家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

ヒビ・剥離と水の不思議メカニズム

<ヒビ・剥離と水の不思議メカニズム>

 平成生まれの二人はどう学ぶか分からないが、昭和生まれのお父さんは光合成による酸素発生は、植物が取り込んだ二酸化炭素から出来ていると学んだ気がする。二酸化炭素が分解されて酸素と炭素となり、酸素は空気中に放出、炭素はデンプンの材料になると。しかし、違ったのだ。酸素の素は水。植物内の水が光エネルギーで水素と酸素に分解、その水素が変化した物と二酸化炭素とでデンプンの素が作られるそうな。

 酸素は、水から水素を取り分けた残り物。これ、つい最近知って驚いた。どこかの科学者が酸素生産や二酸化炭素消費目的で、でも貴重な水はあまり使わずに済む新種植物を創ったとしても全く役立たないぞ。って、そんなおバカな科学者はおらんか。

 以下、結果は同じだが過程は違う、という話。

 

 お父さんが考えていたヒビ・剥離の発生要因に、材配合時の水量がある。水が多いとヒビ等が起こり易いだろう、と。二人が理科が不得意だとしても、何となく想像はつくのではなかろうか。

 難しい風に言うと。泥粒子やらリグニンやら藁繊維やらの接着力や結合力で塗られた際の体積状態の維持をしようとしつつ、水蒸発により容量減少。この捻じれが割れを起こしている、と説明出来るだろうか。水が多過ぎる=蒸発後の容量変化が大き過ぎる事が割れに繋がると。

 

 しかし、これだけじゃないのではと疑問が出てきた。と言うのもヒビ割れは、下地の脆弱さを除くと、塗り厚条件の違いによって起こっているようにも思うからだ。

 厚塗り箇所では、ヒビ割れないようにと硬い材=含水比率が少ない材にしたのに容赦なくヒビ割れる。薄塗り箇所では、水引きによる硬化が早い事で塗りにくいからと柔らかい材=含水比率が高い材にしたのにヒビ割れない。全部か一部か断定出来ないが、これらの差が見受けられた。

 前述の蒸発時収縮の事を考えると、水量自体ではなく材の中の水比率が問題になるはずだ。言い換えると、泥量の多少の大小よりも、ベチャベチャの泥の方がヒビ割れそうに思わないか。でも、そうとは言い切れないのだ。

 

 お父さんは化学実験をしているのか。いや、左官施工の為に考えているのだ。そう自分に言い聞かせながらこの謎に悶々とする。

 でお父さんの悶々の結論は、「乾燥差力」と「下地との混和接着力」とのバランス。

 

・乾燥差力

 ヒビ割れ箇所の材は、壁表面側に向かって大小はあれど反っているものが見受けられる。荒壁でも大斑直し壁でも中塗り壁でも共通。この事に着目。

(1)材の壁表面側は空気に触れる為に蒸発速度が早くて、壁内側は水が留まって湿気っているので遅い。

(2)この差が収縮差となり、材を反らせる力となる。

(3)塗り厚が大きい程にこの乾燥差も大きくなり、よって材を反らせる力も大きくなるので何が何でもヒビ割れる、又は剥離する。

(4)塗り厚が薄いと差力が小さいのでヒビ割れない。

 

・下地との混和接着力

 薄塗り材がその下地を伴って動いてしまうのは、薄塗りで材を動かす力が小さくともその力に負ける程の脆弱さだから。

 

 

 さぁ、こう考えると塗り厚と材含水比率の関係に合点がいくぞう。

 他にも、まだ寒さを感じた中塗り開始頃よりも、乾燥環境が良好になってきた直近の出来の方がヒビ発生率が高いんだな。もう一点後述する事はあるが、この表面乾燥の環境変化に対応出来ていない事も考えられる。

 

 これを書きながら思い出した。下地との混和接着力を得る為に、言い換えると下地に馴染ませる為に、わざとしっかり水打ちしたはずの箇所でヒビ割れが起こっていたのだ。一方、含水比率が高い材だからと水打ちを弱くした所はヒビ割れが起こっていなかった。同じような塗り厚でこの違いは謎だったのだ。

 これについても、全箇所ではなかったかもしれない。しかし、もしかすると後者は材の壁内側は下地からの水引きと、材の壁外側は蒸発とによる初期乾燥バランスが許容内だったのではなかろうか。

 

 お父さんの施工上の結論。

 材の含水比率はあまり神経質にならずとも、塗り易さに重きを置いてもあまり問題ない。水が多過ぎても少な過ぎても塗り難いから自然と程々に収まるだろうけども。

 水引きにあまり神経質にならずとも、水打ちはほどほどで。し過ぎようとしても、時間が掛かるし流れて出来ないだろうけども。

 さらに、季節(乾燥環境)要因があるかもしれず、乾燥好環境下では厚塗り注意。

 

 これらが本当に正しいのか。確証を得られたとしても、その時は中塗り施工終了時頃か。他現場で施工する事もないだろうから役立たない研究結果だろうな。