家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

樹液を塗る刷毛

 漆塗りにはヘラやその他に布が多用されるようだが、塗装具の王道と言えば刷毛というのがお父さんの認識。以前はペンキしか知らず、本施工にて柿渋や亜麻仁油に触れる事になった。いずれも刷毛での塗装を行ってきたお父さんにとってはそういう認識。ヘラや布も良いだろう。しかし、何といっても刷毛だよ、刷毛。木地に薄塗りしたり仕上げ塗りしたりするのなら、刷毛がきっと使い易いはずだ。そう思ったあの日の誓いの実行継続。

 

 漆塗りの為の刷毛。これは存在する。古民家先輩は存在するのに使われなかった理由は聞いていないが、お父さんが塗布面積の少ない彼の立場ならやはり使わないかもしれない。なぜなら高価だから。

 最寄りの品揃えが平凡過ぎるホームセンターごときでも、意外に漆塗り用刷毛が売られている。そういう事をするつもりが一切無かったので目に入っていなかった。価格はその他の刷毛よりも少し高くて三桁後半。それでも少し躊躇うのだが、本職が使われるような刷毛は四桁が当たり前。中には五桁も六桁の品もある。鉋、鑿、鏝の吟味で味わったいつかの日が再来。

 

 いや、しかし。いつかの日と違って今回の漆用刷毛は悩まない。特に手道具の場合、結局はそれなりの価格がする物はそれなりにちゃんとした仕事をしてくれる。ここでケチって良い事があまり無いのは身に染みた。

 漠然とした経験則だけではない。刷毛に関して言うならば、巷の三桁刷毛は必ず毛が抜ける。そんな事は小学校に塗装授業があるとしたらテストに出てきてもおかしくないぐらい程の常識。油性ペンキ塗装時に経験済みだが、これが漆塗りの過程で毛が抜けたりするとそれはそれは面倒な事態になるのは明白。

 しかも、漆は高価な粘性の樹液。そう、漆は樹液だよ、樹液。樹液を塗るんだ。壁材として泥を塗るに匹敵する摩訶不思議な行い。この正体不明の相手に対峙する為に、専用道具を選ぶ事に迷う余地無し。