家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

土葺工法は類まれなる優れたフレキシブルなシステム

 お父さんが特筆したいのは土葺の断熱性(蓄熱性)ではない。現代はこれに取って代わるような色々な断熱建材がある。それよりも、他の屋根建材が土葺瓦屋根に取って代わられない事、それは土葺により瓦が容易に外せる事。胸を鷲掴みされた。交換等のメンテナンスが簡単に出来るのだ。これはかなりの優れた建材だ。

 そもそも瓦自体が長寿命建材だ。日本の最古の現存現役瓦は飛鳥時代のものだとか。すこぶる驚異的。感動すらする。目指したくて仕方がない。それは置いておいて、瓦の破損原因は、お父さんの知っている範囲では人間が踏んでしまう、地震等で落ちる、台風などで飛んで行くか何かが飛んできて当る、そして「凍て(いて)」だ。

 「凍て」とは、瓦内に侵入した水が凍った際の膨張により瓦を割ってしまう事象。ただ、これだけでないらしい。凍らないまでも寒暖差による水の膨張収縮、瓦内の鉄分と水との反応、など。

この家の地域は凍てが起こるか起こらないかの微妙な所だそうだ。この家と周辺の家には燻しが渋い淡路瓦、もう少し山に入ると凍てに強い三州瓦が使用されているそうな。この家の門屋の淡路瓦で割れているものが複数枚あった。原因は判然としないながらも全て北側。割れ方から見ても、寒暖差=凍てが原因じゃないかと思う。

 ちなみに、屋根に苔がある事を良しという方と悪しという方がいる。苔により水気が保持されやすいのでは、雨水の排水の妨げになるのでは、とお父さんは考えるので悪しの方だ。

 話を戻すと、凍てという屋根材の破壊があっても、と言うかだからこそ土葺は良い。割れた瓦はそこだけを素人が簡単に交換できるのだ。素晴らしい。板金やスレートの屋根ではそうはいかない。釘やビスで留めてしまっている空葺瓦屋根も同じくだ。部分的交換が出来るものもあるのだが、それは業者を呼ぶ必要がある。

 さらにだ。瓦が容易に取れる=地震が来たら瓦が落ちる、という事も長所らしい。わざと落ちるようになっているのだ。

 弱い地震では、重たい屋根が押さえになると書いた。これが、強い地震になると瓦などが屋根から落ちる事で、これまた建物を守ると言う。強すぎる揺れに対しては建物重心を下げると。なんともフレキシブルなシステムだ。昔、地震が来たら家の外に出てはいけない、と聞いた事がある。この事だったのだろう。

 昔の土葺瓦は留める事が出来なかった、のではない。瓦には針金を通せる穴がある。やろうと思えば全ての瓦を針金で外せないように出来たはず。多くの屋根職人が横着して固定しなかった、とはお父さんには思えない。

 大震災で瓦が落ちてそれがまた被害を生んだ、という話。これは、工法と立地が適していたのかどうかではないかと考える。東京や神戸のような大都会の密集地。敷地に余裕がない住居が多く、落ちる瓦は往来の通行人などに直撃する事があったのかもしれない。また、道を塞いで避難や救助活動の妨げにもなったと想像される。

 片やこの家。というか郊外や田舎の家。敷地に余裕がある。瓦が落ちても他人様に当らない。倒壊しない家屋に留まり揺れが落ち着くのを待つのが安全、とな。

 実際の所はお父さんにも分からない。ただ、この日本で長きに渡って培われてきた土葺瓦屋根。主流になった一般的現代住宅の知見を当てはめてはいけない、という事だけは確信している。