家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

土葺工法の衰退

さて、「重たい屋根はとにかく悪い」と思っていた一人のお父さん。この家についても、瓦をやめるのは意匠的に否なので、せめて土葺はやめて空葺の瓦屋根にして軽量化した方が良いかも、という程度の認識。

 関東大震災以降、東の方では土葺が廃れていったらしい。細い柱で重たい屋根の家屋が崩壊し、また瓦の落下による被害が大きかったからだ。行政の指導等で引掛け桟、空葺の工法が確立し普及していった、と認識している。

一方、関西では大きな地震が無かった。もちろんあるにはあったが、直近は昭和21年南海地震、その前は昭和19東南海地震だったと思う。いずれも千名を超える大災害。だけども、終戦前後での地震だったからなのか、お父さんが若かっただけなのか、言い伝えられていた記憶はない。いや、多くの人は思っていたはずだ、西日本では大きな地震は起きないと。起きるとしたら数十年後に予測されている南海地震だと。若きお父さんも同じくだ。

その考えを撃ち砕いたのは、平成7年(1995年)に起きた阪神淡路大震災だ。あの時の衝撃は覚えている。横に寝ていたお父さんの弟に、お父さんは考える間もなく咄嗟に多い被った。造り付けの棚に置いてあった、お父さんの丸めた図面類だけが一斉に体に落ちてきただけで済んだ。

 それから、西でも土葺屋根はもちろん重たい瓦屋根は悪だと、マスコミを通じて広まり行政も軽量屋根を推奨。借家住まいで学生で、我関せずと住居に関心が無かったお父さんにでさえ、その声はしっかり届いていた。屋根屋も何かあれば「軽い屋根にしましょう」と叫ぶ。
20年経った今、すっかり老若男女の共通認識化している感がある。土葺や空葺の工法に関わらず、瓦屋根自体が伝統的なものになっていきそうな…

 この家の雨漏りの件もあったのでネットで色々調べる。必要に迫られてようやく瓦屋根について関心を持った。そして、どうもこの家のような仕様の場合は土葺は悪どころか良だ、と認識するようになったわけだ。

 土葺屋根が重たいから良い、と先述したのはどちらかと言えば二次的、三次的なものかと思う。何故、西日本では長らく土葺が主流だったのか。西日本の屋根屋に空葺技術が無かったのか。それは無いだろう。ただただ土葺の良さがあるから、施主も施工者も選択していたのではなかろうか。

 土葺長所の代表は、断熱性のようだ。空調が無かった昔もある今も、家が涼しいに越したことはない。ただ、お父さんはちょっとこれには懐疑的。土壁に関連して触れた事があるのだが、土は断熱性と言うよりは蓄熱性があると言う方が正確ではないか、と思っている。

 直射日光を受けても壁と違って瓦の下はすぐに居住空間ではない。野地板と瓦の間には土と空洞がある。それに小屋裏もある。蓄熱性がある=温まりにくい土が熱を留める。土が熱くなっても野地板、そして小屋裏が居住空間に熱が伝わらないように時間稼ぎをしている。その間も、瓦と野地板の通気空間によって熱が奪われる。そのせめぎ合いをしている内に日が沈む、と。違うかな。