家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

漆喰にドライヤー

■同第六回目:同乙面

〇主目的

・均等的乾燥実験

・「押さえ」鏝圧実験

〇施工方法

・乾き斑の強制解消実験

・軽い「押さえ」二回

・他、前回と同様

〇所要時間

・今回、及び以降非計測

 

 圧が強いと思われる押さえを行った結果、表面強度に強弱が出た事により割れがあった。という見立てから、今回は鏝圧を意識して弱く、回数も減らしてみる。

 

 しかし、乾き斑問題は解決していない。そこで採った方法はドライヤーで乾かしてしまえ、と。

 そのままだと熱風が既に乾いた所にも当たってしまうので、鏝の剣先を温めてなかなか乾かない数か所をピンポイントにあてがう。二人にも分かると思うが、こんな事は本番施工では駄策。綺麗になんかならない。押さえとしても良くない。

 ただ、練習、と言うか実験施工中である。強制で疑似的ながら均等に乾くとどうなるかを知りたかったのだ。で結果は、所々に相変わらずヒビはあるのだが、五回目のような割れは起こらず。

 

 割れが無かった要因は乾き斑を抑えただけではなく、押さえの鏝圧を下げた事にもあるかもしれない。

 テカリが何じゃい、という気で五回目は強く押さえた。今回はこれを、撫でるような具合で行った。擬音で表現すると五回目はムンギュー、六回目はスススー。これにより、圧斑と言うのか強度斑と言うのか分からないが、面の乾燥収縮差が前回より弱まったのかもしれない。亀甲状模様も無い。

 

 そして、壁の表情も大いに違う。

 五回目の特にテカリ部はカチコチ感で一杯。見た目からしても硬さを感じさせた。今回は、打って変わって軟らかそう。石灰なのに石膏のような感じ。粒粒が残っていたりするし。鏝圧や回数によりこうも表情が変わるとは。

 今思うと、これは「押さえ」仕上ではなく「撫で切り」仕上げ、或いはそれに近いのかもしれん。それでも良いけど、既存が明らかに「押さえ」なんだなぁ。どうしようかなぁ。

 お、仕上げの違いが分かるようになった事は数少ない成長だな。

f:id:kaokudensyou:20170528185259j:plain←既存の仕上げ

 

 いずれにしろ、これが漆喰の難しさであり面白さである。

 とか何とか、これが本職格好付け営業ブログとかなら言っちゃう所だろうな。お父さんには難しさしか感じないけどもな。

 

敵の裏方は味方

 ツバメとの根競べでは勝敗が付いたが、漆喰施工の勝敗は未だ付かず。いや、今の所は負け濃厚。

 一歩進んだように思えたが、「押さえ」にて大きく後退した感がある第二の挫折。しかし、勝利に寄与するかは不明なものの、五回目にて乾き斑を無視して押さえた事による新たな発見はまだある。

 

 乾きが遅かった場所に大きな割れが幾つか入った。周囲が先行して硬化した事で、収縮運動が軟らかい箇所に集中したのかも。その一つの割れからは、海藻糊色した大きな水粒が表面に出ていた。周囲が押さえられた事により、水の逃げ場になっただろうか。

 

 乾きが早かった箇所は箇所で、亀甲状の模様が大いに発生。乾燥して割れた田圃の泥面のような感じ。見た目では割れてはないが、小さいながら水粒が無数に浮いていたので、微細な亀裂があるのかもしれない。

 一体何なんだ。割れ切っては無いという事は、スサが効いているから免れたという事なのか。ならば、スサは充分量という事なのか。

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 他にも幾つも疑問が生じ、何が何だか分からない迷宮状態。

 そこで、本職動画だけでなく、インターネット上の記事を兎にも角にも読み漁る。ここまで目を凝らしながら血眼に検索及び閲覧したのは、湖畔の中古家屋を逃した事により家探しが爆走モードに入って、数をこなす為に電柱架線等から物件所在地をネット上で特定しまくったりしていた頃以来。あの頃より目が衰えた事をちょっと感じてしまった。お蔭で、幾つか知ったり分かったりした事がある。

 

・とある本職御用達既調合漆喰の素性、及び実績と情報の多さ

 

・「水打ち」と今まで幾度も書いたが、どうも正式名称は「水湿し」と言うらしい。

 どうでもよいと思う事勿れ。名称が正しいか否かで結果が変わって来る事があるんだよ。

 

・糊が多過ぎると施工性が劣るだけでなく亀裂が生じる。スサが多過ぎてもダメ。

 亀甲状模様はこれに該当するのかもしれない。やはり配合が起因なのかな。

 

・「引き糊」として、海藻糊水溶液を下地に塗布、又は海藻糊を効かせた砂漆喰を薄塗りする方法がある。

 お父さんが考えていた、いざとなったらのシーラーはこんにゃく糊の水溶液だ。こんにゃく糊が固まると膜を作ってくれる。下地土に薬剤を混ぜるのは気持ちが悪いし、将来の材料取りでどうかと思っていたがこんにゃくなら良しだろう。だた、吸放湿性問題は解決せずだった。

 しかし、ちゃんと昔から「引き糊」と言う存在があり、シーラー役の材は利用されていたんだな。既に行っている砂漆喰はその目的であるが、不陸調整効果ぐらいしか感じず要領をイマイチ得ていなかったかもしれない。引き糊役としては糊が不足してたのではなかろうか。

 

 他、諸々新たな知識を得る。その中で思ったのが、本職の記事のほぼ全部はお父さんのような人間にはほぼ役に立たない。

 前述して来た通り、素人に対しては「難しい」という表現で大抵終始。その他は、自身の施工の出来栄えについてとそのご披露が殆ど。失敗例やその原因等の具体的な事については無い。そりゃそうだろうな。書いても得が無いだろうからな。

 片や、施主や建材業者のそれは違う。本職の失敗事例や抱える施工上の問題点等々が堂々と多数記述されているからだ。書いても損が無いだろうからな。

 という事で、現段階でのお父さんが欲しい有用な情報の殆どは、本職の周囲の人からもたらされた。立場が変われば損得も変わって記事内容も変わる。だって皆、やっぱ人間だもの。

 

左官鳥との根競べ

 ところで、春真っ盛りのこの頃、今年もやって来た。ツバメが。糞害に憤慨した事により、転居時にあった巣は撤去済。これで来ないかも、という期待は大いに外れ。

 

 巣を作り始めた時点で壊してやる事にした。人間が恐ろしそうなだけでなく、実際に危害を加える生き物だと解れば寄ってこないだろう。そう思ったが、翌日にはまた作り始めている。

 ああ、そうかい。ならば根競べだ。と毎日毎日、日に何回も破壊神として熊手を振り回すお父さん。

 

 門屋は糞まみれにはならないものの、泥と藁だらけ。手間も掛かる。それに、流石に心苦しくなってくる。産卵期を逃さないのだろうか。一度決定すると、別の場所に変える事はしない生き物なのだろうか。

 という事で、ご近所さんの真似をして短冊状の紙片を垂らし付ける事にした。これは効果があった。ツバメの巣作りが止まったのだ。相当戸惑っていたし、これで諦めるだろうと安堵。

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 がしかし、数日後には再開。短冊を無視してその上に泥藁を付け始めた。破壊と構築の争いを再開するが、ある日、巣作り予定地直下の地面に割れた卵を発見する。巣が全く出来そうにもなっていない段階で、我慢し切れずに産卵してしまったのではないか。

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 この卵事件前から葛藤が生じていた。

 ツバメは、泥と藁と唾液を用いて、自己の能力で巣を造ろうとしている。そして、そこで子育てをしようとしている。片やお父さんも、泥や藁や漆喰や砂や糊やスサを用いて、自己の能力で家を造ろうとしている。そして、そこで子育てをしようとしている。同じだよな。左官で苦労するお父さんは、頑張って左官をしているツバメ夫婦との闘いに焦燥し始めていた。

 

 そこに来て、ツバメ夫婦は卵一つを失ってしまった。これはアカン。ツバメのように行動が一直線ではホモサピエンスの名が廃る。思考の因数分解だ。

 お父さんが嫌なのは糞害。それ以外の鳴き声や泥藁や飛来行動は構わない。お母さん等は、飛来して来るのを怖がったりしているが、平日昼間に居ないから土日だけ我慢すれば良しだ。という事で、糞害さえなければ巣作り子育ては良しだな。

 

 そういう事で、予定地に糞落下防止板を設置した。

 りょうすけに尋ねられたのでトイレだと答えると、ツバメはトイレが家なのかと言う。それも良しだ。ツバメが糞を落とせない事で諦めれば良し、板がカラスの足場になる事を恐れるのも良し。後はツバメ次第とする。

 ちなみに、後日暫くしてこの板の上の、しかもわざわざ端に巣作りを開始。端だけに糞を落としてくるかもしれない。だが、今年はこれで諦めよう。この根競べはお父さんの負け。

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「知る」から「分かる」へ

 綺麗に平準に早く塗る。というのは左官職界では当たり前なんだろう。修行者がいる現場ではそういう話があるかもしてないが、インターネット上では見当たらない。それより多く目にした記述は「押さえ」という工程についてだ。漆喰施工最難関と名高いっぽい。

 日本の漆喰は軟らかい。原料の性質だけでない。地震大国で下地に泥土を使う事等々により、糊やスサを入れる。左官は水を塗る様なもの、の代表的と思われる漆喰は塗付時はただのクリームの様。それを平らに綺麗に、そして強固な壁にする為に締める工程を「押さえ」という。締まった壁にすると水にも強くなる、らしい。成る程、成る程。

 

 この「押さえ」について、文字や音声にて皆が口をそろえて言うのは、「難しい」「素人に出来るわけ無いだろ」「諦めろ」「馬鹿か、お前」という主旨の内容のみ。分かります、分かります。ヒビ割れと言う、初歩的な所を解決出来ていない者として安易には考えていません。ただ、どうやってやるものでしょうか。

 この解答となるような文言は、ついにお父さんには見つけられなかった。見付けるのではなく質問をするにしても、激しい罵倒が来るだろうしなぁ。

 

 よって、五回目にて実験。方法としては、塗り面が半乾状態で鏝圧を掛けて撫でる、というような事は知る。ふむ。一体、半乾状態とはどのような頃合いか、鏝圧はどれぐらいか、さっぱり分からないがやってみる。

 そして結果、難しいのが分かった。本職の速さと同じく、「知る」という事から「分かる」に変移した。「知る」と「分かる」は違う。

 

 「押さえ」が下手な事による一つの問題は、テカリ斑が出来るという事らしい。乾き気味の漆喰表面に鏝圧を掛けると、理屈は省略するがテカテカする。一方、乾いていない表面に同じ事をすると、材が動いてしまったり押し出されて浮いてしまったり。

f:id:kaokudensyou:20170528115753j:plain←テカリ斑

 

 ならば、まだ乾いていないグジュグジュの所が乾いたら全体を押さえ始めれば良いのか。とはならない。そうすると、乾き気味だったところは硬くなっていたりする。そんな所に「押さえ」は効かず、何なら削ってしまう。

 ならば、乾いた所から順に「押さえ」ればいいんじゃないか。ともならない。そんな部分部分で押さえても綺麗にはならない。何なら壁面が凸凹してしまう。

 ならば、そもそも「押さえ」なんかしないでいいんじゃないか。ともならない。面が粗くなる。表面強度を無視し、粗さも表情と捉えるのなら、水が掛かるわけでもない内壁ならアリかもしれないが、さてどうなんだろう。

f:id:kaokudensyou:20170528115951j:plain←乾き斑

 

 鏝圧をどれぐらいにすれば良いか、という謎。乾き具合の良い頃合いはどれ程か、という謎。それら以前に、乾き斑をどうすれば良いのか謎。全くお手上げ。新建材にシーラー塗布なら全体的なのかもしれないが、土下地ではどうする事も出来ないのではないか。さっぱり分からない。確かに、素人がどうこう出来る範疇にはなさそうだ、という事が大いに「分かる」。

 

客観視点

■同第五回目:同甲面

〇主目的

・糊の追加調合による検証

・本職用中塗り鏝、及び仕上鏝の使い処検証

・動画撮影による検証

・「押さえ」実験

〇施工方法

・砂漆喰による下塗り(本職用中塗鏝)、及び漆喰による重塗り(同左、仕上鏝)

・「押さえ」三回(仕上鏝)

・他、四回目と同様

〇所要時間

・各塗り毎に凡そ14分強

・「押さえ」は非計測。

 

 左官の悩み処は数知れず。材配合は基より。ヒビが劇的に減ったのは、糊を初期値から倍量させたからに違いない、と判断。よって、引き続き配合増加にて試みて行く。

 道具についてもそう。砂漆喰塗りには、中塗鏝かを使っている動画ばかりの中、仕上鏝っぽいのを使っている物があった。漆喰塗りでは、中塗鏝か上塗鏝かを使っているものがあれば、仕上鏝っぽいのを使っているものがあったり。鏝の種類を書いたが、それらが正解か分からない。中塗鏝と思っても上塗鏝かもしれない。中塗鏝と上塗鏝の違いもそもそも知らないし。

 

 お父さんの知る限り、中塗鏝はバリバリ塗られる。下土の水引きと闘いながらの砂漆喰には良い。上塗りにとなると、力が伝わり易い中塗鏝だと漆喰厚に影響を与えやすく感じた。塗り厚加減能力が覚束ないお父さんとしては、市販で普通の仕上鏝で上塗りをしてみる。この仕上鏝は材へ力が伝わり難くい為、材の上で浮いている感じがある。思わず下塗りが見える中塗鏝より安心だ、とやってみた。

f:id:kaokudensyou:20170528114610j:plain←塗厚成功例

 

 また、本施工初の動画撮影を行った。これを投稿して世界の皆さまコンニチワ、とする為ではなく自分で検証する為。動画で観る本職の鏝動きの早さと、自身の腕の先にある鏝動きの早さ。これらの違いがまだ分かってなさそうで、依然所要時間には大差がある。この解を得たかったのだ。

 

 前回も今回も塗り速さを意識した。脚立の上でお父さんなりに目と手を素早く動かしていたつもり。だけども、本職動画との違いは歴然。まぁ、我ながら何とものっそりした手の動き。無駄な動きも多いし、動き自体も小さかったり。お肉のついた背中や肌艶や毛髪から、自分は本当にオッサンになったんだというオマケ付きで物悲しくなってきた。

 違いの自覚が出来なかったのは恐らく、視点と対象物との距離による錯覚だ。高度1万m上空の飛行機の速さは分からず、数十cm先の鏡の中で表面しか見えない日々見慣れた自分の年齢変化も分からない。しかし、上空程速く無い離着陸の時でさえ飛行機が至近だと高速度が分かり、何十年かぶりに客観視点による自己の背中姿を見ると歳を感じる。多分、これだ。

f:id:kaokudensyou:20170528114619j:plain←客観視点から撮影

 

 本職の数倍の時間を要しているにも関わらず、お父さんの目は鏝の動きに付いて行くだけで一杯一杯。鏝の次の動きの方にまで目が行っていない。しかし、目線が先に行った時でも鏝自体が追い付かなかったりする。結果、鏝の動きが止まったり迷ったりする。鏝から伝わる感触を頼りに手が目を補えたりするのかな。そうすると、目は視界に入る壁全体を捉える事を主と出来て、良くなるような気がするんだがどうだろう。

 って、お父さんはどこに向かってんだ。