証

・動画撮影による検証

・「押さえ」実験

〇施工方法

・砂漆喰による下塗り(本職用中塗鏝)、及び漆喰による重塗り(同左、仕上鏝)

・「押さえ」三回(仕上鏝)

・他、四回目と同様

〇所要時間

・各塗り毎に凡そ14分強

・「押さえ」は非計測。

 

 左官の悩み処は数知れず。材配合は基より。ヒビが劇的に減ったのは、糊を初期値から倍量させたからに違いない、と判断。よって、引き続き配合増加にて試みて行く。

 道具についてもそう。砂漆喰塗りには、中塗鏝かを使っている動画ばかりの中、仕上鏝っぽいのを使っている物があった。漆喰塗りでは、中塗鏝か上塗鏝かを使っているものがあれば、仕上鏝っぽいのを使っているものがあったり。鏝の種類を書いたが、それらが正解か分からない。中塗鏝と思っても上塗鏝かもしれない。中塗鏝と上塗鏝の違いもそもそも知らないし。

 

 お父さんの知る限り、中塗鏝はバリバリ塗られる。下土の水引きと闘いながらの砂漆喰には良い。上塗りにとなると、力が伝わり易い中塗鏝だと漆喰厚に影響を与えやすく感じた。塗り厚加減能力が覚束ないお父さんとしては、市販で普通の仕上鏝で上塗りをしてみる。この仕上鏝は材へ力が伝わり難くい為、材の上で浮いている感じがある。思わず下塗りが見える中塗鏝より安心だ、とやってみた。

f:id:kaokudensyou:20170528114610j:plain←塗厚成功例

 

 また、本施工初の動画撮影を行った。これを投稿して世界の皆さまコンニチワ、とする為ではなく自分で検証する為。動画で観る本職の鏝動きの早さと、自身の腕の先にある鏝動きの早さ。これらの違いがまだ分かってなさそうで、依然所要時間には大差がある。この解を得たかったのだ。

 

 前回も今回も塗り速さを意識した。脚立の上でお父さんなりに目と手を素早く動かしていたつもり。だけども、本職動画との違いは歴然。まぁ、我ながら何とものっそりした手の動き。無駄な動きも多いし、動き自体も小さかったり。お肉のついた背中や肌艶や毛髪から、自分は本当にオッサンになったんだというオマケ付きで物悲しくなってきた。

 違いの自覚が出来なかったのは恐らく、視点と対象物との距離による錯覚だ。高度1万m上空の飛行機の速さは分からず、数十cm先の鏡の中で表面しか見えない日々見慣れた自分の年齢変化も分からない。しかし、上空程速く無い離着陸の時でさえ飛行機が至近だと高速度が分かり、何十年かぶりに客観視点による自己の背中姿を見ると歳を感じる。多分、これだ。

f:id:kaokudensyou:20170528114619j:plain←客観視点から撮影

 

 本職の数倍の時間を要しているにも関わらず、お父さんの目は鏝の動きに付いて行くだけで一杯一杯。鏝の次の動きの方にまで目が行っていない。しかし、目線が先に行った時でも鏝自体が追い付かなかったりする。結果、鏝の動きが止まったり迷ったりする。鏝から伝わる感触を頼りに手が目を補えたりするのかな。そうすると、目は視界に入る壁全体を捉える事を主と出来て、良くなるような気がするんだがどうだろう。

 って、お父さんはどこに向かってんだ。

 

我流への大後悔

■同四回目:練習漆喰面をこそがした乙面

〇主目的

・部分部分塗り法から本式に

・糊スサの追加調合による検証

・本職用中塗り鏝、及び仕上鏝の使い処検証

〇施工方法

・見様見真似の全面塗り

・砂漆喰による下塗り(本職用中塗鏝)、及び漆喰による二度塗り(仕上鏝)

・下地の接ぎ部への寒冷紗張り

〇所要時間

・各塗り毎に凡そ12分強

 

 本職動画を踏まえた事、まずは寒冷紗。砂漆喰による下塗りをする前に、下地土の接ぎ部に砂漆喰により埋め込んでおく。下地によるヒビ割れ防止効果を狙ってみた。本職はガラス繊維を使っていたりするそうだが、そこは強アルカリ性に強く無い綿の寒冷紗で手を打つ。

f:id:kaokudensyou:20170528112753j:plain → f:id:kaokudensyou:20170528112557j:plain

 

 材の調合に関しては、練習の都度に増えていき、スサと糊共に購入時の倍となった。

 

 そして施工。何故か温存していた本職用中塗鏝をここに来て投入。

 水打ちに関して見つけた唯一の本職動画では、噴霧器でチョロチョロと一回だけっぽかった。その本職の方は、施工後にもう少し水をやっておけばよかったかも、との感想。水引き対策には、やはり過剰な水打ちではないという事は確認出来た。今回から二回に戻す。

 塗り方は、部分部分の小さな鏝動きから縦横無尽に変更。かなり久しぶりの動かし方。兎に角速さを意識したら汗がじんわり。部分部分塗りをしている時とは消費エネルギーが違う。そして結果は凡そ12分強が最速。最後の漆喰上付で15分弱。平地のやり易い所だともう少し早かっただろうか。

 

 部分部分塗り法のお父さんと本職との時間差、そして四回目の高速化の事を聞かされたお母さんはそれぞれに驚いていた。前者の驚きはお父さんもそうだったので確かに分かる。だが、後者の高速化は、お父さんが上達したとかではない。ただ、遣り方を変えただけ。誰でもそうなる。

 と言うのも、この練習施工直後、たまたま素人の方の動画も拝見した。その素人施工者の方は恐らく左官は初めて。そして、石膏ボード下地への漆喰塗りに要していた時間は、同面積換算で恐らく12分~14分程。

 

 これ、正直言うと非常にガッカリした。お父さんより鏝の動きはぎこちなさを感じ、チリや鏝の汚れ方も悪いかもしれない。しかし、お父さんは今まで何十平米と左官をしてきた経験差に対して同じ様な所要時間。この事実の前ではそんな未熟さは誤差だ。

 マラソン選手を真似ると救急車確実、だけど初挑戦で好タイムを狙うとして編み出したのは、100m毎ダッシュ法。100m12秒で走り10秒休憩。これを422回繰り返す。まぁ、多少は余裕を見ても、フルマラソンを2時間台で走られる。初心者としてはとんでもなく好タイムにて完走だぞ。

 みたいな机上の頓珍漢な自己流の方法でしてきた事等により、左官経験値を上げられていなかった事がハッキリした。左官経験値は本職歴にすると六か月ぐらいであり、昨日今日親方に弟子入りしたばかりの子よりは上手いかも、と思いきやそうでは全く無い事と、そう思っていた恥ずかしい自分にガッカリしたのだ。

 

 しかし他方では、練習四回目施工の塗り面の結果には非常に歓喜した。ヒビが大いに改善されていたのだ。

 施工当日はヒビが見当たらなかった。翌日にも見当たらず。この間、お父さんは口や態度に出していないつもりだが、内心は安堵感と共に胸が湧き立っていた。本施主施工で何回か近い事はあったが、この時は五馬身以上の差で圧勝。翌々日の写真判定でその差は縮む。ヒビが出たからだ。

 しかし、前回までの無数と違って数える程にまでなった。今までの暗闇に出口らしき光を感じられたようであり、紛れもなく万馬券的気分。

f:id:kaokudensyou:20170528111759j:plain

 

素直だけど偏屈

 あぁ、アカン。お先真っ暗やわぁ。

 お父さんは、何に対して分からないものの憤慨。何事も上手く行かず、大した事が見い出せない非建設的失敗を繰り返す事が大いにストレス。強アルカリ性の漆喰の中に素手を突っ込んでぐるぐる回したり、立て並べ置いている鏝達を蹴り飛ばしたくなる。

 

 実際は、自傷行為や物への八つ当たりをした事なければ、その際もせず。やった事は、本職の施工動画を「初めて」観てみる事。

  もしかして驚くかもしれないが、お父さんは今まで観る事を避けてきたのだ。昔に生では度々見た事はあるが、改めて動画を観た事は無い。それは、素人お父さんは本職のそれに引っ張られてしまい、上手くなるどころか大失敗しそうな気がしてならなかったのだ。

 

 意図不明かもしれんな。例えばマラソン。

 選手クラスの走り方を真似たらどうなるか。学生時代の校内マラソンではトップクラス。これは例えでなく事実であり、体力にはそこそこ自信があった中肉中背の筋肉質青年だったお父さん。しかし、現在のお父さんは小太り、かつ成人以降に長距離を走った事が無い。日々鍛錬や研究を重ねた人の走り方やタイムを知ると、昔取った杵柄でそれを意識してしまう。しかし、とても真似など出来ない。それ以前に、1km地点未満でぶっ倒れて救急車で運ばれるかもしれん。

 と、そんな感じ。

 

 素直だけど偏屈なお父さんは熟練若手関わらず、左官職の鏝捌きに敬意を抱くあまりに目を瞑って来た。ただ、如何せんどうにも埒が明かない。素人がどうしても漆喰を塗るのならシーラー塗布が大前提か。はたまた、土壁相手だとどうしたって手練れの左官職を探し出さないと無理なのか。それらを踏まえないといけないぐらいなら、まずは本職の鏝捌きを観てから考えようじゃないの。

 

 新建材壁直塗り、とかではなく土下地か何かの壁に漆喰を塗る本職の動画複数を観てみる。それは驚愕の内容だった。

 昔、生で左官職の施工は度々見た事がある。一千億円超規模から数千万円程の現場で見たそれら全て、広いコンクリート壁にモルタルをしごき塗っている場面。若かりしお父さんは、自分でも出来そうだと思ったもんだ。後年にそれは覆されたが、広い面で動く鏝捌きにどうこう思わなかったのだ。

 が、真壁の中の鏝は違いが分かり易い。当時と違って実際に自分も少なからずやっているから尚更だ。

 

 顕著にかつ一目瞭然で二人にも分かるだろう違いは所要時間だ。本職は驚異の二分半。たったの二分半なのだ。下塗りも上塗りも同程度。同じ様な面積の壁に対しお父さんは一時間程なのにだ。下塗りだろうが上塗りだろうが時間は同じ、腕と脚が二本、という所ぐらいだけしか同じ所が無い。

 お父さんは狭い所に脚立を立てての高所作業。道具の違いも見受けられる。それら諸々、この時間差の前ではほんの誤差にしか過ぎない。パソコンの液晶画面の前でぶっ倒れそうになる。

 

 下地が間違いなく土という条件での動画は少なかったが、やはり同程度の時間。施工者はお父さんと同年代か少しお若いか。なので、左官職としてとうに修行は明けている一人前の方のはず。歴然とした差がある事は漠然とながら知っていた。しかし、どれ程の差があるかがはっきり分かった。

 

ちょっとした記述だけでは分からない

■同三回目:甲面

〇主目的

・漆喰面に漆喰は上塗り出来るか否か

〇施工方法

・一回目と同様

〇所要時間

・一時間強

 

 ヒビ等の不具合があれば上塗りすれば良い。この手の記述がそこそこある。これが叶えばヒビ問題に進展があるかもしれない、として実験。

 

 塗ってから三日経った当該面。当日には指触乾燥していたが、水を打つと然程吸わずに流れていく。

 後日知るが、漆喰はある程度水を吸うと膨張し、それ以上の過分な水を吸いにくくする。そのような記述があった。石化した漆喰がまるで木製樽のような止水現象が起きるのか、お父さんは不思議に思う。ただ、石化していない漆喰だと確かに有りえそう。

 何にせよ、何回かただの水道水を噴霧して、水引きが落ち着いた頃合いを見て塗り始める。

 

 そして失敗。塗ってすぐに水引き。材が重なる箇所は塗ってるそばから馴染まない。それでも一面塗ってみると、表面段々模様状態。そしてヒビ発生。これこそシーラーか何かをしないとね。

 

 写真ではヒビが分からないものの、段々は分かるだろう。真正面から見ると実際はもっと段々。水をたっぷり含んだ漆喰はクリームだが、瞬時に水引きしたそれは瞬時に固まったようになるぞ。気を付けろっ。

f:id:kaokudensyou:20170528104005j:plain