家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

自然素材家屋施主施工の一つの盲点

<自然素材家屋での○×違い>

 古民家先輩邸にて中塗り施工をされた探検さんから、水引きについて散々ご助言を頂いていた。この事でだいぶビビッていたお父さんだが、蓋を開けてみるとさほど手こずらなかった。これは、水引き対策兵器が功を奏したのではないか。それにもしやお父さんは、古民家先輩や探検さんよりも左官能力が高くて上手くこなせているのかもな。

 

 とほくそ笑んでいたがよくよく思い出すと、確か古民家先輩の方が塗り速度はお父さんより上回っておられたはず。探検さんにしても、本土壁経験ではお父さんに負けておられても、左官経験自体は遥かに勝っておられるはず。お父さんより上手くないし手が遅い、という事は考えにく過ぎる。後日の探検さんの生施工拝見時にそれは確定した。さらに、水打ち量をお父さんより気にされている古民家先輩の方が結果的にその水量が多かった。

 お父さんよりも早い施工速度と量が多い水打ち。だけども「水引きが大変だよ」とのご助言。一方、さほど塗り速度が早くなく、道具も良く無く、水打ち量が少なかったお父さんは水引き苦悩はあまりなかった。これは何故だろうかと気になっていた。お父さんが考るに水引き量で思い付いた事と通ずる、要は「現場違い」があるのではなかろうか。

 

 古民家先輩邸訪問時に教えて頂いた事で、土地による「土(泥)」の違いというものがある。古民家先輩邸地域で採取される土材は、古民家先輩邸が建てられた頃の物とは違うとの事。そしてこの違いは、色合いの差で出てきたとの事。

 この家の土色と比較すると結構な濃渋色であり、まるで顔料を入れられたかと思われる出来合い。お父さん個人的にはこの家の中塗土色より好みだ。もしこれと同色仕上げイメージをしたお父さんがご助言を請うたとしても、こちらの土色をご存知ない古民家先輩は「顔料を使え」とはおっしゃらないかもしれない。で、やってみると完全に思惑外れた色の壁が出来上がりだ。

 

 これが油性塗料とか、石灰色である白漆喰への着色だとかの話なら簡単だ。油性塗料なら色番号、漆喰なら顔料色の教示をしてくれるだろう。左官についても、下地が合板なり石膏ボードなりの規格新建材への施工についてなら、日本全国の施工者同士で話が通じるかと思われる。しかし、自然素材建材だとそうはいかない場合があるようだ。

 探検さんや古民家先輩が土壁施工同士だからと考えられたとして、古民家先輩邸現場の条件でお父さんへ助言されるのは致し方が無い。そこしかご存知ないはずだからだ。自然素材が主の自宅と、少なからず知る古民家先輩邸の二現場を比較出来る立場のお父さんが、ようやく左官施工途中でそこに思いが至るぐらいだし。それまではお父さん自身も同じ物として読み聞きしていた。

 

 三人寄っても所詮素人なんだからそもそも仕方が無い。とは言い切れない。玄人にだってこれはあるからだ。

 伝統構法も在来工法も数多く手掛けられるような職人の方であれば、それはそれは引き出しが多いだろう。こういう方なら、それぞれの条件への対応力をお持ちだと思う。しかし、現在はそうでない玄人の方が大半。在来工法現場に絞ってみても、一つか二つかの引き出ししかない方が結構おられる。そのような方の中には、誤魔化しや虚偽、批判的否定をする等をして、引き出しを持っていない自分を正当化するという方がいる。そんな変てこプライドを持たない分、素人の方が正直で素直だぞ。

 

 新建材が主の在来工法以上に、自然素材相手の伝統構法施工では「現場違い」という事を踏まえておいた方が良いと思う。道具や建材や施工法等を調べたり、それらについて助言を受けたり等をする際、これを踏まえておかないと遠回りをしたり失敗する事がある。

 この家の施工においてこの手記でさえも、どこまで役立つかは分からない。土壁で言うならば、将来にどうこうするとなると、石膏ボード壁からの造替えや地震等の破壊による造直し等の新造かもしれない。そうなると本内容が違ってくる所が出てくるはずだ。

 「現場違い」を踏まえる為には、自分の現場条件の事、自分の施工方法の事等を理解しておく必要がある。まずは己を知れ、だ。それがある事で他者との違いが分かり、初めて己に取り入れる事、真似たり学ぶ事を取捨選択出来ると思う。

 

 以上、お父さんだけではない盲点かと思い、そして自然素材家屋施主施工に限らず何にでも共通する事柄だとも思うので敢えて書いた次第。