家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

素直だけど偏屈

 あぁ、アカン。お先真っ暗やわぁ。

 お父さんは、何に対して分からないものの憤慨。何事も上手く行かず、大した事が見い出せない非建設的失敗を繰り返す事が大いにストレス。強アルカリ性の漆喰の中に素手を突っ込んでぐるぐる回したり、立て並べ置いている鏝達を蹴り飛ばしたくなる。

 

 実際は、自傷行為や物への八つ当たりをした事なければ、その際もせず。やった事は、本職の施工動画を「初めて」観てみる事。

  もしかして驚くかもしれないが、お父さんは今まで観る事を避けてきたのだ。昔に生では度々見た事はあるが、改めて動画を観た事は無い。それは、素人お父さんは本職のそれに引っ張られてしまい、上手くなるどころか大失敗しそうな気がしてならなかったのだ。

 

 意図不明かもしれんな。例えばマラソン。

 選手クラスの走り方を真似たらどうなるか。学生時代の校内マラソンではトップクラス。これは例えでなく事実であり、体力にはそこそこ自信があった中肉中背の筋肉質青年だったお父さん。しかし、現在のお父さんは小太り、かつ成人以降に長距離を走った事が無い。日々鍛錬や研究を重ねた人の走り方やタイムを知ると、昔取った杵柄でそれを意識してしまう。しかし、とても真似など出来ない。それ以前に、1km地点未満でぶっ倒れて救急車で運ばれるかもしれん。

 と、そんな感じ。

 

 素直だけど偏屈なお父さんは熟練若手関わらず、左官職の鏝捌きに敬意を抱くあまりに目を瞑って来た。ただ、如何せんどうにも埒が明かない。素人がどうしても漆喰を塗るのならシーラー塗布が大前提か。はたまた、土壁相手だとどうしたって手練れの左官職を探し出さないと無理なのか。それらを踏まえないといけないぐらいなら、まずは本職の鏝捌きを観てから考えようじゃないの。

 

 新建材壁直塗り、とかではなく土下地か何かの壁に漆喰を塗る本職の動画複数を観てみる。それは驚愕の内容だった。

 昔、生で左官職の施工は度々見た事がある。一千億円超規模から数千万円程の現場で見たそれら全て、広いコンクリート壁にモルタルをしごき塗っている場面。若かりしお父さんは、自分でも出来そうだと思ったもんだ。後年にそれは覆されたが、広い面で動く鏝捌きにどうこう思わなかったのだ。

 が、真壁の中の鏝は違いが分かり易い。当時と違って実際に自分も少なからずやっているから尚更だ。

 

 顕著にかつ一目瞭然で二人にも分かるだろう違いは所要時間だ。本職は驚異の二分半。たったの二分半なのだ。下塗りも上塗りも同程度。同じ様な面積の壁に対しお父さんは一時間程なのにだ。下塗りだろうが上塗りだろうが時間は同じ、腕と脚が二本、という所ぐらいだけしか同じ所が無い。

 お父さんは狭い所に脚立を立てての高所作業。道具の違いも見受けられる。それら諸々、この時間差の前ではほんの誤差にしか過ぎない。パソコンの液晶画面の前でぶっ倒れそうになる。

 

 下地が間違いなく土という条件での動画は少なかったが、やはり同程度の時間。施工者はお父さんと同年代か少しお若いか。なので、左官職としてとうに修行は明けている一人前の方のはず。歴然とした差がある事は漠然とながら知っていた。しかし、どれ程の差があるかがはっきり分かった。