家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

左官中塗り工程突入プロローグ

 ところで、左官工程の山場の一つ「中塗り」について。荒土プール内が空になった事で一段落を至る。

 この中塗りについて書く前に、お父さんの考える「大工」と並び立つ家屋を成す双璧工種、「左官」について触れたい。「左官」を考えると、日本の住宅文化の変移や現代住宅業界を垣間見られるような気がする。

 

 双璧工種、と言っても勿論、基礎屋さんがいないと話にならないし、屋根も絶対。建具も必要、水道や電気は現代生活に必須の工種。しかし、これら双璧以外の工種が欠けた建物でも、家屋としては成立する。屋根は板葺き、建具は板張り造り、柱は土中埋め等にすれば。江戸時代前の庶民の家屋はこんな感じだったようだ。例えば茅葺屋根は、町中の家屋では施工と維持不可工法。石場建ても建具も畳も瓦屋根も贅沢品。これらが普及し始めるのは三百年前ぐらいからだったかな。

 

 土壁というものが建物に求められるようになってから、大工という主役工種の助演級、時にはダブル主演級の重要工種となった左官。現代ではどうかと言えば主に脇役。とことん片隅に追いやられる工種になってしまい、下手するとエキストラや無役。

 ある施工に対して水を要する工法は「湿式」、水を要しない工法は「乾式」。昔は、壁が土やらモルタルやらの「湿式」が多用される主流工法。これを施工出来るのが左官職。まだ辛うじて双璧工種と言えそうな頃だ。しかし、昭和後期頃から平成の間に主流になったのは「乾式」。内壁は石膏ボードにビニール、外壁はサイディングの家屋。土間コンを打つ場合は左官職が必要なので、こういう施工の時ぐらいしか呼ばれない。

 結果、左官本職自らが「自分は『土間コン屋』だ」と自虐する有様。それならまだマシな方で、左官職が一切存在しないで成立する現場もあったりする。かつては双璧工種だった思うに散々だ。

 

 左官職を建築現場の双璧工種から、建材と工法次第で脇役や無役に至らしめた事。これを「成功」と捉えて脇に追いやった工務店等の元請けの都合が主因ではなかろうか。お父さんはそう想像している。代替工法の出現により、左官工程がイの一番に排除標的にされたのだ。動機は、工務店の実入りを増やしたり工程管理労力の低減、平たく言えば楽さの為。

 施主の要求と言うのも一因だろうが、その要求は元請けに誘導されている面があると思う。モルタル壁だとひび割れが出やすいし、工期も長くなるし、工賃も高いですよ、とか。無知で無考な施主ならイチコロ、そうでなくても同意を得るのは難しくなさそう。左官職の方で、自分達で首を絞めたと自嘲的な事を言う方がおられた。それも間違いないと思うが、主因は元請けじゃなかろうか。左官は廃れ行く工種、又は希少工種になるのではなかろうか。