家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

暗中模索号令

 ハナから妥協しない。ハナから高みを目指す。そう意気込んで始まった施主施工。漆で頓挫、精神的リハビリにようやく蹴りを付けられたその時に初の左官仕上げ工程。あぁ無理、はい無理。と言ってもいられない。湿式工法はこの先も続く。そもそも本職に頼まない選択をしたのはお父さん自身だし。

 

 既存仕上げ具合は目標にしつつ、広くて浅い人間にでも出来る事は考えてみる。この一環で梁束梁貫仕様にしておいた。左官面を広い面から狭い面にした事で施工速度は下がるが、平面塗りの難易度も下がる事で施工品質は上がる、はず。

 

 また、既存の施工法を真似る試みを行う。以前に触れた、中塗り直下に伏せ込まれていた藁をお母さんに段取りしてもらう。しかし、本来この藁は土に伏せ込むもののようで、中塗仕上げ土で留め付けるものではない。太い藁の為に中塗土が数cm厚になっちまう。で却下。

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 大本命は寒冷紗。やっぱりヒビ割れ防止のお供は寒冷紗だよ、とこれもお母さんに段取りしてもらっていた。

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 しかし、乾いた下地壁を濡らして押貼り付けてみてもひっつかない。よくよく考えてみると、既存寒冷紗は全面では無く部分的に使用されていた。そして、土種毎の境では無く中塗土の内部から発掘されていた。寒冷紗の上にも下にも中塗土なのだ。寒冷紗を伏せ込む為に仕上げ土を下付けして、その上に上付けして仕上げ。寒冷紗の為に厚塗りって本末転倒じゃなかろうか。

 で、お父さんの結論。寒冷紗は厚塗り部分のヒビ割れ防止に使われるものであり、ヒビ割れ発生境界厚以下には不要。

 

 では、境界厚とはどれほどか。お父さんの技量だと5㎜辺り。何故そうかと言えば、今までの下地塗りからの経験。

 お父さんは土壁の事を一から書いて来た。きょうこかりょうすけ、若しくはその子孫達に役立つ事があるのか、我ながら正直な所は懐疑的だった。下地壁の事は必要なのか。補修等の点から仕上面の方が有用な可能性があるんじゃないかと。

 しかしだ。少なくともお父さんにとっては下地造りの経験は多少活きている。素人施工での境界厚が5㎜だなんて記述は皆無だ。これも条件によるが、これ以下になると他の問題が起きるがそれはまた後述。何にせよ、補修等でいきなり仕上面を触る事になるのならば、今一度土壁の記述を読み返してみてはどうだろうか。その上で練習をしてみた方が良い、ほんとに。

 

 そんなお父さんも練習。所詮は左官に浅い人間だけど、それでもいきなりの本番を避けるぐらい知恵は得た。自分を奮い立たせていざ鏝を持つ。大袈裟に思うだろうか。誇張ではないんだけども。

 

 一ヶ所目。下地に3㎜強程度の中塗土を塗った上で帯状寒冷紗を上下二段にして伏せ込み実験、その上に3㎜以下を目指して中塗土を連続して塗る。

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 前述5㎜以下のこの3㎜という数字は限界、と言うよりも平滑面を目指した仕上塗では不可能な厚さ。それは小石の所為。中塗土内の小石が鏝に引き摺られ、塗った壁にどんどん溝線が引かれていく。それらに気を付けたり排除しても、新たな小石にすぐ当たる。奴らは大きさではなく、数が驚異だ。

 小石を動かしてしまえば、そこは線になるか穴になるかの違いだけ。それらの直しや小石排除をしながら塗っていくと、下地からの水引きにより土は見る間に固まり始める。

 

 そして乾燥後。近くで見ると何だか粗い。濡れている時には分からなかった小石穴が、乾燥して白っぽくなるとあそこもここもと見つかる。そこを埋めてみた後日、下から見ても直した跡が薄っすら分かる。

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 何よりもヒビが入っている。実験の為の寒冷紗が入っているはずの箇所にまで。頼りの寒冷紗が通用しない事には、大袈裟ではなく愕然とした。暗中模索の日々開始の号令が鳴りそうな予感。

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 いや、ここらは妥協して大目に見ようか。そんな逃げ思考が湧く。

 が、それを許してくれないのが階段の存在。天井高がある居室の小壁、というだけなら色んな言い訳も思い浮かぶ。だが、小壁が階段動線の真横となる箇所がある。目線にヒビ壁。有り得んだろ。いや、有り得るかも。有り得るよな。有ってもいいよな。いや、有り得んな。の繰り返しが約三日間。その後、やはりの号令により一ヶ所目練習箇所の削徐実施。