家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「出来なければ言って」

 おじいちゃんが機械いじりやメダカとツバメとスズメと戯れていたのは、何もサボっていたからではない。先にも書いた通り、キッチンの設計と施工停止が全体の施工を止めていたからなのだ。ここを止めたまま他を進めると全てが中途半端になる。何より、後述するがキッチン天板の加工を早々に進めないといけない時期がとうにやって来ていたのだ。

 前工程である左官施工中にもおばあちゃんには度々この旨を伝えて、碌なことにはならないので避けたかった「急かし」を始めていた。さすがのおばあちゃんも案を考え出すようにはなっていた。しかし、まずは意図がさっぱり分からず、案とは言えない案。昨日今日考えたような案。以前に説明等を終えているのに反映されておらず初期に戻っている案。おじいちゃんの想定を遥かに凌駕するポンコツぶり。案の定、急ごしらえ案での施工になるじゃないか。あぁ、揉める、揉める…

 

 おばあちゃんは物の整理整頓だけでなく思考の整理、それに時間整理(管理)も苦手な人だ。

 目の前にある単純作業の手伝いは不平を言わずしてくれる。一見、良い事だ。ただ、それを行う事で他の家事やらをないがしろにしてしまったり忘れたりという事が数多ある。これは家庭内だけでなく会社でもその節がある。良かれと思っての事ながら、結果的に安請け合いをしてしまっている。

 

 おばあちゃんは夏休みの宿題を7月中には終わらせているような学生だったとの事。8月末に慌ててやっていたおじいちゃんにとって、これはたまげた事だ。おばあちゃんは計画的で優秀な人なんだなと思っていた、20代の時までは。

 学生時代は自由な時間が山ほどあった。それを無計画に目の前の事をただただこなしていただけ。それでも小学生おじいちゃんよりは確かに優秀。独身時代も会社の仕事だけしていれば良く、一切家事をしなくて良かったので休日は全て自由時間。しかし、結婚した事で状況が変わって来る。おじいちゃんの観察により欠点が発覚するのだ。

 与えられた事や言われた事をこなす能力は、大人になっても本業でもあるようだが、自分で計画を立てて期限を決めて物事を進める能力はほぼ完全欠落している。おじいちゃんと違って叱られずに褒められて育ち、仕事でも結果を出していたおばあちゃん。かなり優秀で立派な人間と自認していた事もあり、この指摘を長らく認めなかった。

 

 優秀で立派な所がいくつもある事はおじいちゃんも知っている。しかし、それと苦手や不得意な事がある事は別物だ、人間だものと説明する事幾万回でも理解不可。

 おばあちゃんの会社や業界が変化し始めて、雑務や自己管理を求められる事が増えるようになった。そうなると、優秀なはずのおばあちゃんは対応が出来なくなり始めている。環境激変に巨体が故に対応出来ず絶滅した恐竜の様に映る。30歳頃には「時間は作るものだ」と豪語していたおばあちゃんも、30代半ばにはさすがに言わなくなった。言わなくなったが、計画の組立も時間管理もあまり出来ないのは変わらない。

 これらが出来ない人に、「出来なければ言って」「出来ない事を出来るとは言わないで」と言うおじいちゃんの方が無理難題を言っているのだろうか。

 

 キッチン天板材納入後、天板の反り防止加工を施した事は書いた。この際、勿論設計案がないままでの取り急ぎの加工。これは悔いが残るものだ。やはり全体案があっての加工をしないとダメ。今回もおばあちゃんの案は待てない。年単位で粘ったがもう待てない。待てば待つ程、施工は停止し夫婦不和だけが進行する。結局、おじいちゃんが思考の交通整理と整頓をして、目下の最低必要事項のキッチン設計を行う事を妥協。二年近くかけた結果出来たのは、二、三人工あれば余裕で出来る様な内容だけ。

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 大袈裟ではなく、こんな事がおばあちゃんにはとても多い。その度に、おじいちゃんの脱力感は半端ない。