家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「面出し」方法の準備

<「面出し」方法:準備編>

 「面出し」。塗り壁を平面に仕上げる事。この用語を使われていたのは探検さん。お父さんもこの用語を使わせてもらう。素人がこのような用語を使うと少々本職っぽい雰囲気を纏う事が出来るが、あくまで雰囲気だけ。仕上がりは面出し一本を目指す事に集中したものの、それでも素人にとっては手強い目標。

 

 左官に関わらず大体の事において、何か難しそうな事に挑む際にやみくもに進む事はどうかと思う。それは、果敢ではなく無謀じゃないだろうか。若い時は無謀さも良いかもしれない。今のお父さんぐらいのオッサンになると、せめて可能性を見出してから行動する姿勢になっている。もっと言うと、見出せないと動けない。

 本職には無く施主には有る唯一と言っていい武器、「時間」。施主施工実施の可能性が出た時からある一貫した見方。今回も、この武器を多用する事になる方策を考えた。

 

○面出し基準の設置

 土壁が接するチリ部に、面出し基準を設置しておいた。用いたのはマステ。前述したがマステは土壁周囲の養生の為。しかし、それでけではなくこの基準の為でもあった。なので、垂直になるように、平行になるように、直線になるように、既存土壁の凸凹が覆えるように、チリを確保出来るように、とマステ貼。結果、そこそこの人工数を要す。母屋一階一期工区と同二階工区の総域で凡そ4人工程だったか。

 このマステ基準は漆喰仕上げ面基準。中塗り用面出しだけにマステ貼、はさすがに大変。兼ねる事で省略。よって、中塗り面出しにおいて、漆喰塗厚を踏まえた余白を設けて施した。

 

○定規の準備

 引く。切る。書く。これらを綺麗に行う必要がある際に用いるのが定規。日常的常識。これを「塗る」にも用いる。至って簡易的発想。

 やり方も至って簡単。塗った壁に、大体真っすぐの木材を当てがって隙間具合を見る。本職が定規を用いたとしても片手で数えるぐらいの頻度かもしれない。しかし、お父さんは気が済むまで何回でも都度都度見る。膨らんでいる所は削り、足りない所は盛る。そして、均す。納得するまでそれら繰り返し。

 中塗り壁は仕上げではない。なので、木材定規を塗った壁に直接付けてしまってしっかり見る。定規が当たった箇所の壁表面は、乾いてなければ乱れる。それは鏝で直せばよいだけ。同じ事を漆喰仕上げ面では出来ないはず。下地である中塗り段階でしっかり見ておき、面出しを行う。

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 基準と定規に従って行う。どう、出来そうだろう? 素人お父さんにでも面出しが出来るかも、という希望をもたらしたのはたかだかこの程度の事。

 繰り返す。何にも持っていない素人が、何にも用いずに面出しに拘って挑む。それは、果敢ではなく無策で無謀。本工程を本職に依頼すれば、報酬として少なくとも二桁万円台半ば程度を要するのではなかろうか。簡単な準備さえもしない素人が本職並みの出来具合を欲するのは、寝転がったままで数十万円を頂戴とせがむ事と同義語だ。

 準備をしてそれでも上手く行かなければそれは仕方が無い。その覚悟を持って施主施工を選択したはずだ。しかし、やれる範囲の事さえもやらずに、後から何をのたまってもそれはただの言い訳にしか聞こえない。

 

 一応述べておくが、ちゃんと左官教室に通われたりするような方がおられる事からすると、こう書いているお父さんは無謀の類だと思う。その自覚はある。自覚があるので、設計段階でも考慮はしてみた。

 中塗りを施したのは既存壁はどうしようもない。しかし、新設壁においては「大きな壁には見切り材を入れる」という事を決定している。既存意匠との兼ね合いの為、そして左官工程の為だ。大きくなると、基準線や定規を用いても難しいと見越した。新設壁のほとんどは、いきなり漆喰仕上げ塗りだから尚更。上下方向には付鴨居、横手方向には構造上不要でも柱を見切り材目的として、費用と手間を掛けてでも設ける。

 これは何も、施主左官施工を踏まえた賢い施主設計者、という事を指さない。お父さんは先人の知恵を真似たに過ぎない。本職であっても見切り材がある方が良いのだ。ならば素人ごときにはもっと有用だろう、というお父さんなりの謙虚さ。