家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「怒りスイッチ」再活用

 古民家先輩は初めてのフローリング施工。それ以前に、初めての施主施工でありそもそも全く畑違いの学校を卒業され、職種も全くほど遠い。なので、思い付きか真剣かはさて置いて、提案する事自体をお父さんは悪い事だとは思っていない。先述したように、知らないんだし。お父さんの説明を右から左に流されて引き下がらなかった事も、仕方が無い程度にしか思っていない。彼を子供扱いするつもりではなく例えば、幼稚園児とかの無垢な誘いを受けて、それを責め立てるような事はしないような感じか。

 その上で今まで連ねてきた内容を懇々と説明すれば、彼は途中で「もう堪忍して下さい」と白旗を上げると思う。お父さんがそれをしなかったのは、先にも書いた彼への心情等が影響している事は間違いない。

 

 でも、それだけではない。今まで書いたように、理屈面で色々考えると床板漆施工はしない理由がほとんど。彼から勧誘される気配を感じてからもその後に検討しても、やはりそこは変わらない。そんな中でお父さんが気になっていたのは、それなのに却下しない自分が何故かという所なのだ。

 

 で、出てきた一つ。後世に残るかもしれないという期待だ。

 長寿命主義を意識してやってきたものの、それはほとんど構造体について。見えない箇所や意識されない箇所が多い。床板漆施工という仕上げ施工面にては、その主義はあまり持っていない。そもそも諦めているフシがあり、劣化じゃなく風化をする建材選定を意識しているだけ。

 今回のような仕上について本格的に考えた時、構造だけじゃなく仕上げも良い感じで残ってくれる方が良いに決まっている。流石に百年以上は無理としても、二人や孫ぐらいには、お父さんが行った仕上げ施工を感じて欲しい、という欲があると思う。

 

 それにもう一つ、高みを目指してみようという想いだ。

 これまでに、長寿命主義で建材選びや施工法の検討をし、それを一応は実現させてきた。新建材に対してならば、全くの素人よりはほんのちょっと毛が生えた程度の人間だと思っていた。しかし、本工事においてはほとんどが初めての内容ばかりで、全くの素人同然さを痛感してばかり。それでも一応曲りなりとも、だ。

 

 漆、ウレタン、油。それぞれが長所短所があるものの、お父さんの中ではやはり最高峰塗料の風格があるのは漆だ。そういう意味で、お父さんも立派な漆ミーハーかもしれない。

 こういう選択肢を突き付けられた時、忙しくて乗れないのに現在も所有している、家さがしや家づくりに大きく影響した赤いスポーツカーを選んだ時と同じ心境になった。中途半端感を抱いたウレタンはすぐさま脱落。油は保護する事が主で風合いは未知数。

 漆は経年変化する事がはっきりしている塗料。それだけではない、完成後の満足感や高揚感が得られる可能性を持っている。また一方で、選択をしなければ後悔する可能性を感じた。

 

 そして最後の要素、「怒り」だ。

 他人様の家でやる事だから引き下がった。しかし、古民家先輩の理想論者なのにコーキング等の多用使用という事には、正直な所は釈然としない事自体は変わっていない。理想論者を辞められるとしても、残念さは変わらないかもしれない。その上で、後世の事へ想いを馳せ、高みを目指そうかという想いの溢れた分は、怒りに近いプッツン感情に変化する。「俺は頑張っているのにお前らは何だ」の破滅思想。また出た、これ。

 

 木の隙間にコーキングを使用している事は流しつつ、床漆は高らかに謳って自然素材が良いだとか言うような奴は許せん。そういう奴に対抗し凌駕する為にも、お父さんだけは信念を貫き通してやる。

 漆仕上げのキッチン天板は神の御業、床板は選ばれし民の高貴な偉業、やってやろうじゃないの。素人達はそもそも眼中外、そこらの玄人施工でも追随を許さない程の工事にしてくれるわ。「拘り過ぎ」「素人が出来るわけない」「施主施工推奨。はい、石膏ボードに漆喰塗っておけ」諸々。うっせぇよ、馬鹿野郎共が。もう全員、窓無し4畳半にでも住みやがれ!!

 

 はい、ここで補足注釈。

 古民家先輩は、コーキング使用を伏せても無ければ床漆を鼻にかけても無く、自然素材原理主義者のような胡散臭い輩でもない。キッチン天板にしろ床板にしろ、別に神の御業でもなければ高貴な施工でもなく、特に高みとは言えない。当時のお父さんが知らなかっただけで普通にある施工法。エセ看板の玄人については補足等無し。

 

 お父さんのヤル気のスイッチの一つは「怒り」。今までの何人かの素人玄人に対する怒りが、お父さんの施工推進力に一役買っている。本件については、事実とは違っていてもこの際構わない。梅雨期を狙った施工をする為には、もう板材の発注を掛けないと間に合わないと製材所から回答を受けていたからだ。

 決定までに時間の余裕が無く、やるにしてもやらないにしても勢いと覚悟がいる。という事で、この前のめり的事実誤認の「怒りスイッチ」を力技で発動、床板漆施工を決定した次第。