家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

お母さんは「MR」ではない

 そして最後の「MR」。医薬情報担当者の事でもなければお母さんの事でもない。お母さんはARであり、ここでの「MR」とは「MR透漆」の事。この説明をついでにしておく。

 

 漆の名称にアルファベットとは違和感ありまくりだが、偽漆ではない。近年出てきた透漆らしい。生漆の精製過程が普通の透漆とは違うようだ。ざっくり書いておくと、普通の透漆よりも漆酵素など含有成分を機械にて細かくし成分の分散具合を高め、かつ含水量は減らしたもの、らしい。

  この加工により耐候性が上がった、らしい。漆の弱点、紫外線への耐性が高まったとなると使用範囲は広がるんじゃなかろうか。自転車に塗っておられた方がいたぞ。また、硬度も上がった、らしい。漆の光沢度も上がった、らしい。熱による変色もしにくい、らしい。

 そして、硬化の条件が緩くて時間も早い、らしい。普通の漆だと湿度60%以下では硬化が困難らしく、その上で温度20度を切ると硬化しないっぽい。MRの場合はこれが大丈夫だとか。このMRをも上回る漆もあるようで、それだと普通の油性塗料を超えるんじゃなかろうか。もう何だか凄過ぎる機能性漆だな、これ。斜陽の漆業界において救世主になるか期待する所。

 

 施工期が冬季になるにも関わらず古民家先輩が床漆仕上げを復活させたのは、このMR漆の存在による所が大らしい。土壁家屋が故に湿度確保は難しい。よって、灯油ストーブを用いて室温を上げただけだと思うが、それでも硬化を実現させているらしい。

 また、彼の床板の色が明る目なのは彼が意図したわけではなく、使用出来るのがこの明るい色の透漆のみだった事からだとお父さんは推測している。

 

 漆実験にこの漆を含んでいるのは、当然に本施工でも使用を検討している為。但し、その理由は硬化条件問題ではない。

 まず、予算問題。支那産漆を使ったMR漆は、同じ支那産生漆よりも高価。平成28年現在にて6割以上高い。産地以前に透漆自体が生漆よりも高価だが、同じ産地の透漆同士でもMR漆の方がちょいと高価。そんな高価なMR漆で全て賄うと大変。そもそも摺漆は生漆を使う。言い換えると、摺漆は生漆で仕上げても構わない技法と言えるのかもしれない。当然にお父さんは生漆を使いたいわけで、だからこそ梅雨期施工を目指していた。

 

 予算と絡んでの色目と艶問題がある。

 古民家先輩から頂いた床板端材サンプル材種はアカマツ。仕上げは超カンナだったと記憶している。材種は杉で仕上げはお父さん鉋の足場板サンプルの方が、同じMR漆でも少し暗い。

 色に関してはこれぐらいの暗さでも良し。しかし、艶は同じ三回塗り程度だと足場板の方が結構弱い。硬化時の温度や湿度によっても違うらしいが、材の漆吸込み具合が足場板の方が多いのかもしれない。よって、必要量が増えるかもしれない。増やした所で良い具合になるかは不明ながら。

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 そんな事から本施工においてMR漆は、最終コーティング塗膜として使用を検討する。これは、大量使用となる塗りの初期段階では安めの生漆を用いて色目と艶感と木地強度等を得て、表面のMR漆にて耐候性と耐摩耗性を上げるという目論見。ここまで検討したり漆の使い分けを考えたりするぐらいなら、いっそウレタンでもいいんじゃないか、なんて今更考えないようにする。さて、どうなる事やら。