家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

長期施主施工は勧めない

 とここまで書いてようやく思い出した、もう一つの「き」。それは「動機」だわ。

 ちょっとした修繕から大規模改修、新築工事や再生工事。建築物に手を入れたり新たに設ける事を考えた場合、一般的にはそれらを手掛ける本職に依頼する事を真っ先に思い浮かぶ。それで事が成すのであれば、残り四つの「き」がどうとかこうとかの話は起こらないわな。至極当然な事柄なのに何故か忘れてたわ。

 

 施主施工に至る動機はお父さんが思うに、殆ど多くの人がまずは金銭じゃなかろうか。度々触れてきたが、まだ途中であり最終確定はまだ先ながら、本職請負工事としたらば本施主施工予算の三倍を要する見立て。瓦屋根の全面的葺き替えを加えていたら四倍。

 

 この数字は奇しくも、本施工より大規模かつ高難易度な古民家先輩の再生工事も同様じゃないかと見ている。彼は本職にも相当額の発注をしている。素人施主施工で完全に収める事が不可能な工種が複数ある。なので、単純比較は困難だが、完全請負工事で完璧を目指すならやはり彼の予算の四倍に到達するのではないか。請負をある程度に収めたとしても三倍か。ちなみに、元々の予算が我が家の倍の上での四倍や三倍である。これを銀行から借り入れられるのは年収二千万円級の人じゃなかろうか。

 在来工法の場合、この倍数は変わるのではなかろうか。本職工事においての人工代と建材等の割合が違ってくるからだ。しかも、一見の素人が調達する建材等は割高になるはず。それでも三倍程度の開きはあるかも。

 

 この一連の話を書いている事自体の動機は、素人が年単位の長期に渡る施主施工を行うという事が、お父さん含めて初めての経験だろうからだ。

 二人共がこの家のような伝統構法家屋を気に入ったとしても、引き継げるのは一人だけ。引き継げなかった一人が、新築出来る様な財力があったり、この家のような比較的良い状態で売られていてそのまま住むなら無用な話。但し、そうでない場合は全部、又は大部分を施主施工するしか選択肢が無いはず。それは、やってみないと分からない個人レベルでは大きな事である。

 

 お父さん自身がそうであり、数年経った途中段階だから思う事がある。今の所後悔自体はしていないが、諸々悩み等々がある。しかし、完成してからだとそれらを忘失して良い事しか書かないかもしれないので、敢えて途中の段階で言っておく。伝統構法家屋は勧める。それとセットになるかもしれない長期施主施工については特段勧めない。

 

 このままだと矛盾話なので補足する。伝統構法家屋を考えている時点で、人生における住居というものに対しての一定の考えは確立していると思う。その前提で述べる。

 お金と時間、それに人生経験がある人であっても断念するような事を、最低でも検討時ぐらいにはやり通す自信があるか。施主施工の金銭的価値がアルバイト代程度である恐れが高い事を承知しているか。しかも、本当のアルバイト代のような目に見える金銭ではなく自己満足感的価値であり、通帳の額面が増えないどころか減っていく事に耐えられるのか。在来工法と違い遅々として進まない現場で結果を逸らず、変化具合の低さや達成感を得るまでの手間暇の多さに萎えない自信があるか。等々を総じたつもりなのが前出の五つの「き」。

 

 消極的な事ばかり書くのも何なので、施主施工の良い所も書いておこう。

 住居に哲学を持っていようが無かろうが、兎にも角にもお金が付き物だ。煩わしさを極力背負い込まない為、一生賃貸という選択肢も有力。それにしても当然ながらお金が要る。住居はどんな形態であろうがそこは変わらん。これをコントロール出来る術が身に付くかもしれない。

 

 賃貸住居に住んでいる新婚時、水道のパッキンを交換したら高齢の大家から感心された。今時の若者はそういう事が出来ないと言い、それに若者だったお父さんは驚いた。今思うに、賃貸だから大家任せで良いと合理的に考えているのか、はたまた容易に交換出来る事を知らない無知かと思う。同作業を数千円からで駆けつけて行うという業者の宣伝がされている世ながら、自分ですれば数百円ぽっち。知らなくとも施主施工をするような人間なら調べて容易に出来る。

 このような事例を挙げるとキリがないが、施工費だけでなくその後の維持費の低減させる能力を嫌でも有するだろう。それだけでなく、それを生業とする人がいるような不具合の早期発見能力もある程度身に付く可能性が高い。早期発見は維持費の低減に直結だ。

 

 他にも、棚や家具が欲しいとか、もっと言うと書斎一室が欲しいとか思っても実現出来るかもしれない。住居本体や維持作業を購入する事しか知らない人なら予算問題で躓く所も、軽々と乗り越える人間になっているかもしれない。かく言うお父さんも、母屋等の生活の基本となる箇所の施工を終え、応用的な事を行いたくて仕方がないのだな。あぁ、後何年掛かるのかなぁ。