家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

お宝発掘

 ところで、タモ板反り止め蟻桟として使った材。お父さんはケヤキと思っていた。

 無知者であっても、一見して杉や檜とは違う事が分かる。松とも違う事も何となく分かる。木造建物で硬い材と言えばカシもある。見た感じ、カシともちょいと違う。

 高級さや意匠性を求められる箇所ならば、ちょっと良い材として代表的かつ一般的なものがケヤキ。そういう認識を持っている。ならばご多分に漏れず、この家の床の間材に使われていた硬い良材も当然ながらケヤキだろう、と。

 

 拍子木と言う物を知っているだろうか。引っ越して来て聞こえた記憶が無いので、もしかしたら二人は知らないまま大きくなっているかもしれない。

 これは元々楽器らしい。有名な使い方は、「火の用心」と発しながら夜回りする際に二本組のそれを打ち鳴らす。この材はケヤキだったりカシだったりらしい。桟として角棒にした際に打ち鳴らしてみた。どうも音が鈍い。お父さんの加工精度の問題か、とその時は思う。

 また、桟としてタモ板に入れている際にはこの硬さに驚き、また苦労する。ケヤキが硬木だとは言っても、少しの融通は効くかと思っていた。しかし、まるで金属を扱っているよう。タモ板は損傷、アルミ合金は破壊、だけどもこの桟材はビクともしない。

 そもそもケヤキを知らないものの首を傾げながらこの硬さと格闘。タモ板反り留め作業の難易度を上げたのでは、と今は疑っている。

 

 さて、このケヤキらしき材。丸鋸で切断したりトリマで加工している際、非常に良い香りがしていた。ケヤキとは何とも良い香りがする木なんだな、とタモ板との格闘で精神が擦り減るお父さんの少しばかりの癒しになっていた。この香り、きょうこの見立ては線香の様。お父さんもそう思う。

 そんなある日、灰皿に積もったケヤキらしき材の木粉がタバコの火に燻される。すると、今までの線香っぽい香り以上のものが漂う。どう表現して良いのか分からない。お父さんの世界では触れる事が基本的に無く、特別などこかで味わった事が有るような無いような、何だかとてもお上品な東洋的香り。

 

 その香りに中てられてようやく思う。

 ちょっとこれは良い香り過ぎるぞ。これってもしや「香木」クラスの香りじゃないのか。メジャーな建材であるケヤキは香木でもあるのだろうか。高価な建材とは言えケヤキだぞ。これ程の香りをケヤキが持っているのなら、お手頃香木としての地位もあるはずではないのか。少なくとも線香材料としては使われていたはずだ。

 ケヤキを検索。すると香木どころか、刈ったばかりのケヤキ生木はウンチ臭がするという方がおられたりと、少なくとも良い香りがする材ではないらしい。

 

 じゃぁ、一体何なんだコレ。やはりもしや、と今度は香木を検索。香木として有名なのは「沈香、伽羅」「黒壇」「白檀」というものらしい。

 ケヤキと思っていた材をそれらの写真に当てはめると、白壇に一番近そうに見える。また、白檀はケヤキ以上の硬木らしい。ケヤキが「やや硬い~超硬」とするならば、白檀は「極硬」だそうだ。香りや見た目、そして硬度からしても怪しい。

 

 白檀とは南アジア産の樹のようだ。栽培困難、かつインド政府が伐採と輸出の制限をかけているらしい。そういう事もあってか平成27年時の市販価格は、重量比で銀と同じぐらいらしい。

 あぁ、何てこったい、金属どころか貴金属並みかよ。既に加工した6本分はタモ板二枚よりも高いじゃないか。以前見つけた百円硬貨の比じゃないぞ…

 

 この家が建てられた戦後間もなくの頃、敗戦国の人間が果たして贅沢品輸入が出来たのだろうか。そもそも、香木を床の間建材として使うものだろうか。

 お父さんが無知なだけかもしれないが、これがどうにも否定し切れない。この家の建築主は当時、この地域で一番と言われる程のお金持ち。新たに輸入せずとも既に輸入されて使われていた材を買い取った可能性もあるし、香木を建材に使う贅沢放蕩行為も可能だったかもしれない。当時は今程高価じゃなかったならばなおさら。

 

 長きに渡る施主施工の邁進力として、今までは銃と狩猟を掲げてきた。これに香木鑑定も付加してみよう。今すぐにはしない。香木かの真偽が分からないままの方が、邁進力となってこれだけでお宝に値する。