家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

お母さん、案を出す。

 書き忘れがあった。柱を建てる前、鴨居の建具の溝の一部を埋めてみた。

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 これは、鉋掛けした棒をただ溝に嵌め込んだだけ。軽く接着剤を付けたかもしれない。

 この溝は矩形ではない事から矩形の棒は入らない。ならば、見え掛かり部だけで良し、という事で棒はふかして入れている。棒と鴨居下面とが面一になるように、溝にビス打ちしてふかし具合調整。合間作業感の強さから、ちょっとだけの事に古色を出すのが非常に億劫。古色は後から塗る事にした。

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 で。壁の木組を行うわけだが。

 南側の薄壁もそうだけど、北側の壁厚を決定しないといけない。その為、電材片手に設計作業。ああでも無い、こうでも無いで出た寸法は仕上材を除いて凡そ103㎜。この壁用に発注済の胴縁材巾は、60㎜。石膏ボードは、ダイニング側は12.5㎜でトイレ側は9.5㎜物を使用する設計。21㎜不足。このままだと電材のボックスが入らない。

 施工図無しの木材発注により、ちょいちょいこういう事が起こる。仕方なし。ここも解体材から製材して軸組をふかす事にした。

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 さて、この北側壁にテレビを壁掛けにて設置すると書いた。その為に、壁を凹ませてコンセント等を設置するので厚みを要する。

 壁を凹ませる面倒を行うのは、テレビ等の配線が煩わしいから。壁掛けだから尚更で、配線をこの凹みに入れてしまおう、という算段。コンセント等を凹みの上部に設けるのは、凹み正面には設置できない事と、下部設置で埃が溜まると危ないから。

 

 こういう手間を掛ける事に対し、お母さんから提案があった。

 当壁の下方に普通のコンセントを設けようと電線管孔を開けており、その旨をお母さんに話したのだ。すると、折角スッキリさせた壁にするのなら、その壁下方のコンセントは無い方がいいんじゃないか、と。

 過去や今回の設計施工において、お母さんから能動的かつ建設的提案が出てくる事は非常に稀有な事。もしかして初めてかもしれない、という程。目の前に具体的に見えてくると違うのかな。

 

 良案という事もあり、これは採用する以外有り得ない。ダイニング用コンセントは別場所にて別途検討する事になる。そんなわけで胴縁材の孔は、我が家の歴史的出来事の名残である。

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配線計画が無い事のツケ

 現場置き建材消費を進めて行く。目下の所、使い易くて邪魔なのは胴縁材。よし、壁を造ろう。そう思って始めたものの、合間作業としてはややこしい壁。

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 ダイニングとトイレを仕切る当壁の北側は、壁掛けテレビ設置予定箇所。電源供給と電波供給が必要。南側は、LDKと奥玄関廊下を仕切る引戸が収まる薄壁。これら造作に手間が掛かりそう。

 さらに、元々全て引戸だった場所こともあり差鴨居と框敷居があり、それぞれがとても太い。よって、配線を壁上下どちらかからするならば、孔を開けないといけないがそれは勿体無いから避けたい。

 となると、トイレ内に造作予定である二階用上下水道管と電線を通すEPSが南側壁に接するので、これを使う事にする。そうなると、薄い南側壁にPF管を通し、南北壁を仕切る間柱を渡る必要がある。あぁ、難題。

 

 さらにさらに、検討中に問題発覚。一年以上前に建てたトイレ廻りの五本柱の一本であり、先述の差鴨居と框敷居に挟まったように設置して当壁に絡む柱。南側薄壁の厚さに影響するこの柱が、差鴨居と框敷居への入り込み具合がどうにも寸足らず。

 

 原因追及。

 まず、差鴨居と框敷居の断面位置具合にズレがあるっぽい。こういう家屋だから致し方が無い。

 さらに、これが決定的だが、配線計画が無い状態での設計施工。引戸が収まる事だけを考えて、PF管を収める事までは考えておらず。致し方が無いとは言えない大失敗。

 結果、落ち込み度120%、思考停止モード突入。この間の微糖コーヒーと煙草と時間の消費が止めどないので強制再起動、遣りながら考える強行施工を決定。

 

 まずは、南北壁を仕切る間柱確保。

 在庫は一本だけある。母屋二階用に一年以上前から現場に入っている、四寸角の短尺荒仕上で二面上小節の良柱。お値段、凡そ4千円半ば。これを使う気満々だったが、材を見ながらふと考える。必要なのは三寸角程度。日頃見える面は西面のダイニング側だけ。北面は北側壁となり、東側は既存柱で隠れ、南側は見える事は見えても引戸を閉めた時だけ。勿体ないよな。

 

 という事で、電材品探しついでにホームセンター材を物色してみる。

 ホームセンターにある角材なんてものは、製材品質がイマイチ、寸法精度もイマイチ、曲がっている、汚い、節だらけ、割れがある等々、とても化粧材には使えない物ばかり。だけど、製材所よりも高い。仕方が無い、経済構造からしてそういうもんだ。

 だけどもあった。山積みされていた角材を一本一本発掘してみると、条件に適う物があった。樹種は目当てのスギではなくヒノキだけど。当柱の条件が低い事からもしや、と思っての事ながら探してみるもんだ。お値段はイチキュッパッ。端材が結構出るのでお値段以上。落ち込み度50%に低減。

 人工乾燥バリバリで背割無しだったので背割りを入れて、電線管孔を設けて、鉋掛けして、イモ留めビス打ちにて設置。

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隠蔽工作

 土壁に隠蔽配線。これは後から不可能。

 既存土壁内配線方法は金属管埋設。これは入居時点で全て廃線となっており、金属管内の布被覆配線は引っこ抜く事さえ出来ない物が多かった。よって、後年の家人はビニール電線の露出配線を選択したわけだな。これを選択しない場合は、やはり金属管か樹脂管を露出させるしかなかっただろう。その意義は低くそうなので、費用対効果から電線露出は仕方が無い。だが、お父さんとしてはこの二の轍を踏みたくない。

 

 よって、将来の電線や通信線交換に対応する。

 本施工にて電線等は一新する予定。基本は、人が入られる床下や天井裏に露出線として各部に配していく。そこから居室に向けては、壁内に電線管を設置してその中に配線する。

 新設壁を原則土壁にしない事は、おじいちゃん建築士から予算面でそうすべきとされていた。その後も変更しなかった理由の一つはこの配線の為。土壁よりも中が空洞の木軸石膏ボード壁の方が、電気工事面でも手間や費用の面から都合が良いとも判断した。

 ちなみに、床下や天井裏に管を使わないのは節約の為。

 

 また、どうしても隠蔽できない所は、古色系の割高カラー電線を使用する。

 隠蔽不可の最たる箇所は、母屋一階天井照明用電線。既存の配線法は、本施工レベル以上にそれはそれは家屋解体をしないと交換出来ないような方法。本職ならもしかして出来るのかもしれないが。古くなったせいなのか布被覆電線は、ビニール電線より硬いので本職でさえも無理かも。内部の通電金属は見た目からして銅っぽくないし。

 こんな事が将来の子孫に起きる事を避ける為これを最優先、隠蔽を次優先とした。

 

 そんな方針だけは決まっていたが、具体的な配線箇所は漠然としたまま。設計段階でそれら仔細までを詰めておく事は事実上不可で、そもそも照明器具の種類や設置場所も決められないまま来ているから尚更。

 よって、施工しながら必要に応じて考えざるを得ない。そのような事から、漆喰塗りに入る予定のキッチンの照明をお母さんと緊急検討の上、決定させた次第。

 

 照明や実際の配線等々は後日として、実行した電線管設置の事だけを書いておこう。

 どう考えてみても、キッチンと食品庫との壁となる既存土壁を貫通させないといけない厄介さ。それを踏まえて押入れ解体をしたのは良いものの、キッチン側引込み部からしてさらに天井板を破壊。

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 当該部の土壁も破壊したりする。

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 見える位置であるキッチン台上方照明用電線貫通部は細い塩ビ管として、それをビスで固定。その塩ビ管にPF管と言う蛇腹の樹脂管を接続。

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 キッチン室全体照明用電線貫通部は、キッチン反対側が手が届かない所。手が届く為には、諸々破壊しないといけないので嫌。よって、見えない位置だからとPF管をそのまま貫通させる。

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 こんな具合で果たしてメンテナンス対策になっているのだろうか。素人電気工事士には皆目不明だけど。

 

能書き不要な事はある

 中塗実験乾燥待ち中や、中塗の漉し土の沈殿乾燥中等には他の作業を行う。一つは解体。元現場事務所であり、新規キッチン奥の食品庫予定地の押入れ。また、元北側縁側縁甲板と根太撤去。

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 これら何てことない作業だけども、以前から少し不思議に思っていたのは二人の興味具合。事故防止は勿論、解体材流用時等の道具破損防止の観点から、お父さんは解体後直ぐに釘等を除去するように努めている。その現場にたまたま居合わせると二人共、特にりょうすけは釘抜きへの意欲が高い。

 

 きょうこぐらい大きくなっているならまだしも、りょうすけに至ってはまだ箸も上手く持てず、洗髪も大便後の拭き取りも自分ではイマイチ出来ない幼さなのに、金槌と釘抜きを一丁前に扱おうとする。他の作業手伝いだと根気が続かない事が殆どながら、これだけは違う。釘打ちなら分かるのだが。新鮮さなのか何なのか。まぁ、能書き不要なんだろうな。

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 さて、後回しになっていた当箇所、特に新規キッチン奥の解体着手。何も暇を持て余したからとかでは無く、次の工程である漆喰塗りに係る準備の為である。具体的には、土壁貫通配線管設置。本施工において多大な影響を与えている配線方針について、今までちゃんと書いていないと多分思う。ここで触れておこう。

 

 配線方針、それは隠蔽する事。書けば簡単ながら、これがどうも難しそうなんだな。

 

 この家の購入前の初内見に来た際に思った事の一つ、「後施工の灰色ビニール電線の露出がしまくっていてみっともない」。露出しているだけでなく、天井の隅っこでの結線まで見える。購入検討中、もし改修工事を断念するとしても配線隠蔽工事だけは最低限やりたい、とまで思っていた。

 

 何故みっともないと思うのか。何故それほど嫌なのか。言うなれば、理由は無い。瓦や木部にコーキング等と同じ。無理矢理それっぽく言ってみると、一次素材で数百年単位素材である木や土等に、三次素材で数十年単位素材のビニール、しかもグニャグニャした線状の物が目立っているのは生物的に違和感を持つんじゃないのか。京都の寺社や町屋の景観から電信柱を無くそう、という人達も多い事からお父さんはきっと多数派だ。

 

 ただ、百年単位設計施工をするようになってからは、ちょっと違う見方も持つようなった。

 百数十年前の京都の人達は、電気が開通していく際に景観の事をどうこう言っていたのだろうか。言っていた人がいても少数派、大多数は電信柱と電線によって文明開化を体感したりしてたんじゃなかろうか。コンクリート製電信柱は景観の邪魔とする現代人でも、田園地帯に木製電信柱ならどうか。プラモデルみたいな現代住宅では隠蔽配線が当然としながら、古民家カフェに布被覆線と碍子の露出配線をされていたらどうか。

 結局の所、目新しさとか新鮮さとかノスタルジーとか、流行りや時代によって変わる感覚なのかな、なんて思ったりもする。

 

 と、そんな能書きを垂れてみても、百年後ではなく21世紀に生きているお父さんは、断固として出来得る限り隠蔽配線をするのだ。

 

そして休業

 漉し土を作った事で仕上塗りは進んでいく。もう実験はしない。これを本番として実験面は削り落としてやり直し。その他全面そのまま乾燥を待たずに猛進。

 と言いたい所だが、この工程は非常に疲れる。仕上塗りという事だからだろうか。広くもない一面に対して要する時間は凡そ30分。塗りながら時々息を止めていたりする。一面終わる毎にため息と深呼吸と一服休憩。振り返ると何十面とあるので極力振り返らず。

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 そこまでしても、決して本職既存壁仕上げ並みとはとても言えない。実物を見てもらったら分かるが、一応写真を付けておく。フラッシュを焚いた写真だと綺麗なんだが、そうでないと粗がよく分かる。

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  ついでにこの写真から触れておく。寒冷紗が伏せ込まれているのが分かるだろ。例の長押裏埋めにより出来る入隅部のヒビや剥離防止の為だ。

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 ちなみに、この欄間下方の塗りにはやってみたいと言ったきょうこも参加。自他共に不器用と認めるお母さんは一度も参加せず。

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 で、寒冷紗は仕上材が明らかに厚くなってしまう所にも部分的に伏せている。そう、仕上材の厚さが違う所があるんだな。特に欄間上方の壁は。寒冷紗によりヒビが起こらないと信じていた時、下地をちゃんと平面に仕上げていなくとも大丈夫だろう、と材の節約と横着に走ったんだな。

 

 これまたついでに、その欄間上方壁の写真も載せておこう。下地違いによる水引き具合の違いが顕著な写真。

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 仕上塗りをした翌々日かの状態で、壁上方は乾いていて下方はまだ濡れている。上方の下地は、元々天井懐に当たる所で新規塗り。下方は既存下地。新規に塗って乾燥した下地の水引きは強い。水の通り道が出来ている感じじゃなかろうか。下方の既存下地は表面が削られたりして通り道が埋まっていたりするんだろう、水引きが弱い。よって、何が何でも土壁に吸湿性を求めるのなら新設した方が良い、という証拠写真

 

 そう、度々書くが、素人は左官職の鏝捌きに玄人さを感じると思うがそれは一部分。それは勿論ながら、下地を見たり材を作る術、雰囲気付けて表現するなら、材との対話が出来る事も玄人が由縁だと思うんだな、お父さんは。

 漉し土により仕上塗り自体は劇的改善。しかし、問題のヒビは発生。ネタの配合や水加減、下地の状態等々に対応出来なかった。水量加減や厚さ、乾燥差異は材の動きの差異を生んだのだろう、大小のヒビが多数発生。

 

 ここで毎度ならばお父さんは意気消沈するわけだが、今回は何故かちょっと違う。やる気貯金があったせいだろうか。若しくは、奥の手を用意していたからだろうか。ヒビが起これば埋めればいい。という事で、中塗土を漉した際に分離した泥を確保して置いた。左官職が言う所の「ノロ」というやつかな。

f:id:kaokudensyou:20170507162646j:plain←馬糞とかじゃないよ

 

 ヒビ等の不具合がある面を噴霧した上で、指でノロを埋めていく。余分なノロは棕櫚刷毛で払い落としつつ、再噴霧と棕櫚束子等で面に馴染ませる。この作業が全く分からない面もあれば、ヒビが大きく薄っすら跡が見える箇所、束子で擦り過ぎて粗さが出てしまった面もあったりする。

 

 以上、悪戦苦闘した中塗仕上は、目標の本職既存レベルには到達しなかったが、許容は出来る具合にはなり終了。実験塗り開始からノロ補修までで恐らく15人工強は掛かった難関施工。

 悲しい事にこれで終わりとならない。元奥の間と元仏間の小壁が終わっただけ。繊維壁の南側縁側の同工程、本職既存中塗仕上壁の不具合部等やスイッチ撤去欠落部等々が待っている。今度は砂や藁スサを増やしてみようかな。ま、何にせよ当分おさらばだ。