家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

綿とコンニャクで壁造り

 新建材下地への漆喰施工。巷の施主施工で然程珍しくなさそうな施工。もっと言うと、土壁下地に比べて素人でも出来る屁でもない施工。もしそうなら良いな、という期待を持って石膏ボードへの漆喰施工を行う。施工場所は、階段が通っていた所に設けた石膏ボード壁。

 

 紙が貼られた石膏ボードに漆喰を塗る。これは厳に慎むようにと石膏ボードメーカーは言う。漆喰の強アルカリ性により、石膏に貼られた紙そのものか、その紙を貼り付けている糊かの劣化が起こる、と解釈。表面がつるつるの石膏ボードのような建材には、当然ながら塗った漆喰が剥がれてしまわないような措置が必要。

 という事で、シーラーやらプライマーやらを塗らないといけないらしい。先生のDVDでも、それに触れられていなかったが砂漆喰前にザラザラしていそうな材が塗られていた。

 お父さんが採ったのは寒冷紗貼工法。漆喰選定時、自然素材押しの業者の推奨をそのまま鵜呑みにした。これで問題無しとの事で特に深く考えず、ただ予算の事だけは考えて、割高なその業者の物は避けて専業製造業者に別途発注。

 

 さて、この寒冷紗を下地壁に貼り付ける材についても、件の漆喰業者の推奨のまま決定。それはコンニャク糊。これは流石にお父さんなりに考えてみた。だって、コンニャクだもの。食材のイメージしか無い。

 

 壁が石膏ボード故に吸放湿性は無視。接着性能に関する事が気になる所。

 性能自体は、コンニャク糊でも十分かと想像。お父さんは今回の事で初めて知ったが、コンニャク糊も昔ながらの接着剤の一つだったらしい。電子顕微鏡画像を見てみたら、材に浸透した上に膜を張っている。これを観たから、土壁水引き対策に使うと吸湿性に支障が出ると判断した。漆喰の強アルカリ性が接着剤の性能に影響する事が問題視されたりもするようだが、コンニャクアルカリ性なので問題無いだろうとも判断。

 寿命に関しては分からん。コンニャクは繊維質の塊と認識しているが、ならばそうそう朽ちるもんでは無いのではないか。と言うかそもそも石膏ボード下地壁なんだから、考えるだけ無駄だと決着。

 

「藁スサ入り泥土」とは違う「麻スサ入り漆喰」攪拌

 付鴨居設置により一枚高壁を二枚壁にする事に成功。狭い場所で足場を工夫しながら四苦八苦して漆喰施工を実施。まぁまぁ許容範囲の出来上がり。

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 と思った矢先、またもやヒビ発生。んんん、もうイヤっ!!

 既調合品である城かべ漆喰を使用する事で材料問題からは開放された、と思いきやまたもやヒビ。お父さんが思うに、気候の変化じゃないかと思う。

 以前、薪ストーブ直上垂れ壁への施工では、同漆喰に何ら追加せずにそのまま使ってもヒビが起こらなかった。砂漆喰の糊の分量を勘違いして水引きを止める効果は低かったにも関わらず、だ。時は五月初旬、気温10度代前半で湿度は50%辺り。長袖作業服を着ての頃。

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 付鴨居区切壁の施工は六月上旬。とっくに暖かくなって半袖作業季節。と言っても、砂漆喰の糊は効いているようであり、水引きをそれなりに抑えているように思われた。だけど、ヒビ。

 テレビで観たパン職人さん曰く、その日の気温と湿度を見て生地の作り方を変えると言う。流石は職人、お父さんには出来んのだろうなぁ、と思っていた。そんなに変わるもんかね、ともちょっと思っていた。しかし今、それを求められ、考えも改められた。

 

 配合実験の日々再来。学習したお父さんは、壁全面施工する前に部分的塗付けに変更。これにより、諸々の負担や材浪費は劇的に減った。しかし、漆喰施工は長らく停止。再配合と再塗付の上、乾燥待ちして結果を見る。この一実験に一日を要する。これを配合を変えながら繰り返した為。

 結局、ヒビが起こらない配合結果は、先生の本漆喰配合に結構近づいた。既調合品で安く楽をしようという目論みは減じてしまう。

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 それでも上手くいけば良しだけども、そうは問屋が卸さない。既に練った漆喰にスサと糊を追加投入する。これがどういう事を意味するか、二人には分からないかもしれない。お父さんはイマイチ分かっていなかった。

 

 スサの仕込み方は先生に倣うようにするようになっていた。DVDを観たなら分かると思うが、竹で作った道具にてスサを叩き解すんだな。練る前にもこれをし、配合実験によりスサを追加する際にもこれをする。そして、スサ材用羽根を付けた攪拌機で思いっきり攪拌。

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 だが、後投入したスサは均一になんて混ざらない。それの何が問題か、と言わんばかりキッチン南側上部壁を施工。

 すると、ものの見事に凹壁が出来た。先生は、スサの塊は水を吸っているので乾燥後に収縮する、という旨をおっしゃっていた。まさにこの事じゃなかろうか。

 パン生地の発酵が弱いからと言って、途中でイースト菌を追加するような物なのかもしれん。麻スサは勿論ながら、粉末状の糊も追加投入による攪拌は結構難儀。新規攪拌時でも、下手な投入順序や方法を行うとイマイチだったりする。それは、出来に直結したりするから悲しい。

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 ただ、ヒビは出なかった。なので、このまま見ない事にしようかと思っていた。だが、ふと視界に入る度にモヤモヤ感必至。結局、該当する漆喰を全部こそぐ事にした次第。

 これ以降、先生が短いスサにて行われていた、ポリバケツにスサを入れて網を張った上でブロワーで攪拌する方法を長短関わらず行う事にした。また、塗付時にスサ塊を見付けた際には、排除、若しくは解すように気を付ける。結果、この手の凹は見受けられない。

 

付鴨居の謎、多分解明

 周囲の中塗土や漆喰の仕上げを終えて薪ストーブを設置するのは、流石に五月中には出来るんじゃないか。そんな去年末の予定、いや、予想は大いに外れ。六月に突入したものの、中塗土再施工どころか漆喰に悪戦苦闘の日々。

 甲乙丙のヒビ残存壁に手を付ける気は毛頭なくなっている。「貧すれば鈍する」ならぬ、「疲んすれば鈍する」。素人施主施工におけるハナから妥協姿勢を揶揄していたお父さんは地に落ちた。妥協を通り越して手抜き工事だな。ならば、建材や施工法でハナから妥協した方がマシだ、と言われると反論の余地無し。ハナから自己技量に応じた妥協な皆さんは大人、と宗旨変えを考えるこの頃。

 

 だとしても、何が何でも本職には依頼しないし、漆喰施工を断念しない。今更そんな事をしてたまるか。今までの苦労と疲弊が本当の無駄になる。無駄になるのは竣工後に使わない漆喰施工スキルだけで十分だ。という事で立ち止まらずに施工の模索を継続。

 そんな段階のお父さんにとって厄介な壁がある。甲乙丙の甲壁がある元階段下収納スペースであり、引き続き収納スペースにする予定の壁二枚。床から天井まで3mを超える。しかも、狭い。脚立を普通に立てられない。まず間違いなく漆喰塗りを綺麗に出来るとは思えない。

 

 そこで、この壁を上下に区切る事を考える。区切材、そう、それは付鴨居。どうやって施工すれば良いか分からないまま棚上げ状態の付鴨居。必要に迫られて改めて検索してみるが、やっぱり見つけられない。 

 そういう事で、自己案の施工法とする事にした。材の一端にホゾを設けて、柱にはホゾ穴を掘り接続。材のもう一端はイモのまま柱に釘打ち。このままだと釘が見えて不細工。そこで、材のイモ側端部だけ太くして釘打ち代とし、それに接する箇所の土壁をほじくって、土を埋め戻すと釘が見えなくなるようにした。

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 ちなみにこの後日、改めて幾つかの既存付鴨居を脚立の上から見た際、釘頭が見えている所を見つけた。何てことは無い、本職だってやっていた簡単な方法だったわ。これまで見つけられなかったのは、本職が伝統的施工法かでやっているんだろう、という思い込みがあったからなのかもしれん。

 

徒労感がヒドイ

 城かべ漆喰を本格採用する為には、既に大量購入済である漆喰をどうするかに依る。まだ未定という事もあり、この漆喰の初期ヒビ実験は継続。実験と言っても、今までみたいに壁一枚にての施工の実験と兼ねず、配合だけの実験。よって、一部分だけに塗る事にした。これで材料の節約だけでなく、塗付やこそぐ時間と労力も節約、下地壁の損傷も最低限だ。

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 この配合実験にて、やはり先生のスサ配合に準じないと無理だと確定。糊については、お父さんの左官技量次第で多少の余地はありそうだが、あまり少ないとこれまた無理。

 という事で、スサと糊が大量に要する事も確定。よって尚更、化学製品は入っていない本式の既調合漆喰品の採用を是が非でも、と思うに至る。

 

 考えて考えて。悩んで悩んで。で、ある日思いつく。使い分けをしようと。

 面積当りの実質使用量は大体判明した。そこから計算すると大量購入済漆喰は、大量購入だけど全くの不足。購入時にはちょっと余る計算だったが、この誤算は、参考使用量の前提は新建材下地であった事、それにお父さんの技量に依る事も大きいのだろう。

 

 そこで、見積時に算出している土下地と新建材下地の壁面積から必要量を再計算。

 水引き力が弱いであろう新建材下地には、砂漆喰を用いず上塗りだけとする。石膏ボードに水引きがありそうな下塗りを施した上で、砂漆喰をまず塗付る先生の施工法とは違う。理由は後述。で、購入済漆喰は新建材用と確信してその通りにすると、同漆喰は新建材下地壁だけで消費されてしまう。ならば、土下地壁には、砂漆喰として使うとヒビ要因になっていない購入済漆喰を用い、上塗り材には既調合漆喰を使えば良いのだ。

 よし、いける。スサ糊の大量追加購入は嫌なのに、材不足による漆喰自体の大量追加購入は良しとするのはこれ如何に。

 

 非常に長々と書いて来た。この後、引き続き配合追加変更等は模索するも、取り敢えず以上が漆喰塗りの材料編の大まかながらの答え。

 材料の配合割合や、製品による違い、そして下地壁による使い分け。他にも、配合実験には全面では無く部分塗り方法の優位性。これら、答えを知っているのと知らないのでは大きく違う。知っていれば諸々相当相応の節約が出来たのに、かなり遠回りになってしまった。

 この事で得られた物は、今後のお父さんにとってどう役立つのかは全く見えない。年齢的にも本施工が施主施工最後の予定であり、どなたか奇特な素人の方の施主施工を指導したり教授してあげる予定もないし、あったとしても本職に比べれば中途半端で役不足だろう。責任が持てないので勧められないし。

 そんな諸々から、達成感よりも徒労感が上回る。これぞ、自然素材を主とした伝統構法家屋における単独施主施工、と虚無な称号を冠して開き直るだけで今は精一杯だ。

 

 それにしても、初期ヒビ抑制は勿論ゴールでは無い。ようやく漆喰施工のスタートに立ったに過ぎない。

 それに、材料編だけでなく施工編に関しても遠回りをしてきたもんだ。部分塗り法から全面塗り法へ。漆喰用道具の追加もあった。また、大きな事は乾き斑に対応する「こなし」工程なるもの。この「こなし」という単語は、以前に目に入っていたものの脳で受け止めていなかった。関係するとは知らなかったのだ。先生により、「押さえ」の前に「こなし」が重要である事を初めて認識した。ま、実際にすると、これがまた悩ましいんだなぁ。

 

「城かべ漆喰」という材の考察

 九回目の砂漆喰調合をとちってしまい、水引きを抑えられなかった。こうなると、翌日の指触乾燥後にはヒビ割れが乱れ散っているだろうな。と思いきやヒビが見当たらない。初のヒビ非発生という事だけでなく驚いた。

 という事で、無理矢理仕上げた具合は綺麗ではないものの、こそがずに行く事にする。甲乙壁も、ヒビがあるけどまず見る事は無いだろうからとそのまま。もう甲乙丙壁から脱したくて仕方が無かったのだ。どれほどの仕上がり具合か気になるなら実物を見て頂戴。だけど、出来れば見ないで頂戴。

 

 甲乙丙の練習壁からの脱出、と言っても練習や検証は続く。次は、丙壁の西隣であり、薪ストーブ直上垂れ壁。面積は甲乙丙壁よりも大きい。

 砂漆喰の上、上塗り二回にて塗付。砂漆喰の糊量はとちっていないにも関わらず、やはり水引きが早く感じる。使用している糊が弱い物かもしれない。押さえに四苦八苦しながらそんな疑いが新たに生じたが、出来上がりにはヒビが見当たらない。一体何故なんだ。

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 これら二壁に使用したベンチマーク漆喰。商品名「城かべ漆喰」という既調合品を選定した。大量購入済漆喰のように自分で混ぜるのではなく、紙袋の中に既に全部が混ざって入っている。  種類は幾つかあるが、お父さんが使用したのは普通等級品。 

田川産業 城かべ漆喰 20kg

田川産業 城かべ漆喰 20kg

 

 

 

 同品に対して、日が浅いお父さんでも思ったのが塗り易さ。正確に言うと、購入済漆喰に入れた糊の粘着力による塗りづらさより塗り易い。遥かにサラサラしている。練ってみた時に思ったのがその白さ。砂漆喰や購入済漆喰上塗り分は、材は勿論で上澄みの水さえ糊の色が出ている。同品は糊が少なそう。

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 という事はスサが多いんだな。だから初期ヒビが起こっていないんだな。元々、同品をベンチマークとしたのは、そのスサ量を把握して購入済品に反映させようと目論んだのだ。そこで、粉末状態で軽量した上で篩いに掛けると、そのスサ配合割合は予想に反した低さ。

 

 何故だ。糊もスサも少ないのに初期ヒビが起こっていないのは、何故なんだ。お父さんのそれまでの参考配合比、それに先生や他サイト記載のそれらと比べてスサがかなり少ない。

 糊が多いと材の鏝離れが悪くて塗りづらい。その為にはスサが要る。そのスサはヒビ防止にも大いに寄与する。よって、優劣や先後ではなく糊とスサは両輪のはず。下地段階で水引きを理想的に抑えられると、糊は少なくて済み、スサも少なくて済む。

 だから解決、とはならない。下地壁が土、同程度配合の砂漆喰による下塗りというほぼ同じ条件下で、先生の配合よりもかなり少ない状態での購入済品だとヒビが入った。そのスサ量よりも少ないからだ。

 

 そこで、読み流していた単語がふと気になる。城かべ漆喰の販売サイトにての、含有品目の記載種目だ。相変わらずメーカーの公表内容は未発見。各種販売サイトでは、主成分としての水酸化カルシウムの記載はあった。しかし、件のサイトにはそれ以外に「炭酸カルシウム」とあった。

 水酸化カルシウム、所謂消石灰は、二酸化炭素を吸収して炭酸カルシウムという、石灰石となって安定するらしい。そう、炭酸カルシウムは石灰石という鉱石。それが粉末化されて含有しているという事は、これが骨材となっているはず。調べてみると、これはどうも普通に行われている現代製造法らしい。

 

 化学変化が全粉末に及ばない、というだけでヒビ要因が低減されているんじゃないか。先生の材料作りは消石灰100%。購入済品も、販売業者の性格からして同じ可能性がある。なので、購入済品とベンチマークとした「城かべ漆喰」の糊スサは比較できないのではないか。あぁ、なんだよ、ベンチマークにならないじゃないかよ。

 

 さて、「城かべ漆喰」をどう考えるか。

 「本漆喰」の定義をしている記述に、消石灰と植物繊維、それと海藻を炊いての糊だけだとするものがあった。それが強固な漆喰になるのだと。粉末海藻糊を用いる購入済品も城かべ漆喰も、この定義だと「本漆喰」とはならん。

 ただ、ちゃんとした「漆喰」である事には違いない。メーカーと販社と左官職による協会の「漆喰」の定義には入る。現時点で城かべ漆喰メーカーが協会会長だから、とはやっかまない。硬化後、スサと糊残骸分以外は全て石灰石になるのだから疑問を持たない。

 そして、同品は高くない。そして、施工性が良い。何より、ヒビが起こりにくい。じゃぁ、使いたい。とっても使いたい。

 

 本施主施工の大きな指針である建材耐久性。これについて同品は如何様か分からない。本漆喰は強いとする文言は、強度試験等の実施をした上での事かもしれない。しかし、強度と耐久性をイコールとしないなら、こればっかりはまだ誰も分からないんじゃないか。本漆喰以外の漆喰の歴史が浅いからだ。一方、強度があれば良いか、ともならんのではないか。硬い物が壊れやすいのは世の常で、柔軟性がある方が良い場合は多い。

 また、これを読むだろう子孫でも分からないのではないか。既存漆喰は竣工期からして本漆喰だろう。本施主施工にてそれは幾らか残る。それと既調合漆喰を比べてもだ。何故なら、不具合が生じても施工者がお父さんであるからだ。条件が違い過ぎた比較を当てにしてはならん。