家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

αデンプン接着力

 糊漆は、麦漆と比較して含水量が多くなる。糊漆を作る際の米糊比は、麦漆を作る際の盤石糊比よりも高くなるからだそう。そもそも米糊には水気が多そうだし。

 その上、デンプンは面結合、グルテンは繊維結合。前者は水を留めやすく、後者は比較的そうではない。水が多過ぎた状態だと、接着の本命である漆の硬化不良が起きてしまう。そんな訳からか、金継ぎでは麦漆が殆どのようだ。実際、インターネットの記述で糊漆の記述は麦漆に比べてかなり少ない。

 

 その他、金継ぎを踏まえての考察があるのだが、それは本件では該当しないので割愛させて頂く。例えば再加熱再加水、要は湯による軟化比較のお話。これは米糊と盤石糊での事。接着箇所がキッチンの天板だけに、湯が掛かる危険性は抜群にあるがその時は漆が十分硬化している。こんな感じでの割愛だ。

 

 で、本職の方の結論の一つとしては二種の使い分けだ。木製の物や焼成温度が低くて吸水する物には糊漆、磁器や素地が緻密で吸水しない物には麦漆、と。麦漆の方が加熱しないで済むので簡単で良い、と考えていた。まぁ、湯による軟化条件を排除したので、その前提も含めた事による使い分けを書かれた本職の方は、木地に麦漆を使うなとはおっしゃらないと思う。

 

 だけども、糊漆を本命にする事にした。理由は、米の糊の方が馴染みがあるからと、それよりも大事な要素による。それは、木口面での接着を行うからだ。

 現物を見て貰えれば容易に分かるだろうが、L字接合箇所は長尺短尺それぞれの板の木口面。ここでお父さんが考えたのは、木の繊維がパカっと開いている木口面だと、水分だけでなく接着材の漆自体も吸収されやすく接着面に留まりにくいのではないか、という事。

 そこで思い出されたのは、デンプンは面結合という内容。これが水を保持しやすくしてしまうのならば、漆も保持しやすいかもしれない。どうなんだろう。面倒だけど実験しておくか。

 

 この真面目さにストレス的なものを感じるが段取りをする。写真がボケているのに撮り直さない所にヤル気の低さが伝わって来る。

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 米粒から米糊を作ったものの、磨り潰すのが意外に手間。固形物が結構残ってしまうのだ。米粒をふやかすべきだったのかもしれないが、面倒臭いのでそこは手を抜いた。急いては事を仕損じる、かえってストレス。上新粉を買ってきてもらって追加実験。

  この実験は、上新粉糊漆と米粒糊漆と麦漆の三種だけではない。再加熱した米糊と、一般的に不要な加熱をした盤石糊を混ぜた物を合せた五種とした。

 

 本職の方のもう一つの結論として、麦漆の盤石糊の加熱内容もあった。

 グルテンはあくまで麦の一成分であり、その他多いのはデンプンだ。普通の麦漆では、その多いデンプンは加熱されていないので糊として機能していない。むしろ邪魔。水でデンプンを洗い流してグルテンばかりにすれば非常に強力そうだがそこまでしない。そこで、米糊同様に麦のデンプンも加熱する事により、強力で使い勝手の良い麦漆になる。

 だそうだ。要は麦内のαデンプンの話だな。なるほど、ならば。とお父さんも盤石糊は勿論、米糊も再度温める。共にαデンプンがたっぷりなはず。粗熱を取った上で漆に混ぜてみる事にした。

 

 で、結果については残念ながら感覚的内容。

 木片の厚みは1cm弱。薄長い為、容易に接着面を外せるはず。24時間以上経過した状態にて米粒物はパコと容易に外せた。しかし、上新粉物と盤石糊物は力む必要があり、外れる際もパキっと確かに接着されていた感を残した。割り箸辺りの感覚だろうか。

 これらは非加熱物。再加熱の上新粉物と初加熱の盤石糊物の場合は、他の物との違いに驚く程の外れなさ。外れたと言うよりもパキーンと折った感じ。これ、もしかして外れないのではないか、とニンマリさせる程の力を要す。

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 はい、決定。加熱物にする。面結合問題もクリアしていそうな麦漆でも良かったが、加熱がちょいと難しかったので上新粉物でいく事にする。

 

接着材としての漆

 漆接着を面倒、と思ったのは何より一から調べたり学んだりする事を要するからだ。そういう事は嫌いじゃないが、時間がなぁ。インターネットでは、信憑性ある明確な理屈や答えが多いとは言い難い。よって、最終的には勘や推理等で自己決断ってな具合の事や物が多い。なので、やはり時間がとても掛かる。漆も例外では無い。と言うか本施工での代表格の類。

 

 そんな中、「金継ぎ」をされている本職と思しき方による、漆の接着材としての考察文章を発見。「金継ぎ」とは、割れたり欠けたりした器や壺等を修復する技法の名称だな。このご考察内容は、抽象的や経験則で無くとても理屈的。自身の手記は抽象的且つ省略表現が多いくせに、何も罪が無い他人様のそれには食傷気味のお父さん。順立って書かれた分かり易いその内容は、文量はあっても面白くさえ感じる。お父さんとはえらい違い。

 そのまま写したい所だがお行儀が悪そうなので、抜粋省略編集内容にて書く。

 

 塗料としての漆について後述する際に改めて書くが、漆の硬化には時間が掛かる。表面だけなら条件次第では1時間程で硬化している。しかし、塗布面下奥深くとかになると好条件であっても数日を要したりする。オープンタイム問題は漆のこの性質により解決しようとする次第。

 これ、業務としてならこの長時間を要す面は非常にやりにくそう。接着力が発揮されるまで次工程に移行できない。そもそも器補修の際に破片を貼り合わせた際に、それらが全く固定維持が出来ないのはやりづらそう、今のようにテープ保持が出来ない昔なら特に。

 漆のそんなオープンタイムが用途によっては長過ぎる、という事で生まれたんじゃないかと想像するのが「糊漆」と「麦漆」。

 

 糊漆は米糊が混ぜられた物。米糊とは米のデンプンによる接着力を利用した物で、二人も幼稚園やら小学校で触れたデンプン糊と同じような物。米は昔から接着材としても使われ、お父さんも幼少期に冷やご飯を糊として使っていたし、本施工の木部接着に少し採用検討した事は以前に触れた。

 デンプンと一言に言っても、αデンプンとβデンプンとがある。半透明な米粒のままの状態であるのはβ。これは粘性が無くて糊にはならない。しかし、加水と加熱をされるとαに変化し、これは粘性を持ち接着力がある白い米粒になる。冷えると放水しながらβに戻る。温かいご飯はモチモチしているが、冷えたご飯はモソモソするのはこの性質変化によるもの、らしい。

 

 麦漆は盤石糊が混ぜられた物。盤石糊の接着力は小麦粉のグルテンによる物。これはお父さんも馴染みが無く今回の事で初めて知った。

 小麦粉と適量の水を混ぜ続けるとドロっとした液体から糸束状になってくる。加水と攪拌により小麦粉に含まれるグルテンが結合されて粘性がある繊維状になるとな。その粘性はデンプン以上。これまた接着力が優秀らしい。

 

 これらを混ぜる目的は初期接着力を得る為だとの事。元々接着材として使われる米糊や盤石糊を混ぜる事で、漆の接着力が発揮されるまでの間の時間稼ぎをさせるようだ。

 なるほど、ではどっちかを使えば目的達成だな。と思ったもののそう短絡的ではないようで、それを考察されている内容だったのだ。

 

接着剤から接着材への迷走

 そろそろ漆の事を書く段になった。と言っても塗料としてではなく、接着材としてだけど。

 

 キッチン天板は接ぎ板。板を複数枚引っ付けて大巾板にしているわけだな。この引っ付けるのに使われているのは接着剤。板接ぎに使う接着剤の種類はその加工所による様な感じだな。

 

 接ぎ方も幾つかあるようで。お父さんが色々サイトを見ていると、玄人素人関わらず木工家の方の全員なのかと思う程、「雇い実接ぎ」によるものばかり。今後それは出てくる事柄だと思うのでここでは省略するが、強度がある接ぎ方だ。

 雇い実接ぎが普通なんだろう、と思っていたんだろうお父さんは発注時に確認していなかった。この接ぎ加工は、無愛想無返信剣道加工業者の仕事。天板材現場加工により新たな断面が出てきても、一向に雇い実が現れない。そうだ、タダのイモ留めだったのだ。一番簡単で、一番強度が弱い接ぎ方。この業者の事だ、接着剤は恐らく普通の木工用ボンドに間違いない。

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 としても、それで構わないだろう。現代科学の接着剤の強度はそれなりに十分あると思う。木工用ボンドなんてちゃんと接着させれば剥がそうとしても剥がれずに、樹種によっては木の方を割らせる程に強い。木の繊維結合よりも強い物に、それ以上求めるのはちゃんちゃらおかしい。

 寿命については家屋本体とは違い、設備の寿命にはある程度妥協しても良いので大目に見る。ここはドイツではなく日本。短寿命家電だけでなく住設にも短寿命が慣れっこになってしまっているから消極的寛容。酢酸ビニル樹脂系エマルジョン接着剤、商品名「木工用ボンド」がどれ程の耐久性があるか知らないが、きっと20年や30年は問題ないんではないか。お父さんが幼少期からある接着剤なのでそう思い、天板L字接合の接着剤にも木工用ボンドを予定していた。

 

 が、考え直す。木工用ボンドは耐水性が無い事を目の当たりにしたからだ。原木強制雨曝しの際、原木割れ防止用に塗ってあったこのボンドが、硬化後半透明色から硬化前のような白色になった上に手で容易に千切られた。時間を大して要さずに。

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 俄か程度には知っていた耐水性の低さだが、これ程かと驚いたのだ。使用箇所はキッチン天板。表面は漆コートでも、何かの衝突等で木地が露わになる事は考えられる。そこから水侵入があるとどうなるの。既に板接ぎ接着剤として使われている分は仕方が無い。しかし、寿命以前のレベルの不安があると分かった物をわざわざ使うのはなぁ。

 

 そこで、新たな接着剤を入手。DIY大国にてメジャーらしきな物で、接着力もさることながら耐水性がある優れもの。さらには、写真を取り忘れるぐらいこの容器が素晴らしい。特許等の問題なのかもしれないが、どうして国内メーカーも同じ容器を使わないのかと思う程の使い勝手の良さ。大雑把な面と細やかな面が混在しているな、あのDIY大国は。

 

 が、また考え直す。この素敵な接着剤はオープンタイムが10分なのだ。それを承知で迷いながらも購入した。しかし、買ってから思い直す、10分間で全ての接着工程を完了させられるだろうかと。オープンタイムとはそういう意味なのだ。

 ま、厳密に10分以内でなくとも11分で十分かもしれない。12分でもいいかもしれない。けど、13分や14分ならどうか。キリが無いのでメーカー推奨10分を厳とする。そうすると、耐水性以前に接着力を発揮できないかもしれず。そうなると意味が無いよな、と。

 

 DIY大国仕様の接着剤購入に迷っていた時、もう一つ考えていたのは漆。自然素材原理主義者ならこれにて迷う余地は無さそう。だが、お父さんは幸か不幸かそうではないので、そこまでするのも面倒だなと思っていた。しかし、10分の壁の解決策が見出せない。

 

 こういう流れで接着材として漆を使う事に至った次第。今回の天然由来と言われるような材の選定についてこれまでには無かった理由なのだ、施工性は。施工性の為の新建材選定とは数多あるが、その逆とは我ながら数奇と思う次第。

 ちなみに、少し前に自然素材について書いたが、あれはこれも想定した事前説明の意味合いも含んでいる。探検さんが鉋等に続いて、また誤解等をされて引いてしまう等も嫌だしね。

 

接着剤使用方針

 自然素材で建てる家の仕様を見習った改修工事施主施工の検討期、二つの接着剤の存在を知った。

 

 一つは、膠(にかわ)だ。

 お父さんも詳しい方では無いが、二人は全く知らないまま大人になっているかもしれないので記しておく。漢字がある事からも分かると思うが昔からある接着剤なのだ。動物の骨や皮由来のコラーゲンが加熱されて成るゼラチンが主成分らしい。木との相性が非常に良く、強烈な接着力を得られるらしい。しかもすぐに。現在で言う所の瞬間接着剤のようだ。

 

 もう一つは、米糊。

 読んで字のごとく、米による接着剤だ。米だけにデンプンによる接着力なのだろう。お父さんも子供の頃に、米粒をそのまま紙に潰し塗って普通に使っていた。木に使った事は無いがなかなかの接着力らしい。現在で言う所の木工用のボンドだろう。

 自然素材の家で使われているのは、ある分量の水に溶いてそこにある分量の塩を入れたものらしい。塩を入れる理由はカビ防止か腐敗防止かだったと思う。

 

 結論としては、今回の薄板には木工用のボンドを使用する事にした。

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 膠は、使用前に湯煎が要る手間。使った事がない不安。そこらには売っていない不便さ。割高。今回については強烈な接着力が不要。米糊も、手間と不安から採用しなかった。

 これら消極的理由を挙げるのは、そもそもお父さんが自然素材主義者じゃないからなのだろうと思う。また、ハウスシック症候群などで必要に迫られていないからだろう。それらの理由があれば、手間や割高や等は大した問題にならないはずだ。

 

 お父さんなりに拘っているのは、伝統構法に沿うのかどうかかと思っている。長寿命の家屋を求めて伝統構法であるこの家を購入し、ソフト面(使い勝手等)の長寿命も得る為に改修工事をしている。目先の手間や費用の為に短寿命化させる。そんな施主施工だからとかで流されてしまっては本末転倒、これまでと今後の多大な労力と金銭を目減りさせ兼ねない。そういう意味では拘る以前の問題である。ちなみにこの代償として工期は度外視している。

 

 今回のような化粧材である板を貼り付けておくだけなら、木工用ボンドで構わないと判断した。この木工用ボンドというのは、お父さんが幼少期の頃には既に身近にあったものだ。それに子供が使うだけではない。もしかして市販品とは成分が違うのかもしれないが、日本の熟練職人さんが造る数十年や百年以上も使用価値を求められるような木工品にも使われていたりする。

 歴史も実績もあり、よほどこれを超える物が生まれない限りは、今後もそれらを積み重ねて行くと思われる接着剤ではなかろうか。造作家具には特段意識せず使用する予定だ。

 

 一方で、柱等構造に関するような箇所や、床材等の常に力が加わるような箇所には使わない。接着力をそこまで期待出来ない。母屋二階の安普請居室の造作柱足元に使用されていた。ホゾで嵌められていたものの深さが浅く、補助的に使用されたのだろう。解体時にいとも簡単に外せられた。

 と言っても、強力過ぎると伝統構法のような柔構造には向かないと考えている。なので、木工用ボンドに限らず工業製品接着剤は使用しない方針。

 

 使うとするならば今回の薄板化粧材のような、外力が加わらない、加わって外れても家屋や住人に支障がない、外れても簡単に直せる箇所限定にしたい。と今の所そう考えている。

 

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