家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

梁束梁貫仕様の因数分解

 では、梁束梁貫仕様にすれば良いではないか、とはならない。それはそれでゾッとする。出るか出ないか分からないヒビと、確実に施工負担増大する仕様変更。なかなか決断に至らない。こういう時は思考の因数分解

 

 梁束梁貫仕様にしない場合。要は、小壁が大きな壁になる仕様。

 大きな壁は、面を出すのが比較的難しいというのが感想。小さい面よりも大きい方が一気に塗られるが、それでも小さい方が確実に楽だった。他の壁の事だが、可能であれば付鴨居等の見切り材を大いに入れていくつもり。面を小さくしておくと、ヒビが入ったりしてやり直すとしても労力は小さくなるだろうな。

 難易度が下がる、という事は塗り厚と面出し基準としてのマステ貼を省略できる。お父さんレベルの未熟者でも小さい面だと可能となっている。汚す事に関しても頻度と度合いは減っている。

 

 そして、もう一つは「布連」の省略。読み方は「のれん」。だけど、暖簾と書くのではなく「布連」。

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 これは左官副資材の一種。柱等のチリに釘にて取り付けられる。左官壁の乾燥時の収縮により、チリに隙間が出来ないようにする為の物らしい。寒冷紗が使われている当壁にもしっかり使われている。一方で、梁束梁貫仕様壁には使われていないかもしれない。チリに隙間がある箇所が幾つかあるからだ。大きな壁のチリに隙間が長々と入っていると非常に不格好。小さな壁なら許容出来るかもしれない。既存の梁束梁貫仕様の小壁の隙間は今まで特に気になっていない。という事で、同仕様にすると省略が出来る物と認定。

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 この布連、採用について設計段階で検討した事がある。しかし、断念した。

 これを取り付ける為にはチリ厚がそれなりに無いといけない。布連自体が埋まった上で仕上材を塗るらしいからだ。以前にも書いた通り、既存荒土壁等にこのチリ厚の余裕が無い。その前提でチリ厚をふかしてくれた施工ではない。石膏ボード下地の左官壁は尚更。布連を無理して使うとかになると、左官材の塗り厚は1cmとか程度になるのではなかろうか。布連を取り付ける寸法分、石膏ボードを透かして貼れば良いのだろうか。う~ん、謎しか無い。

 

 ついでに言うと布連は市販されていない。と言うか入手先が分からない。需要が細くなって供給が限られているっぽい。そもそも土壁需要が細々としている。施主も元請けも左官職も布連を用いた伝統的工法を採らない、若しくは採られない、若しくは知らない。現在でも製作はされていてどこかの店頭では売られているらしいが、そこらの巷には無い。そもそも左官資材を販売している専門店がそこらに無い。建材店と称する所に平日昼間に片っ端から電話をしまくる覚悟と時間と電話代がいる。

 後に知るが、古民家先輩も同材を検討されたらしいが結構費用が掛かるそうだ。需要が高ければ工業技術で作られそうな代物に見えるのだが、手作業割合が高めの製作なんだろうな。知りもせず無責任で酷な考えかもしれないが、伝統を重んじるだけでなく、作り手側から製作方法と施工に対する革新を提供しないと復活しないのではなかろうか。

 

 ここまで来ると梁束梁貫仕様が優位。

 しかし、問題がある。どうやって梁束と梁貫の材を取り付けるのか。場所は柱や梁のチリ。ここにホゾ穴を掘って材を入れる。既存壁面に近い所にホゾ穴を掘る事はかなり無理がある。持っている普通の形状の鑿では真っすぐ刃を入れられないからだ。当然、インパクトで荒掘りする事も出来ない。設計段階から長らく気になっていたものの梁束梁貫仕様にしなかったのは、この問題が最大のネックとなっていたからだ。やりたくても出来ないと。

 

 という事で既存状態のままで段取りを始め同仕様を完全に断念する事に腹を括りかけた時、ふと思い付く。本当にこのパターンが結構ある。差し迫った状態でないとお父さんの脳内電球は通電しない事が多いようだ。で、その思い付いた施工法は、またまた登場の隠しビス法だ。

 今までの同法は、取付材の木表木裏等の面に対して行っていた。しかし今回は、既存柱や梁と接するのは取り付ける板状の材の木口しかない。その為に思い付かなかったかもしれない。木口にビス頭が引っ掛かる細工をしても、木の繊維方向からして強度はあまり期待出来ないかもしれない。ただ、そもそも強度は不要。取り付けて外れなければそれで良しじゃないか。枷になっていた取付施工法問題が外れた事によって損益分岐点が低減、労力対効果を得られると判断。懸案事項だった仕様問題はその瞬間に解決。