家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

昔はブイブイ言わせていた

 さて、彼とのこの事と、漆提案の無碍な却下が出来なかった事と何が関係するのか。

 

 理解されないだろうが、お父さんは感情移入していたのだ。

 彼は自分の矛盾等を承知していた。それを開き直っているのなら馬鹿者に過ぎないが、葛藤や苦悩をしてきただろうし今もしているかもしれない。その上ででも、漆施工は貫徹しようとしているのだ。妥協的、乱心的施工をしたりするのに、漆にはしないのだ。漆施工に間に合わせる為に、その他を妥協したとも言えるかもしれない。

 お父さんの偏見かもしれないが、彼は元々あまり他人の意見をホイホイ聞きそうなタイプじゃなさそう。その上で、漆への本気度の高さを感じずにはいられない。このような人に穏便に抗するのは生半可じゃ無理そう。彼と同い歳頃のお父さんなら、容易には引かないしな。

 

 そして、彼の良かれと思ってのお節介さへも感情移入。

 お節介さでは、彼と同い歳頃のお父さんも負けてはいない。お父さんも彼の立場なら間違いなく遠くの他人でも勧める。それだけではない、手弁当で手解きまでしに行く覚悟を持って勧める。相手にとっては逃げるのが至難な迷惑っぷりだ。今でこそお節介は他人にはめっきりしなくなった。しかし若かりし時には、付き合っていた恋人からの別れの理由で「友人を大事にし過ぎ」と告げられたリ、だけど友人は喜ばないどころかしっぺ返しを食らわして来たり、非お節介なお母さんには理解されずに呆れられ、で萎えいでいった。

 

 そう言えば、幼馴染の母親から「もっと息子に言ってやってくれないだろうか」と頼まれた事がある。イラストレーターとして自立すると東京に行ったものの、いい歳になりながらもフラフラした感じがあるからだ。

 お父さんは何十年に渡り、相当散々にお節介を焼いて来た。お父さんの世代で、お父さん程のお節介者は他に知らない。しかし、幼馴染は笑顔ながらもお父さんに耳を貸さない。同じ事を言われても他の人間の弁の方を聞く。ある日、お父さんがやり過ぎた事もあって逆ギレされる。そういう経緯を踏まえ、「散々色々言ってきたんですけど、彼は受け流すだけで聴いてくれませんよ」と彼の母親に言った。すると彼女は「今時の若い人はそういう感じやねんねぇ」と。

 いやいやいやいや、俺の話を聞いてたの?? 今時の若者の俺は、今時の若者よりも遥かに他者に干渉してるっちゅうねん!! あの息子にして、この親ありかぁ~!

 

 そんな思い出も今は懐かしい、昔はお節介でブイブイ言わせていたそんなお父さんが、多忙で疲労困憊かもしれないにも関わらず、良かれと思っての若い方からのお節介を検討もせずに拒むだなんて。鬼畜の所業、理不尽甚だしい。全く持って筋が通らない。

 

 という事等々、彼から冗談であったとしても漆教勧誘をされてしまうと、真に受けて検討をせざるを得ない要素が揃っていた。だから、他の方からならいざ知らず彼からは、勧誘自体が来ない様に願っていたのだ。

 我が家の床板塗膜材について急遽、当初計画の大変更の恐れがありながらも再検討。その起因は、直接的なのは古民家先輩からの勧誘、そして間接的なのはお父さんの彼に対する心情的な事。インターネットを通して知った方なのに、若しくはだからこそなのか、このような存在になるとは驚き。そんなちょいとクセがある経緯からだった。

 

 ならば、検討はするだけして却下になればいい話。という訳でもなくて前述通り、検討自体も負担に思う左官施工期であった。お父さんの脳みそ容量はさほど多くはなさそうなのだ。さらには、検討すると採用になりそうな予感もした。

  そう、勧誘から採用へ直結しそうだった事もあったのだ。彼の状況や心情を慮ってばかりではなく、お父さん自身にハッキリ却下出来る理由が無かった、漆の事をあまりに知らないから。そして、知ってしまうと漆が床塗膜塗料として採用に値すると思ってしまいそうだったのだ。

 

 例えば、床板検討時にキッチン等の水回りでの汚れや水掛かり問題。タイル材を使用しないと決めた事により、よくある方法としての油性塗料の木板への塗布だろうな、と思っていた。それ以外の選択肢をお父さんもお母さんも知らなかった。故にこれでほぼ決定していた。

 ここに漆という選択肢が生まれると、そちらに流れるかもしれない。塗料としてどこまでするかの問題だと思うが、そうなると最高峰かもしれない漆は有力候補になりそうだと。そう考えそうなお父さんが一番怖いのだ。