家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

記憶の喪失の中にあった素朴な不思議

 はい、天板は設置されました。はい、巾木の漆は硬化しています。ではドッキング、とはいかないワンパターン。壁と天板の取り合いで北側は新設壁、とうに完成している。では、東側と西側はと言うとそもそも壁がまだ無い。はぁ、めんどくさっ。

 

 と思った事は覚えている。しかし、それ以外は結構うろ覚えになっている。漆塗りにまっしぐらのこの頃、他の作業はほとんどが漆塗りの為の下準備や関連物。時は晩夏、予定は梅雨。大幅に工程が遅れている事で、頭は「兎にも角にも漆塗り」状態で一杯になっていた。

 

 早く進みたい、と思うもやっておかないといけない事が多い。それなのにここに来て、柱を建てないといけないだなんて結構キツイ。

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  梅雨を通過して鉋刃が錆び付いている。まずはこれを砥ぐ事から始める。それ以上に厄介なのが柱材が反っている事。納入から一年以上でずっと桟木置き。木元と木先で芯の位置が違う。この芯違いの材は結構多い。

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 お父さんは疑い深い方だと思うが、いざ信じるとなかなか疑わない。あの製材所の製材精度が悪いとはなかなか思え切れず、尋ねる事も憚ってしまう程。ただ、どうせ尋ねても「木は反るもの」的な返答ぐらいしかないだろうし。そう考えるお父さんは結局の所、自分の材の寝かし置き等よりも製材を疑ってそうだな。

 この反りを取ろうと鉋を振るったが、イマイチ取り切れなかった。それ以前に当材は節が多い材、節負けしちゃう。久しぶりの鉋はなかなか手こずった。

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 この内容を書いていてこの時の事を思い出した、鉋の話。

 大工職等が鉋による木材薄削り具合を競う大会があるそうだ。お父さんの知る限りで最薄は2ミクロン。1000分の2ミリだって。確かヒトの細胞の中で小さいものでも10ミクロンだったかな。2ミクロンはトンデモナイ薄さだし、それを計測する機械もトンデモナイな。

 この時の鉋掛けはデジタルノギス購入後初めて。お父さんの最薄記録は0.02㎜。20ミクロンだな。10倍も厚い。しかも、鉋屑は鉋刃巾一杯ではない。もうちょっと巾がある屑は出せるものの、鉋刃一杯はかなり本気を出してやっとちょろっとだ。2ミクロンだとかの方達は、刃巾で尚且つ途切れないで削られるらしい。色々桁違い。

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 ただ、お父さんが思っていた事は薄削りでは無く、厚削りだ。

 神業薄削り大工職の方が実際に現場にても同様の事をされているわけは無いはず。それ程の技量があるんだぞ、という競技だと思う。荒材を化粧材に仕上げる為に2㎜削る必要がある場合、2ミクロンだと千回も鉋を通さないといけないわけだな。それよりも、仮に2㎜を一度に削られる方が仕事が無茶苦茶早くそれが良い大工さん、となると思う。

 お父さんの厚削り記録は0.1㎜程。これ以上の厚さになると、削るのではなくバリバリ剥がしてしまうわ、鉋が走らんわ。節が当たった日にゃ刃が欠けて無理。

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 建築現場で実用的と想像する厚削りも競ったりはされているのだろうか。されているならば一体どれ程なのか。されていないとしても、神業薄削りの大工職の方達は厚削りも神業なのか。

 柱材の反り取りの為に2㎜強を削る必要があったものの、節が怖くて40ミクロン厚にて鉋掛けしていたお父さん。そういう事を考えながら延々と削っていた事を思い出した。