家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「漆の硬化条件」と「漆塗りの作業条件」

 三回目捨て塗り前に立ち止まってみる、起承転結の「転」にすべく。

 

 まずは、目指すべく鏡面仕上げになりそうな下地状態に近づいているのか否か。

 鉋で真っ平は一応目指してみた。「木目」の目に当たる年輪箇所と、それに挟まれた身の箇所、これら共に平らになっているはず。ならば、漆を塗った今はどうかと言うと、何だか縞模様。これはどう解釈すれば良いのだろう。身には漆が吸われたが、目には漆は吸われず盛り上ったのか。一回目捨て塗り表面だけの木口を見ても吸われ方は均一じゃなかったしな。これなら諦めが付く。砥ぎ作業での何かしらの要因でなら由々しき事態。どっちなのか、どうなのか。分からん。

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 次、鉋で剥いだ箇所は生漆だけで埋まるのか。

 これ程の粘性がある塗料なら、塗り重ねて行ったら埋まって来るんじゃないか、と他材で埋めずに二回目塗りまで来た。少なくとも本堅地塗りだと、最初の塗りである木地固めの次工程にて埋めるようだ。結果は、埋まりかけている所と全くその気配を感じない所とまばら。これは仕方が無い、深さに依るのだろうから。後に埋めるさ。

 

 さて、最も大事と考える所。捨て塗りの目的は木地を固める事と導管の目留めをする事。漆が木地に吸われる事でこれが実現する。お父さんの解釈はこうだ。

 では、漆は順調に吸われているのか。近づいて見てみる。よく分からん。木地に吸われていると言えばそう見えるし、表面に載っているだけと言えばそう見えるし。もっと近づいて見てみる。と、全部埋まってないやんかっ。600gも漆を使ったのにっ。複数箇所にて発見。

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 ここで本当に手を止めて立ち止まる。頭だけは動かしてみる。

 

 漆が「吸われる」という表現は度々目にしてきた。これは、水のようにでは無いのかもしれない。水は確かに吸い込まれるように表面から無くなった。漆はどうなんだ。導管を固形物のように「通る」という感じになのだろうか。こうなると非常に厳しい。埋まっていない導管の反対側が既に蓋をされた状態ならば、いくら摺り込んでも導管内の空気が抜けずに「通らない」のではなかろうか。良くて、導管に「蓋をする」だけにならないのだろうか。これがあるから、強く摺り込む旨を師匠は書かれていたのか。

 師匠に聞きたい。だけど本当の師匠じゃない。一読者として尋ねてみるか。いや、勝手に弟子入りした後ろめたさが。そんな、そこそこの葛藤実施。

 

 師曰く、「作業前に工房のエアコンを入れる」。

 師匠のサイトを回想。暑過ぎる日等には師匠はそうされているようだ。それでもコテコテになる時があると。漆塗布後は木地への吸込みの為にしばし猶予を持たせ、その後はヘラでこそぎ落とす。しかし、コテコテ状態ではほとんど取れないと。ここまではお父さんと同じ。砥ぐのは大変だがこれで木地がより強くなる。そのように問題視していない文言があり、その文言があったのでお父さんは立ち止まらず進んで来た。

 

 しかし待てよ、師匠の工房はこの家よりもかなりの山奥っぽい。プレハブっぽくて暑くなりそうな建物だったが、漆硬化温度程には至っていないだろう時間帯から室温を下げられていた。そう言えば、配慮がある方の漆屋さんがメールに書いてくれていた。「この時期は漆の乾きが一気に早くなり、色が暗くなったり縮みにかなり気を使う。余裕があれば雨の日は塗らない等の工夫が必要かと。」

 「梅雨期だから漆風呂が無くても漆作業には最適期ですね。素人の割には計画的です。」ぐらいの褒めてもらえる内容であってもおかしくないはず。なのに助言とは真逆的内容。他、この漆屋さんのサイトの購入者の方の書き込みにも、乾きが早すぎて等々の文言があった事を思い出す。

 

 古民家先輩との会話でこの温度等硬化条件の話は度々出て来た。床漆を諦めその後復活したのは、結果的にこれに振り回されたような恰好になったからだ。また、塗布施工中にも灯油ストーブを炊く等されていた。古民家先輩の塗布期はほぼ冬。いくらMR漆でも自然硬化は不可らしき上、工期的都合もあった。よって、嘔吐気味状態のお父さんにも同じく狭い密閉空間で灯油ストーブを炊くように申し付けられた。嘔吐本格化により勘弁してもらったけど。

 一方で当施工は、硬化条件が整う季節は梅雨頃でここをターゲットにしていた。硬化条件下と作業条件下が完全同一になる。

 

 これらに何の疑問も抱かずに来た。よくよく考えると、漆の硬化条件温度等はあくまで硬化の為、作業中はまた別の話ではなかろうか。硬化条件下で作業をするという事は、漆風呂内で作業をするようなもんか。これについてわざわざ特段書かれた記述の存在は記憶が無い。これがお父さんの盲点かつ問題になっていたのではなかろうか。

 もしそうならばだ。生漆が木地に吸いこまれたり摺り込まれる前の時点で、何となくではなく本当に本格硬化開始。コテコテになった、だけで済んでいないのではないか。故に、木地か漆の能動的吸込みがあまり起こらなかったとかか。そうなると、刷毛による摺り込みだけでは導管に「通す」事が出来ない箇所には薄い蓋程度の塗着となり、砥ぎ作業で薄蓋は無くなって導管開放と相成ったのか。

 

 これ、正解じゃないのか。その上で師匠は良しとされているのか。謎が解けたかという事よりも、厄介な上に対処法不明の問題点が見つかったようで嬉しくない。漆屋さんにはお礼のメールはしたけども。