家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

鏝が突如重くなる

■同二回目:乙面

〇主目的

・水引きに対応する方法の模索

〇施工方法

・水道直結噴霧器による水打ち八回

・糊スサの追加調合による検証

・他、第一回目と同様

〇所要時間

・第一回目と同様

 

 漆喰はなかなか乾かない事が正解らしい。早く乾くようだと不具合が起こるらしい。

 一回目は一時間も経たない内に指触乾燥。内部はどうであれ、表面はサラサラ乾いている感じだった。この事が、剥離はせずとも多数ヒビ割れた原因と断定。その対応としてやはり水打ち量が足らんのだろう、と推測。

 

 そこで、もうこれ以上は水が引かん、という程に水を打ってみる事にする。

 その数八回。水が引いては打ち、引いては打ち。表面の土が流れないようにするには、一度で大量に打てない。引き切るまでに時間を要するようになっていき、水打ちだけで一作業。合間合間ながら、一回目から数えて30分は裕に超えていたのではないか。果たして本職が、このような事をやっているのか甚だ疑問。いや、やってないだろうな、と思いながらも実施。

 

 いざ下塗り。砂漆喰塗りが壁上から半ば程に至った際、鏝を滑らしながらではなく壁に対して垂直気味につい離してしまった。今までだとそう問題ではない程度。だがしかし、下地土が塊となり鏝に付着剥離してしまう。まさかの出来事に目を疑った。

 

 その中塗下地土は、不具合部を塗り直した継ぎ接ぎ面の端部。周囲の土とは隙間があり、そこからさらに下地の大斑直し土との接着面深くにまで打った水が入っていた。深さ凡そ15㎜。この手の部分塗りをしている壁数多。

 また、下地土の表面が軟らかくなっていた。取れた土と壁に残った土との断面の水浸透具合は10㎜弱。糊スサを増量させ、尚且つ水具合を固めした砂漆喰は、臼で付いている最中の軟らかく粘っこい餅のような状態。接着剥離させるのには十分だったようで。

 

 漆喰施工について一部、下地土がまだ湿っている状態の追っ掛けで行う記述があった。下地がまだ動く状態で行うとダメなんじゃないの、と思った一方で、既存漆喰壁のチリに隙間がある箇所多数の事から、意外にもしかして有効なのか、とも。

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 そのチリ隙間は、外壁の場合は内部からは光が見えてよく分かる。お父さんが行った左官壁では、下地に隙間があっても中塗り下地段階では埋まっている。となると既存は、荒壁から漆喰まで全て追っかけしていたとしか思いつかない。一回目の失敗により、下地を大いに濡らして追っ掛け状態にしたらどうなのか、という実験でもあった。

 

 剥離部の補修の上、翌日に砂漆喰の続きから再施工。初日の非現実的な水打ちは行わず、しかし一回目よりは少し多め。しかし、一回目とあまり変わらない壁が出来上がり。

 

品質確保、凡そ数十分

■実験及び練習一回目:甲面

〇主目的

・まずは漆喰というものを塗ってみる

〇施工方法

・水道直結噴霧器による水打ち三回

・砂漆喰の上、追っかけによる仕上漆喰(共に厚寸適当)

・部分部分塗り法の上、「押さえ」実施

〇所要時間

・砂漆喰、上塗漆喰、各々凡そ一時間。

 

 とにかくやってみよう、という心持ちでの施工。実施面は、既存のねずみ色の漆喰仕上げをこそいだ甲面。

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 それまでの泥土左官での水打ちは二回。水が引いてから再度水を打つ、としてきた。しかし、新建材壁下地への漆喰施工経験者の探検さんによる、土下地の水引き警鐘はここに来て過去最大の音量で鳴り響く。よって多めに、さらに一回増やして水を打つ。下地土に既存と新規との水引き差はあるものの、これにて土下地の水浸透寸は凡そ5㎜強。

 

 下塗りとなる砂漆喰は、その物の塗り厚よりもマステ基準を念頭に、不陸調整を意識しながら置いてくるように塗る。全面塗り終えた時点で、塗り始め箇所の水気は見えず、触ってもほんのり湿っているかという程度。

 よって、砂漆喰に軽く水を打った上で、かつ道具についた砂漆喰を洗い落とした上で、上塗りの漆喰塗りを実施。砂漆喰と同じく、上方から綺麗さと平準さを心掛けた仕上げをしながら段々に降りてくる、部分部分塗り法による。炭化コルク下地に施した石灰モルタルにて同様の方法で塗った際、先に塗った箇所と後から塗った箇所の材の重なり部は馴染まずに盛り上がったりした。砂漆喰でもそのような事が起こったが、漆喰ではこれが特段起こらず。

 塗り終わった直後、残った鏝跡を消しつつ全体を鏝で「押さえ」てみて終了。

 

 ところで、素人と玄人の差は何だと思うだろうか。業種等により違いがあるかと思うが、ここで言う所だと建設施工の玄人ではどうだろう。素人の判断基準だと見た目が最たるものではなかろうか。竣工後のクレームで最も多いのは汚れや傷のようだ。普通の建築ド素人の判断能力は、それぐらいしかないから仕方が無い。しかし、それは一面に過ぎずで他にもっと大事がある。例えば使い勝手、例えば強度、例えば寿命等々。ここまで読み進めた二人ならば、想像は付くだろう。

 

 竣工後十年以内は不具合等が起きないように、という法律が少し前に出来た。工種にもよるが、尊敬に値する真の玄人はたかだか十年ぽっちの視野で施工をされてはいない。

 なのに、そのような法律が出来た一因は、もっと短期間で問題が出る不良施工があるからだ。竣工直後は綺麗に仕上げてさえおれば、代金決済を経て引き渡してしまえる。その後暫くして出た不具合等に対する施主の訴えがあっても、のらりくらりで逃げ回る輩がいる。大手零細関わらずだな。物が物だけに個人にとって被害規模が大きい場合がある。よって、見た目で欺かず、ほんの十年ぐらいは諸々ちゃんとせえよ、それ以降は知らんけど。と、そんなお上のお達し。

 

 素人のお父さんの初漆喰施工は、事前に思ったよりはまあまあ綺麗に出来た。少し漆喰をこぼして木部に付けてしまったり、ちゃんと塗られていない箇所が出来てしまったり。それら含めても、漆喰あれこれの不安等は何だったんだ、拍子抜けだぜ。

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 と思い耽った一時間後。いや、数十分後だったか。漆喰面にヒビ発生。時間と共にその数は増加、かつ全体的。

 綺麗さが維持出来たのは、十年間どころで無く数十分間。引き渡すも何も、その日の仕事が終わる前にもう不具合。目の前の壁以上に頭の中が真っ白い。

f:id:kaokudensyou:20170528104521j:plain←こんなのが無数

 

 素人でもそこそこ綺麗には塗れるだろうが、不具合や強度等に対しては素人では手に負えないぞ、と玄人らしき人の言。中年から若手の玄人複数人に比較的見受けられた、未熟な人間や一般素人に対する嘲笑。誰ともしないながらその顔が浮かび、何だか洗礼を早速受けた感じがする。

 

漆喰塗りプロローグ

 漆喰を塗るまだ前段階なのに、既に話が長い。写真も無く文字ばかり。読む方はしんどいだろうな、書く方もしんどいけど。答えだけ書けばお互い楽なのだけど、そうなると今度は漆喰施工がよく分からない事になるかもしれない。

 と言うのも、お父さんがそうだから。こうするんだと書かれていても、これがよく分からないんだな。本職でも出来ない、した事が無い人がいる施工なだけにか、痒い所に手が届くような記述は見つけられず。逆に凄くよく見当たるのは、素人向け等の加工漆喰材を使った新建材壁への施工関連を除くと、「素人には無理」という漆喰関係者の言のみ。

 どう無理なのか、それにどう足掻いたのか。そんな事を書くわけだが、それに触れておけば、いざ自分がする際に理解や対応がし易いかもしれないと思うんだな。なので、もし二人が、若しくは孫等が、お父さんと同じ様な施工をしないのであれば、以降の漆喰関連記述は読み飛ばせばよい。

 

 それならば、本漆喰施工記事の最初にそう書いといてくれ、と思ったか。それだとお父さんの悪戦苦闘ぶりが無かった事になってしまうじゃないか、という理由もある。本職なら出来上がった結果で報われるかもしれないが、そこは素人先祖の施主施工。目の前にあるその壁は当たり前ではなく、壁と成るに至る迄の苦労の過程があった。それぐらいは知ってもらわないとお父さんが浮かばれない。なので大目に見なさいよ。

 

 さて、材料の準備は出来た。マステ等養生は一年前にはとっくに出来ていて、寧ろちゃんと剥がれるのか心配なぐらい。最低限の道具も既にある。無いのは知識と経験と技術。それは実施工で獲得を目指す。と言う事で練習施工。練習箇所は甲乙の各面を定めた。

 甲面は、元階段下収納であり薪ストーブ西側にある半畳区画にある壁。用途は本決定していないが、恐らくまた収納。その区画の開口部上方の壁が、広さといい、見えなくなる場所といい、練習には打ってつけだと。

 乙面は、薪ストーブ上方の壁。見上げれば容易に見る事が出来る位置だが、普段はまず見えないし、見ようともしないだろう。その上で、甲面と同程度の面積。そんなわけで練習壁とする。

 

 ところが、この二面だけとはならず他、丙面と丁面も追加。まぁ、それだけ難航したという事。それら含めて書いていこう。

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砂漆喰を作ってみる

 水引き対応法のもう一つは、砂漆喰施工。

 これは昔ながらの方法だそうで、仕上げの前にこれを下塗りして下地からの水引きを緩和させる、との事。他、骨材となる砂を入れる事で強度を高める目的もあるそうだ。セメントに砂を入れてモルタル、さらに砂利を入れてコンクリート、と同じだな。また、下地状態によっては不陸調整もあるだろうか。

 

 シーラー法を横に置いておくと、どうもこれしか方法がなさそう。という事で砂を買っておいた。購入品は珪砂6号。珪砂とは、石英の粒でガラス等の原料。号数は、その粒の大きさを差したもの。6号だと0.2㎜~0.4㎜。珪砂の採用理由は、どうも工場で加工されているっぽいから。

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 由良川砂も含めた普通の砂は、建材業者が篩いを使って大きさを選別しているイメージ。標榜している粒径は目安という感を強くした。一方、珪砂の工場加工されているイメージ要因は号数というその標榜から。粒径を各号数で分けられその寸法はコンマミリ単位。さらにはコンマゼロミリ単位。

 そんな中に、普通の砂のような5㎜強とかの大きな砂が入っているとは思えん。この微細な数値からは技術と粒度の自信を感じちゃったので、普通の左官砂を避けて珪砂を信用してみた。

  

 で開封。見事なまでの微細粒。お父さんの信用に応えてくれた。薄塗りする漆喰にこの均質性は有難い。

 ただ、左官砂である川砂は角が取れている事が肝要と認識。大いに加工されたっぽい珪砂は角張っているんじゃないか、と後日調べてみる。すると、本職でも珪砂使用例の記述があったので良しとする。

 ちなみに、漆喰の強アルカリ性に対応する骨材として、寒水石という物もあるけども。それも後日知る。

 

 で配合。一体どれほど石灰に加えれば良いのだろうか、とお父さんの左官教本であるサイトを拝見。

 そのサイトと言うのは、ある建築事務所により伝統構法民家の復元新築工事の公開記録である。お父さんは設計時に発見し、本施工の土壁全般において大いに参考にさせてもらっている。特に、材の配合内容とその割合。

 今回の砂漆喰でも参考にさせてもらおうと、いつもの手順で拝見しようとするも消えている。大いに焦る。記載文言を思い出して検索すると、再び見つかった。プリントアウトすると大変なので横着しているのだが、これには冷や汗が出た。

 自然素材建材や伝統構法についての記述は限られていたり偏っていたりして、ましてや配合等については数少なかったり皆無だったり。特に左官は難儀。現場次第、気候次第、職人次第、さらに鏝捌き等と違って材配合は目立たないから、かもしれない。

 

 無事に見つかった当該サイトによる所から、お父さんが仮「決定」した砂漆喰配合。

 石灰10kg+珪砂11kg+海藻糊320g+麻スサ20g

 

 「真似」ではなく「決定」としたのは真似られないから。

 当該サイトでは、石灰に貝灰も混ぜている。海藻糊も複数種。それに、単なるスサだけでもなさそう。対してお父さんの実験用手持ち材は、既購入漆喰材内容物である石灰のみ10kg、海藻糊1種のみ160g、単なるスサ状の麻と称される植物繊維のみ10g。

 ズブの素人からすると、真の左官職人ではなく素人相手の建材業者を基本にしないと諸々厳しいような気が。と言う事で、当該サイトの消石灰割合に対して砂割合を算出、その結果である重量比1:1.1のみを真似る。骨材により重量がほぼ倍になった事から、糊とスサも倍増させてみた。本当は重量比ではなく容量比に応じた増量ではないか、と後から思ったけども。

 

 という事で糊とスサは不足。よって、別途左官建材業者から急遽購入。配合等を避けたくて実質既調合済品を選んだのに、結局は自己配合する事になっていく。

 

労多くして益少なし、かもしれない挑戦

 土壁の呼吸力、またの名を吸放湿性について、これを神の如く崇め奉るような人達がいる。分からんでも無い、現代人だから。

 この事については、それぞれの立場に依ったそれぞれの主張がある。左官建材の製造や販売業者は、ビニールクロスよりも漆喰や珪藻土が快適かつ健康と謳う。その中でも漆喰取扱業者は、珪藻土は自己結合せず接着剤を使用するので吸放湿効果が無い旨を謳う。珪藻土取扱業者はそれに反論。両方を取り扱う業者は両方良いと謳う。

 

 これらを根本から否定するのが、前述の土壁信奉者かと思しき人達。片や土壁の施工や設計を行う業者であったり、片や土壁家屋の家主であったり。その主張は、所詮は新建材壁に数㎜厚の漆喰等を塗ったって、吸湿容量が微々たる物で意味が無い。下地である土壁があって初めて現実的効力となるのだと。

 

 お父さん、一部を除いて全論に素直に頷けない。前者の新建材壁に薄い漆喰等は勿論ながら、後者の土壁信奉にも。

 と言うのも、居室内湿度をとやかく言うのは現代の気密性がある家屋によって初めて成立する論で、一般的土壁家屋のような気密性の低さだと、それこそ新建材壁漆喰のように微々たる話じゃないのかな、と。

 逆に言うと、土壁と柱に隙間が無く、天井や床にも隙間が無く、外部建具等には基本的に気密性がある物を用いて、高気密かせめて中気密性能がある土壁家屋ならば、湿度論に意味があるかもしれないけども。土蔵ぐらいの気密性なら意味があるな。ただ、快適性ではなく家財等の保存性の為だけどな。

 

 伝統構法家屋の一つの特徴は気密性が低い事。建物にとって通気がある事は家屋の長寿命化に寄与する。故に気密性を求める事は、施工上可能であっても適度な加減を要すると思われる。

 で、そんな低気密、と言うか現在無気密家屋なのに、かつクーラーが無い人生は考えられなかったお父さんなのに、この母屋一階は夏場でも快適な時が殆どだ。雨天等で湿度80%以上に達する時でもだ。

 外気と直結した空間で土壁吸湿性は無意味。吸湿性が高いと言っても、せいぜいその壁周囲に影響するか程度だろう。外気直結空間の湿度で快適性を実現させる程下げる事は、当然実質不可能。

 

 土壁吸放湿性が発揮されない家屋に関わらず快適性を得られるのは、なんて事は無い、単に温度計の数値の低さだ。

 夏を持って旨とすべし、で造られた家屋は不快な熱射が居室に入って来る事を防いでくれる。屋根や屋根裏然り、長い庇然り。また、低温を蓄熱してくれる土と石、熱伝導が悪い木もそう、そして通風も。

 理論値としての快適性は、湿度だけでなく温度とのバランスによる。居室内が高温になる事を防いでくれる建材や造り方の前では、湿度なんて些細な事と身をもって感じている。まぁ、夏場に快適であっても敢えて密閉にすると、湿度が下がってさらに快適かもしれないな。だが、今度は温度が上がって不快になるかもしれない。それは未だ実験出来ないが、既に快適なんだからする予定は無い。

 

 湿度が問題になるのは基本的に現代建築であり、前提が間違っていないのかな。寧ろ、湿度等の一要素に目を捉われる視点自体が、現代建築的思考じゃないのかな。屋根等の前では些細だとしてもやはり重要だ、ともしするならば、新建材壁に塗られた漆喰だって重要となるのでは。

 各人の各論等の正誤云々の話では無い。お父さん如きに判定等出来んし。う~ん、共感出来ず懐疑的になるのはその姿勢からかな。自分の取り組んでいる事や持っている物を一番としたいという、己の立場有りき論に感じて、そこから単なるエゴイズム主張に感じちゃうんだな。

 

 そんなお父さんだけども、シーラーの土壁吸放湿力への影響を気にしたわけだ。正義感ぶって実の所はエゴイズムな論は気に食わず、結果は似ていても見方や過程は同じでは無い。長々と書いたのは、それを二人や子孫に言いたかっただけ。

 エゴではない、他人に強い主張せずに自分の中で悦に入る人。自分の嗜好や信念等で決定しそれで満足なりをしている人とかだな。若年時と比べ、そういう姿勢に憧れを抱き始めたオッサンとしては、快適性維持貢献度が些細かもしれないがシーラー不使用で挑戦してみておこうと考えた次第。労多くして益少なしそうだが、もし上手い事いけば一人で悦に入ろうと思っている。