家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

ミーハーを踏まえた差別化

 では、天板は木地で行くとしても漆でなくともええんじゃないか、とは思わなかったか。はい、あまり思いませんでした。

 

 漆に匹敵する塗膜材となるとウレタンがあるようだ。漆について調べている過程で、ある木工家の方のブログに行き着いた。その木工家の方は家具の仕上げとして漆を使い始めた方のよう。一方、漆使用を懐疑気味に書かれるウレタン使用の木工家の方と、そのブログ上でやり取りをされていた。

 ウレタン木工家曰く、塗料として漆がウレタンよりも特に秀でている訳ではなく、ウレタンも施工に難しさがある。漆が特別では無い。ウレタンを極めていくのだと。これに対して漆木工家曰く、その通りではあるが漆仕上げにする事で差別化を図っているのだと。

 

 このやり取りを傍から読んだお父さんの率直な感想は、「漆木工家の方はなんて正直」だ。「漆」だと有難がる人間は恐らく多い。キッチン天板なんだし十分だと思うが、「ウレタン」と聞くと誰しも大抵無反応なはず。そう、漆の事をよく知らない人間であっても、多かれ少かれミーハー心理が働くはずなのだ。長寿命建材主義者のお父さんもそうだし、古民家主義者や自然素材主義者なんてほとんどそうかもしれない。

 

 だとすると子孫が賃貸出しする際に、これは差別化になるのではないか。

 事実、お父さんは古民家と呼ばれる家屋を内覧していた際、タイル貼やビニールクロス貼の台所にプリント合板だろうがホーローだろうがシステムキッチンがあると、興醒め感やガッカリ感を抱いた。

 外見から非日常的だったり趣を感じても、中に入ると見慣れた光景。一気に日常的現実感。実住居なのでそれで良いのだろうがそのギャップが嫌だった。これが逆なら良い。一般的在来工法中古住宅なのに、というやつだ。見た目や口ばかりで中身が平凡よりも、見た目は平凡で口数少なくても中身は濃い。そういうカッコいい男のような家屋とは会えず。そのような改修をしたのは、システムキッチンという画期的で新しい文化に当時の奥さんが飛びついたのだろう。そう思うと諦められる。

 

 この家でもそうだ。現実問題として、竈がからシステムキッチンを入れるのは当然の選択だとは分かっている。竈との二択ならこれだ。でもねぇ。

 一方、そこに木製天板で漆仕上げのシステム的なキッチンが綺麗に存在していたらどうか。この家がそうだったのなら、お父さんの値引き交渉の姿勢は弱くなっていた可能性がある。

 

 製作者が本職か非本職かを問わず、漆仕上げの造作物がインターネット上には見受けられる。だが、その細かい工程まではお披露目されておらずで分からない。漆の事も未知が故に畏怖の念を抱く。でも、ウレタン施工もお父さんにとっては未知であり、彼ら木工家の方の言う通り漆並みに難しいのであれば、どちらで頑張るのかはハッキリしている。

 

 弱気や迷いを押し留め、未知なる漆道への推進力となったのは以上の理由からだ。