家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

傷心からの起死回生

<材作りの道具>

 大斑直しから中塗りに移行して間もない頃。それまでの材作りの方法。トロ舟に泥と砂を入れて鍬で混ぜ捏ねる。硬さ具合を見ながら水や、頃合いを見て灰汁抜き藁を投入。

 一回当りの投入量は泥と砂でざっくり10ℓ程。計ってはいないが重量にすると20kg近くにはなっているのだろうか。これを鍬で捏ね捏ね。きょうこもやってみたいと挑戦したもののほとんど出来なかったぐらい。小学生女児にはかなりの、成人男性(おっさん)にもちょっとした力仕事だ。

 

 鍬でやると材の加減が分かって良い。しかし、ケチって短目の柄にした鍬は中腰姿勢を強要しなかなか辛い。よって、最後の仕上げは膝をついて混ぜる始末でさらに力を入れ難い。そして何より難儀なのは、投入量が多いと固形状に近い泥の場合は均一に混ぜられない。左官施工中に固形状の泥にあたると、それまで出来ていた壁が破壊されてしまう。一体、何のために小石等を取り除いたが分からない状態。それを減らす為、一回当りの材作り量はざっくり10ℓぐらいにせざるを得なかった。

 ちょっと塗ってはバケツ一杯分の材を作り、またちょっと塗っては、の繰り返し。ああああ、面倒臭い。それに大変。材作りという次工程が面倒で大変となると、前工程の塗り自体が気持ち的に捗らない。

 

 ところで突然ながら、昭和の漫画によく出てきた描写で、登場人物の頭上に灯る裸電球がある。何かを閃いた際のものだ。二人の時代にはこういう描写が無いだろうか。若しくはLED電球にてあるのだろうか。何にせよこれは上手い描写。本当に点いたのではないかと思う事度々。材作りで何とか出来ないかとずっと思っていた際も、お父さんの頭上に投光器以外の白熱電球が点灯した。

f:id:kaokudensyou:20160602193346j:plain←こういうやつね。

 

 何を思い付いたかと言うと、攪拌機の使用だ。それまで土壁材への使用に思い至らなかったのにはちょっと訳がある。

 以前にも少し触れたが、漆喰材作りはきっと大変だろうと、施主施工時のみに混ぜると言う一用途しか思いつかないのに買っておいた。先端に付ける羽根は、漆喰に混入するスサが絡みにくいと言う専用の物。この羽根はもう製造されていない。需要が無いのだろう。なかなか見つけられなかった物を探し出して購入。

 これの初陣は古民家先輩邸での荒壁施工時。普通の羽根仕様ではなく、良かれと思って、喜んでもらえると思って特殊羽根を付けて攪拌機を期待感一杯に持ち込んだ。しかし、荒壁に混入するブツ切り藁が羽根に絡む絡む。これを見た古民家先輩は苦笑いしながら東海弁にて曰く、あまり使えなさそうだと。

 これが真顔でサラッと冷淡に突き放すように東京弁で言われた日にゃぁ、まずは内股で地面に叩きつけ、そのまま袈裟固めを掛けて戦意を奪い、絞め技か関節技を繰り出す所。それぐらいの八つ当たり、いや、落胆を伴っての敗走。勿体ないので荒土プール混ぜにたまに使っていたが、本番は漆喰施工時と決めて仕舞っておいた。

 この話に触れるのは二回目か三回目か。それぐらいのガッカリ感があり、その事で思考から消していたようだ。

 

 大斑直しや中塗り材の藁はスサ状態。もしや使えるんじゃなかろうか。しかし、トロ舟だとやりづらいのは経験済。という事で、石膏材で使ったポリバケツを再投入。

 結果、すこぶる良い。材作りが一変した。混ぜる事の省力化だけでなく、一回の投入量がほぼ倍増に至る効率化。羽根へのスサ絡みについては前評判通りで、一々取り除く必要はない程に大して起こらない。さらには、鍬で難儀していた固形状になった泥も粉砕してくれる。その攪拌力の為か、材のとろみが増したような気がする。

 

 継続使用は出来るがポリバケツは傷んだ。裂けるには至らずとも結構削られたのだ。それでも大斑直し開始から使わなかった事の方がしくじったと思う。完全固形状の解体大斑直し&中塗り土を中塗下付材に用いようと考えられたのは、攪拌機があってこそ。

 石膏材攪拌時に汚名挽回はしていたものの、買って良かったとようやく強く思えた攪拌機。見損なっていて済まなかった、攪拌機。有難う、攪拌機。

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