家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

土壁方針

早期の解体着手の理由には、先述以外に土壁への対応がある。

 昔、土壁の在来工法の家に住んでいた。壁に触ればポロポロ砂のような物が落ちてくる土壁。なので、あまり良い印象は無い。

新築を考えていた時は、接着剤で貼るビニールクロスの陳腐さと早期劣化や汚れが嫌だった事から、漆喰仕上の壁を考えていた。現在、珪藻土も自然素材だ、呼吸する壁だ、と何故かもてはやされているらしい。しかし、珪藻土は、物によっては接着剤で固めるもので呼吸などしないし、それは厳密に言えば自然素材とは言えないのではないか。漆喰は、空気中の二酸化炭素により自己硬化するらしい。接着剤は剥がれる恐れがあるので嫌だ。というわけで、ポッと出の接着剤珪藻土などは論外として奈良時代から使われていた漆喰を、とは考えていた。

 ただ、この家の
1階の仕上は上塗り漆喰仕上以外に、粘土と砂の中塗り仕上。中塗り仕上壁は、触ったぐらいではポロポロ砂が落ちてこない。風合いもなかなか良い。ただ、当初は悩む余地が無かった。改修予算の見込みが立たずこの家の購入を躊躇っていた際、おじいちゃん建築士から「施主施工を盛り込む事と木舞による土壁を諦める事で、予算内に収まる」と言われていたからだ。新たな壁を設ける場合は石膏ボードの壁にせよ、と。

 石膏ボードに、自己硬化する漆喰を数㎜だけ塗る施工例は多く、商品種類もそれなりにある。しかし、粘土と砂の中塗り仕上を石膏ボードにする自信はさすがに持っていない。さらには、既存の中塗仕上壁と取合いになるような所の、既存の色や塗りの仕事具合を合わせる自信もない。という事で、中塗り仕上にする箇所は左官職人、石膏ボード+上塗り漆喰仕上にする箇所は施主施工とする事にした。

 今にして思えば、竹木舞を掻いて荒壁、中塗り、上塗りと本物の土壁をしたところで予算を大きく上回らない。土壁の材料自体は高いものではないからだ。竹は近隣から頂く。藁縄は買っても良いが、無農薬の藁が手に入っているので自分で縄にする事も出来ない事はない。昔の多くの人はやっていた。土や砂は足りない分は買うとしても、高価なものではない。ただ、手間がかかる=職人の人工代がかかるのだ。これを施主施工すれば良いのだ。

しかし、お父さんは計画変更せず、新設壁のほとんどは石膏ボードの上漆喰仕上とする。理由は一つ、下地造りの手間を惜しんでいるのだ。構造上も室内空調能力上も、本物の土壁の方が断然良い。しかし、既存の土壁を減らすならまだしも、原則残す事で今より悪くならないから良し、という判断。むしろこの為に、既存土壁を残す事を目指した設計にした。
 将来的に、石膏ボードが廃材にしかならないかもしれず、気掛かりな事を後世に残してしまう事に気が引けないと言えば嘘になるが… 大目に見て欲しい、すまん。

 新設壁は石膏ボードで漆喰仕上とする計画だが、
2階外壁の既存内側は荒壁仕上。2階新内壁を漆喰仕上とする事で、こちらも当然漆喰仕上とする。となると、荒壁の上の中塗りの下地が必要。だが、その分の「チリ」がない。
 この「チリ」とは、柱と壁の出寸法の差だ。この家の1階のチリは、大体24㎜だ。一方、2階の荒壁のチリは少ない所だと10㎜程。当該壁の漆喰を2㎜で中塗りを3㎜と薄目にしても、24㎜のチリを目指すのであれば荒壁を最大19㎜も削る事になる。削る事自体は構わない。やってみようとした。が、竹木舞が出てきてしまいそうなのだ。

 その場で数十分、タバコを吹かしながら考えてみた。もちろん答えは出てこない。どうしようもない。お手上げ。「何となくそれなりにチリ確保を目指す」上に、「竹木舞に乗る荒壁の厚みも何となくそれなりに確保する」感じ。この感覚的な具合で平らに既存荒壁を削る事にした。