家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

軟弱男と怨念女の釘打ち

 さて、床組に関連した事でもう一つ。

 大引兼根太は刻んで組んでいるが、その他の大引や根太は金物留めにしている。揺れに対する「しなり」や「うねり」を鑑みると全部釘にしたかった所だけども、ビスもそこそこ使った。釘が非常に打ちにくい箇所もそう。解体材で曲がっている物を矯正しながら組む為の箇所もそう。材と材を引き付け合わせたい箇所もそう。

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 それ以外は、極力釘を使用した。ところで、とあるご高齢の工務店社長から、今時の大工は釘もろくに打てないと聞いた事がある。

 お父さんも使った事があるし本工事で買おうかな、と思っていた釘打ち機という物がある。大体の在来工法大工職は持っておられるのではなかろうか。この機械によって、すっかり釘を手打ちする機会が減ったのだろう。

 しかし、お父さんだって今まで百や千やとしてきた釘打ち。腐っても本職だろうに上手じゃない人間がいるとは。そう言えば、数十年前の賃貸住まいの際に、お父さんが自分で蛇口のパッキンを替えたら感心された。今時は、替えられない、替えようとしない人が多いらしい。すぐに大家等に頼ったり、数千円かを支払って業者に来てもらうのだとか。現代の男と大工の劣化具合に驚き嘆く。

 

 で、やっていると釘が曲がる曲がる。大工職なのに下手なのはやはり容認出来ないが、その他の人の事は言えない。

 床組で使用した釘の最大は4寸。少し斜め打ちを要する箇所になった途端、釘を曲げてしまう確率が急上昇。これほど失敗し続けた記憶が無い。今時の、若しくはホームセンター品の釘は安物低品質なのか、と一瞬思う。自分の所為ではなく部材の所為。しかし、釘が軟らかいという事は鉄純度が高いという事かと思う。寧ろ、安物ならそれは無いような。

 よくよく考えると、お父さんの釘経験値なんてもののほとんどはもっと短くて細い物ばかりだ。とあるご高齢の工務店社長が言っていたのは、恐らく太くて長い釘の話だ。きっとそうだ、そうだったんだ。本職と言えども経験値を積んでなければ、そりゃ素人同然のはずだわ。

 

 束と大引の結束に釘。垂直に立つ束に対して水平の大引。どうしても下からの斜め打ちを束一本当たり釘は最低2本。曲がる釘。曲がらなくとも木が割れる。なかなか捗らない。と言ってビスに逃げたくはない。

 そこで取った手段は下穴開け。錐を付けたインパクトで下穴をある程度開けておく。下穴を開ける事で釘の効きが多少は低下するかもしれない。それよりも軟弱者な感じがする。本職がこれをしていたら冷めた眼差しを送ってしまいそう。本職ではないお父さんなら許されるかもしれない。だけども、何だか軟弱。

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 この敗北感を味わう代償として釘打ち成功率は100%に。

 呪う相手を藁で作った人形に見立て、それを木に釘で打ち付ける。真夜中に死装束をまとって髪を振り乱した女性がそれを行うのがお決まり。お父さんが若人の時、この描写はドラマや映画や漫画等でよく目にした、誰しもが知るような有名なものだ。昨今ではすっかり見なくなった。

 これに使われる釘は何故か決まって5寸釘。うら若き乙女だろうが老婆だろうが、生木に5寸もの釘を全部じゃなくとも打ち込むのだ。女の怨念とは何とも凄まじい。