家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

対「水引」兵器配備

 「水引」。左官工程において、下地が水を吸う事。

 下地が上塗り材の水分を吸い過ぎると、施工がしづらくなったり、施工自体の不良になる。例えば、水により硬化するセメントの場合は硬化不良になる。土壁の場合、下地材の水引等により上塗り材との接着面に水気が少ないと、下地材と上塗り材の接着不良が起きる。十分な水によりそれら材同士が混和されて接着状態になるが、それが阻害される。また、水引により上塗り材の水分が少な過ぎる状態になると、硬化が早々に起こり始め、塗りづらかったり手直しが出来ない等施工難易度が上がる。

 

 こんな具合で理解をしていた。そんなお父さんに、手伝いに来てくれた探検さんはご助言を下さった。探検さんは、古民家先輩邸で中塗り工程のお手伝いにも行かれていた。

 そのお話の内、大きく占めていたものはこの水引について。大斑直しまで行っている土壁の水引はとても強く、水が打っても打っても吸われていくと。本職なら、それに追いつきながら綺麗に塗るという、早さと技量をお持ちだろう。しかし、素人はそうはいかん。ただでさえ大斑直し面が平らな状態ではないので、中塗りの難易度は高くなっている。その上で強力な水引が起こっているものだから、中塗り土が硬くなって手直しが後から容易には出来ない。

 また、大斑直し面が凸凹だったり歪だったりという事は一枚の壁でも厚みが違っている。その箇所による厚み違いは水引加減の斑さも生んでしまう、と。

 

 探検さんはお父さんの為にと、それはそれはもう丁寧に懇々とお話して下さった。それまではぼやっと思っていたお父さんは、探検さんのご厚意に接しながらそれに比例するかの如く、左官工程に対しての憂鬱さがそれはそれはもう高まっていく。

 実際に、水引は面倒であり手間である事は少し経験をしていた。荒壁に荒土を塗る大斑直し疑似体験をしておこう、とキッチン新設壁にて。その際に、左手に鏝板、右手に鏝、ではなく手動噴霧器を持つ事が存外長かった。手動で圧を掛けて霧状の水を打つ。この手間は、塗り工程の3分の1程は占めていたように思う。その間、鏝は止まる。

 

 探検さんが帰られてから、この問題の打開方法を長らく考えていた。

 

 土壁内の木や竹は長きに渡って腐朽しない。それらに触れる荒土が乾燥したからだと思いつつ、吸放湿する土壁なんだから湿気が触れて多少は朽ちたりしないのかな、と軽く疑問だった。それに対する解の記述があった。荒土内のバクテリアが腐朽菌を食べてしまうから、木や竹が腐朽しにくいのだと。

 また、腐朽はせずとも水を吸うと、板材が半間壁程度しかない渡り寸法でも暴れるかもしれない。折角塗った土壁が、後日に内部材の動きで割れたりしてしまう。それに対する解はお父さんの脳内にあった。暴れたのなら、壁新設時に既に暴れている。その際に、隙間が出来るのならもう出来ている。吸水により右にうねった木が今度は左にはうねる、という事はないだろうから再度暴れたとしても構わん。

 よって、水の量については、内部深くまで浸透する程の過多でも問題無いと決め込む。

 

 残す課題は水打ち労力の軽減。これは、水撒きホースを使う事を目論む。

 手動圧より水道局のポンプ圧、これが絶対楽ちん。では、と水撒きホースの給水力に土壁の吸水力が追いつくのか実験。結果、案の定失敗。土壁に水がどんどん滴って床は水浸し。

 諦めず思考。どこかの園芸家が、小さな草花に霧状にした水を遣っていた。今回使ったようなジョウロのような水量では多過ぎるのだろう。ならば、そこら辺で売っている物では無く、園芸用としてのホースアタッチメントに噴霧可能品があるのではないか。案の定、お試しも出来る状態で大きなホームセンターにあった。価格はそれなりにするものだったが、左官工程への寄与度を考えれば妥当だと購入。施工が終わってからも使えるし。

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 いざ再実験。すこぶる良い。手動噴霧器とは比較にならない使い勝手。あぁ、有難う、探検さん。危うく手動噴霧器で行くところでした。ビビらせてくれた事が策を考える動機になりました。ご厚意に感謝。

 さぁ、これで準備は整った。