家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

現場感覚

 古民家先輩のお父さんへの床板の漆施工提案。良いと思うのなら自己責任でやれば良し。実際にどうやって施工するかは自分で考えろ。嫌ならやらなければ良し。提案するだけならタダ、良かれと思っての好意で厚意な行為だってんだ。

 

 彼がそう思ったとしても全くその通り。ユニットバス施主施工経験者で、それが簡単だと勧めたお父さんも似たようなもの。但し、ユニットバス施主施工は費用が浮く上に、取られる人工数も二、三人工かの短期間。翻って床板の漆施工の場合は、費用はかかるし取られる人工数は数十人工だ。

 いくら漆が良いとは言え、思い付きで勧める内容ではないし、思い付きで実行できる内容ではないのだ。だからこそ、こうやって悩みに悩みまくっている。最大の問題である「施工面」で。

 

 油案での床板施工は、「現場寸法」略して「現寸」施工を予定していた。材を場所にあてがいながら加工して取り付ける、という事だ。

 本家屋は、現代新築家屋のような規格に沿った建造物ではない。四角い部屋の端と端の寸法を測っても、同じ数値にならない所がザラ。なので、一枚一枚とまでは言わなくとも、都度都度採寸しながらの加工を行って床板を打ち付ける予定だったのだ。

 

 また、いくら現代新築家屋と言っても、図面通りのミリ単位で寸法バッチリというわけではない。取り付ける材の加工も全てが完璧、という事ばかりでもない。本家屋のようなものであっても、現代家屋であっても、少なくとも現場では「逃げ」というものを想定する事が多い。

 フローリング施工で言うと、壁とフローリングの取り合い部の巾木が「逃げ」部材だろう。壁に囲まれた居室にて寸法通りに収まるようにフローリングを加工しても、実際には収まらない。フローリング材を入れ込む際にどこかの壁に当たってしまったりする。そこで行うのが、少しだけ短くしたりして材を入れやすくする。そうなると、壁との隙間が空いてしまうがそこは巾木が隠してくれる。以前にも書いたが巾木を床板の浮きを抑える役目もあったが、今時は主として目隠し材だ。

 

 さて、本家屋は巾木を自由に使えない。一部ながら既存材として雑巾摺があるからだ。母屋一階においては畳間から板間への改修工事である。これが厄介。

 雑巾摺を撤去して巾木変更、という選択肢をお父さんは持っていない。これをすると雑巾摺廻りの既存土壁の破壊が伴い、かなりの手間暇が追加発生する。さらには、巾木を新たに入れるのも難儀。雑巾摺は上面しか表に出て来ないので、材の正面に柱に向けて釘が打てて留める事が出来る。巾木はそうはいかない。材の見付け正面が丸見えな分、これまた手間暇がかかってしまう。

 よって、既存雑巾摺は巾木のようにそのまま使った施工をしようと考えていた。その為には、床板材は単純切除だけではい加工を要する。漆が塗られた綺麗な材に機械を通してこれらを施すとなると、床板への養生手間も発生する。失敗したから残材で、との安易さも許されない。

 巾木問題はほんの一例。全面床板施工だけにその他も色々ある。まぁ、考えれば考える程、白木材のままよりも漆化粧材の施工は荷が重いのだ。

 

 違う角度からも問題がある。キッチン天板施工でも触れた、地味ながら無視が出来ない長尺材問題だ。

 床板材は4m。建材にて4mというものは多い。一般的階高からしても一般的居室面積からしても、最大4m内に収まるものが多いからじゃないか、とお父さんは思う。一般家屋においては、4mを超えるのは通し柱材ぐらいじゃなかろうか。違うかな。

 

 建物規格面だけではない。荷運び問題もあると思う。手運び一人持ちだと4m迄が現実的ではなかろうか。

 勿論、通し柱以外にも4m超の長い建材も色々ある。その中で重量物はそもそも別論として、仮に8mの杉材があるとすると巾200㎜で厚30㎜ならばざっくり20kg。お父さん独りでも持てる重さだ。

 しかし、事は簡単ではない。長すぎてコントロールが効きにくいからだ。このような材を持ちながら90度回転でもしようものなら、そのまま180度してしまって出発地の荷下ろし場所に戻ってしまうではないか。もし広大な工場の新築現場とかであっても、一人持ちしていたら監督から怒られるかもしれない、「危ない事すんな」って。

 8mは仮話でそんな材は特殊過ぎる。ただ、フローリング規格で一般的なのは2mと見受けられるが、これと4m材でも取り回しは全く違ってくる。長さが2倍な分だけに大変さも2倍、ではない。感覚的には大変さは2乗だ。漆化粧の4m材を家屋内で振り回す。考えるだけで滅入る。

 

 では、貼ってから塗るのではどうか。油と同じ方法であり、将来の塗り直し時に行う方法。事例も多く見受けられる。

 しかし、これについてはまず感情的に嫌だ。綺麗に塗られるイメージが湧かない。塗り直しと一発目の塗りでは仕上がりへの影響度は段違いのはず。綺麗に塗られる要素を減らしてまで漆にする必要性は感じないのだ。

 

 たまに見受けるのが、素人施主が本職に無理難題を言っている内容。その内容によって千差万別なのだが、お父さんは両者の気持ちを想像してしまうものがある。それは、施工現場や工程等諸々を知らないで、一面だけの判断で想いをぶつける素人の内容。

 困ったものだが、一方でそれは仕方が無いと思う。だって、知らないんだから。お父さんも施主として言う、いざとなれば施主施工覚悟で。困った施主の最たるものだな。

 施主がそんなお父さんであったとしても、お金を貰う側の本職が分かり易くちゃんと説明する責任がある、面倒だけども。今回の件は、古民家先輩は施主ではない気楽な提案者であり、お父さんはそれを真に受けた当事者。彼へ必死に説明しても何も生まれない話。