家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

裸の施主施工者様

 本道の方の電気工事は、我ながら何とも心許ない内容となった。 

 南側薄壁の厚さに比べてPF管が太くて一部使えない。よって、その間は細い塩ビ管を使う事にした。この固定がまたもやビス挟み留め。手で軽く動かそうとしても大丈夫そうだが、電線交換時に電線を引っこ抜いた時はどうだろう。

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 また、PF管と塩ビ管の接続が出来なかった。どちらも樹脂だし持ち合わせの接着剤で大丈夫だろう、と思っていたがそうではなかった。そこで、ビニールテープを巻く。そして、PF管が壁内で極力暴れないように針金で括ってみた。あぁ、怪しい。合間作業だし、後日考えてみよう。

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 そんなこんなで、一応は一定の状態まで完成。配線計画の不備による電線管問題は解決させず、南側薄壁を斜め壁としちゃった。そんな恥ずかしい体たらく具合は写真に残さない。合間合間と書きながら総じて三人工は要しただろうか。

 

 ちなみにこの後日、お母さんのお母さん、二人にとってはおばあちゃんが来訪。

 この以前の来訪時、例の元奥の間周囲の小壁に対し、何か手を加えるのかという質問を受けていた。梁束梁貫板のみ設置時であり、土をまだ塗っていなかった時だ。お父さんは、「はい、勿論」と返答。再来訪時には、小壁は漉した中塗土の塗りが始まっており一部は完成していた。おばあちゃんが気にした事から、お父さんはその旨をおばあちゃんに告げるも、何故か特に返事も反応もなかった。

 しかし、おばあちゃんはその直後、当該壁に施工上必要で仮留めしてビスが見えているにも関わらず、石膏ボードを見て言い放つ、「綺麗に塗れてるなぁ」と。

 

 お父さんはつい驚きの声を上げてしまう。悪口等に敏感なお母さんもすぐ気付く。お父さんの左官壁の事は流して、石膏ボードの綺麗さは褒めた事を。

 空気を悪くしない様、お父さんもお母さんも笑い話的変換反応をすぐさま執る。ただ、それによるおばあちゃんの反応がどうだったか、お父さんは記憶が無い。ショック過ぎて。

 

 文字だけだと、おばあちゃんは凄い嫌味を言い放つ人のように読めるかもしれない。

 しかし、そういう人では無い。おばあちゃんは、人を傷つけるような言動等を取ってしまう事は確かに間々あるのだが、悪気はなかったりする。まるで子供のような所もある。しかも、この事に限って言うと、老眼によるものも影響していると思う。また、おばあちゃんにとって壁とは、石膏ボードのような平準で一様な無表情の物が普通なのだ。

 

 お父さんが衝撃を受けたのは、お父さんの左官技術がやっぱり低い事は勿論、妥協をしている事を知らしめられたからだ。

 お母さんは、施主施工者に有りがちな「素人だからこれで十分だろう」というような甘い見方をする。お父さんが難儀している事を知っているから尚更だろう、「十分綺麗じゃないの」と言う。お父さんはお父さんで、高品質を目指して独り善がりになりながらも、特に左官に関しては限界を感じて「これで良し」とこれまたよく有りがちな妥協もし出してきた。

 

 左官に関わらず、所詮お父さんは本職の足元にも及ばす、素人の中でも大した事が無いレベル。他者は思っていても言わない、自分でも目を瞑っている。目を瞑らないと進めない事が多いので深く考えないように努める事にした。

 そんな状態のお父さんが、一般的で傍観者で普通の視点を持つおばあちゃんに突かれたのだ。これは結構堪えた。これが現実か。

 

お母さん、案を出す。

 書き忘れがあった。柱を建てる前、鴨居の建具の溝の一部を埋めてみた。

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 これは、鉋掛けした棒をただ溝に嵌め込んだだけ。軽く接着剤を付けたかもしれない。

 この溝は矩形ではない事から矩形の棒は入らない。ならば、見え掛かり部だけで良し、という事で棒はふかして入れている。棒と鴨居下面とが面一になるように、溝にビス打ちしてふかし具合調整。合間作業感の強さから、ちょっとだけの事に古色を出すのが非常に億劫。古色は後から塗る事にした。

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 で。壁の木組を行うわけだが。

 南側の薄壁もそうだけど、北側の壁厚を決定しないといけない。その為、電材片手に設計作業。ああでも無い、こうでも無いで出た寸法は仕上材を除いて凡そ103㎜。この壁用に発注済の胴縁材巾は、60㎜。石膏ボードは、ダイニング側は12.5㎜でトイレ側は9.5㎜物を使用する設計。21㎜不足。このままだと電材のボックスが入らない。

 施工図無しの木材発注により、ちょいちょいこういう事が起こる。仕方なし。ここも解体材から製材して軸組をふかす事にした。

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 さて、この北側壁にテレビを壁掛けにて設置すると書いた。その為に、壁を凹ませてコンセント等を設置するので厚みを要する。

 壁を凹ませる面倒を行うのは、テレビ等の配線が煩わしいから。壁掛けだから尚更で、配線をこの凹みに入れてしまおう、という算段。コンセント等を凹みの上部に設けるのは、凹み正面には設置できない事と、下部設置で埃が溜まると危ないから。

 

 こういう手間を掛ける事に対し、お母さんから提案があった。

 当壁の下方に普通のコンセントを設けようと電線管孔を開けており、その旨をお母さんに話したのだ。すると、折角スッキリさせた壁にするのなら、その壁下方のコンセントは無い方がいいんじゃないか、と。

 過去や今回の設計施工において、お母さんから能動的かつ建設的提案が出てくる事は非常に稀有な事。もしかして初めてかもしれない、という程。目の前に具体的に見えてくると違うのかな。

 

 良案という事もあり、これは採用する以外有り得ない。ダイニング用コンセントは別場所にて別途検討する事になる。そんなわけで胴縁材の孔は、我が家の歴史的出来事の名残である。

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配線計画が無い事のツケ

 現場置き建材消費を進めて行く。目下の所、使い易くて邪魔なのは胴縁材。よし、壁を造ろう。そう思って始めたものの、合間作業としてはややこしい壁。

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 ダイニングとトイレを仕切る当壁の北側は、壁掛けテレビ設置予定箇所。電源供給と電波供給が必要。南側は、LDKと奥玄関廊下を仕切る引戸が収まる薄壁。これら造作に手間が掛かりそう。

 さらに、元々全て引戸だった場所こともあり差鴨居と框敷居があり、それぞれがとても太い。よって、配線を壁上下どちらかからするならば、孔を開けないといけないがそれは勿体無いから避けたい。

 となると、トイレ内に造作予定である二階用上下水道管と電線を通すEPSが南側壁に接するので、これを使う事にする。そうなると、薄い南側壁にPF管を通し、南北壁を仕切る間柱を渡る必要がある。あぁ、難題。

 

 さらにさらに、検討中に問題発覚。一年以上前に建てたトイレ廻りの五本柱の一本であり、先述の差鴨居と框敷居に挟まったように設置して当壁に絡む柱。南側薄壁の厚さに影響するこの柱が、差鴨居と框敷居への入り込み具合がどうにも寸足らず。

 

 原因追及。

 まず、差鴨居と框敷居の断面位置具合にズレがあるっぽい。こういう家屋だから致し方が無い。

 さらに、これが決定的だが、配線計画が無い状態での設計施工。引戸が収まる事だけを考えて、PF管を収める事までは考えておらず。致し方が無いとは言えない大失敗。

 結果、落ち込み度120%、思考停止モード突入。この間の微糖コーヒーと煙草と時間の消費が止めどないので強制再起動、遣りながら考える強行施工を決定。

 

 まずは、南北壁を仕切る間柱確保。

 在庫は一本だけある。母屋二階用に一年以上前から現場に入っている、四寸角の短尺荒仕上で二面上小節の良柱。お値段、凡そ4千円半ば。これを使う気満々だったが、材を見ながらふと考える。必要なのは三寸角程度。日頃見える面は西面のダイニング側だけ。北面は北側壁となり、東側は既存柱で隠れ、南側は見える事は見えても引戸を閉めた時だけ。勿体ないよな。

 

 という事で、電材品探しついでにホームセンター材を物色してみる。

 ホームセンターにある角材なんてものは、製材品質がイマイチ、寸法精度もイマイチ、曲がっている、汚い、節だらけ、割れがある等々、とても化粧材には使えない物ばかり。だけど、製材所よりも高い。仕方が無い、経済構造からしてそういうもんだ。

 だけどもあった。山積みされていた角材を一本一本発掘してみると、条件に適う物があった。樹種は目当てのスギではなくヒノキだけど。当柱の条件が低い事からもしや、と思っての事ながら探してみるもんだ。お値段はイチキュッパッ。端材が結構出るのでお値段以上。落ち込み度50%に低減。

 人工乾燥バリバリで背割無しだったので背割りを入れて、電線管孔を設けて、鉋掛けして、イモ留めビス打ちにて設置。

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隠蔽工作

 土壁に隠蔽配線。これは後から不可能。

 既存土壁内配線方法は金属管埋設。これは入居時点で全て廃線となっており、金属管内の布被覆配線は引っこ抜く事さえ出来ない物が多かった。よって、後年の家人はビニール電線の露出配線を選択したわけだな。これを選択しない場合は、やはり金属管か樹脂管を露出させるしかなかっただろう。その意義は低くそうなので、費用対効果から電線露出は仕方が無い。だが、お父さんとしてはこの二の轍を踏みたくない。

 

 よって、将来の電線や通信線交換に対応する。

 本施工にて電線等は一新する予定。基本は、人が入られる床下や天井裏に露出線として各部に配していく。そこから居室に向けては、壁内に電線管を設置してその中に配線する。

 新設壁を原則土壁にしない事は、おじいちゃん建築士から予算面でそうすべきとされていた。その後も変更しなかった理由の一つはこの配線の為。土壁よりも中が空洞の木軸石膏ボード壁の方が、電気工事面でも手間や費用の面から都合が良いとも判断した。

 ちなみに、床下や天井裏に管を使わないのは節約の為。

 

 また、どうしても隠蔽できない所は、古色系の割高カラー電線を使用する。

 隠蔽不可の最たる箇所は、母屋一階天井照明用電線。既存の配線法は、本施工レベル以上にそれはそれは家屋解体をしないと交換出来ないような方法。本職ならもしかして出来るのかもしれないが。古くなったせいなのか布被覆電線は、ビニール電線より硬いので本職でさえも無理かも。内部の通電金属は見た目からして銅っぽくないし。

 こんな事が将来の子孫に起きる事を避ける為これを最優先、隠蔽を次優先とした。

 

 そんな方針だけは決まっていたが、具体的な配線箇所は漠然としたまま。設計段階でそれら仔細までを詰めておく事は事実上不可で、そもそも照明器具の種類や設置場所も決められないまま来ているから尚更。

 よって、施工しながら必要に応じて考えざるを得ない。そのような事から、漆喰塗りに入る予定のキッチンの照明をお母さんと緊急検討の上、決定させた次第。

 

 照明や実際の配線等々は後日として、実行した電線管設置の事だけを書いておこう。

 どう考えてみても、キッチンと食品庫との壁となる既存土壁を貫通させないといけない厄介さ。それを踏まえて押入れ解体をしたのは良いものの、キッチン側引込み部からしてさらに天井板を破壊。

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 当該部の土壁も破壊したりする。

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 見える位置であるキッチン台上方照明用電線貫通部は細い塩ビ管として、それをビスで固定。その塩ビ管にPF管と言う蛇腹の樹脂管を接続。

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 キッチン室全体照明用電線貫通部は、キッチン反対側が手が届かない所。手が届く為には、諸々破壊しないといけないので嫌。よって、見えない位置だからとPF管をそのまま貫通させる。

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 こんな具合で果たしてメンテナンス対策になっているのだろうか。素人電気工事士には皆目不明だけど。

 

能書き不要な事はある

 中塗実験乾燥待ち中や、中塗の漉し土の沈殿乾燥中等には他の作業を行う。一つは解体。元現場事務所であり、新規キッチン奥の食品庫予定地の押入れ。また、元北側縁側縁甲板と根太撤去。

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 これら何てことない作業だけども、以前から少し不思議に思っていたのは二人の興味具合。事故防止は勿論、解体材流用時等の道具破損防止の観点から、お父さんは解体後直ぐに釘等を除去するように努めている。その現場にたまたま居合わせると二人共、特にりょうすけは釘抜きへの意欲が高い。

 

 きょうこぐらい大きくなっているならまだしも、りょうすけに至ってはまだ箸も上手く持てず、洗髪も大便後の拭き取りも自分ではイマイチ出来ない幼さなのに、金槌と釘抜きを一丁前に扱おうとする。他の作業手伝いだと根気が続かない事が殆どながら、これだけは違う。釘打ちなら分かるのだが。新鮮さなのか何なのか。まぁ、能書き不要なんだろうな。

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 さて、後回しになっていた当箇所、特に新規キッチン奥の解体着手。何も暇を持て余したからとかでは無く、次の工程である漆喰塗りに係る準備の為である。具体的には、土壁貫通配線管設置。本施工において多大な影響を与えている配線方針について、今までちゃんと書いていないと多分思う。ここで触れておこう。

 

 配線方針、それは隠蔽する事。書けば簡単ながら、これがどうも難しそうなんだな。

 

 この家の購入前の初内見に来た際に思った事の一つ、「後施工の灰色ビニール電線の露出がしまくっていてみっともない」。露出しているだけでなく、天井の隅っこでの結線まで見える。購入検討中、もし改修工事を断念するとしても配線隠蔽工事だけは最低限やりたい、とまで思っていた。

 

 何故みっともないと思うのか。何故それほど嫌なのか。言うなれば、理由は無い。瓦や木部にコーキング等と同じ。無理矢理それっぽく言ってみると、一次素材で数百年単位素材である木や土等に、三次素材で数十年単位素材のビニール、しかもグニャグニャした線状の物が目立っているのは生物的に違和感を持つんじゃないのか。京都の寺社や町屋の景観から電信柱を無くそう、という人達も多い事からお父さんはきっと多数派だ。

 

 ただ、百年単位設計施工をするようになってからは、ちょっと違う見方も持つようなった。

 百数十年前の京都の人達は、電気が開通していく際に景観の事をどうこう言っていたのだろうか。言っていた人がいても少数派、大多数は電信柱と電線によって文明開化を体感したりしてたんじゃなかろうか。コンクリート製電信柱は景観の邪魔とする現代人でも、田園地帯に木製電信柱ならどうか。プラモデルみたいな現代住宅では隠蔽配線が当然としながら、古民家カフェに布被覆線と碍子の露出配線をされていたらどうか。

 結局の所、目新しさとか新鮮さとかノスタルジーとか、流行りや時代によって変わる感覚なのかな、なんて思ったりもする。

 

 と、そんな能書きを垂れてみても、百年後ではなく21世紀に生きているお父さんは、断固として出来得る限り隠蔽配線をするのだ。