家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

左官の道、いと険し

 洋の東西を問わず、普通の住居はその土地にある素材で造られた。日本の場合なら木だが、石の地域もある。泥土もあれば、家畜の皮や排泄物も建材にされたりする。自然の素材だけに住み手自身が建てる事が出来た。と言うか、そういう家しか建てる事が出来ず、又それで充分だったわけだな。

 しかし、時代が進むにつれ高度な仕様や技術が生まれて求められる事になる。でも、建材は変わらず自然物。自然物を高度な仕様に収める為には、高度な技術が必要。それを行う人は専業化、職として成立する。

 

 新建材やらを扱って加工する人を「職人」とは言わない。化学調味料入りスープの素と乾麺が入った袋を開けて調理して、具材に凝った美味しいラーメンを作る事が出来ても「ラーメン職人」とは呼ばれない。出汁やら小麦やらの素材からの吟味をし、それらを自身の知識や技術や選択眼で調理加工し、質素な具材でも美味しいラーメンという完成形を産み出せる人、それが「ラーメン職人」だ。

 これと同じ。素材を形に出来る事こそ「職人」の成せる業。水と藁と泥砂を使って綺麗な壁にする。塗るだけなら大抵の人間が出来るかもしれない。しかし、「綺麗な」だ。とうとうこの職人の域に素人お父さんは踏み入れる。

 

 施主施工自体を楽しんではいないいつものお父さんなら憂鬱状態。しかし、珍しくそうではない。我ながら意外にも、少々楽しみな感覚を抱く。

 これが終われば現場感から住居感に一気に変わるという事もあるが、それ以上に事前準備の労があった為かと思う。土壁解体や藁調達から始まり、寝かして面倒を見て漉してと来た荒土作り。埋め木をして削り、塗料の検討をして塗布、そして養生。さらには、練習をしてみたり水引対応設備の導入をしてみたり。

 この間、1年を裕に超えている。これらは今から行う大斑直しの為に、そして憂鬱になる要因を排除する為に費やしてきた労力と時間とお金とも言える。あぁ、長かった。

 

 大斑直し土配合=荒土1.7リットル:砂1.0リットル:藁スサ10.2g にて準備。

 で結果。塗り精度についてはほぼ平らに出来た。今回の施工箇所は小さい箇所ばかりだからだろう。

 但し、一部失敗。塗った土が乾燥過程で浮いてきてしまった。お父さんが考えるに要因は厚塗りし過ぎ。

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 下地の荒壁から漆喰仕上げ面まで3cm近い所があった。大斑直し、中塗りの二工程にて、仕上げ塗り分の残厚3㎜程度にまで持ってこないといけない。と考えて、今回の一工程にて1cm以上の厚で塗る。

 この厚い土が乾燥し出すと、その反る力は下地への水打ちによる混和接着など効かないようだ。それどころか荒壁が剥がれてしまった。浮いた大斑直し土を剥がすと、既存荒壁が薄すぎたようでひっついて来てしまったのだ。天井懐だからと手抜きしてたんじゃないか、当時の二流左官職が。これじゃぁ、吸震壁もへったくれもないぞ。

 

 大斑直しのこの厚さはマズいのではないか、と壁三枚目から遣り方を変えた。左官は基本的に薄塗りの塗り重ねのはず。何も二工程が絶対ではない。三工程、必要であれば四工程で中塗りを完了させる、と工程数から厚さ重視に軌道修正。最大厚でも5㎜程度だろうか。これが功を奏したようで、今の所浮きや剥がれ発生せず。

 

 いや、あるにはあったがそこは水打ち不足。もう一つの失敗要因。水引きが進んだが大丈夫だろう、と追加水打ちをせずに施工。そう思った箇所はしっかり浮いていた。触ると荒壁の泥が手に付く程明らかに濡れている状態が必要のようだ。

 

 一部とはいえ、これでこの箇所の工期は予定より大いにずれ込む事が確定。補修した荒壁からの乾燥待ちとなると、中塗り着手まで3~4週間は延びる事になりそう。左官の道、いと険し。