家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

「職人」のお父さん定義

 施工者の話になったので、後々で書きやすいように「職人」についてのお父さん定義も述べておきたい。


■「職人」の定義

 「職人」とは、「自然物などの素材を読み取り」、それを「自己の技術で加工」して、「完成品に仕上げる」事が出来る人、とお父さんは捉えている。この営みが広範囲で多岐に渡って行われて、社会形成の礎になっているところは、人間が他の動物よりも抜きん出ている所だと思う。

 例えば、粉や水などを自在に操っておいしいパンを作られる人、鋼材等の特性やらを熟知し優れた鉄工品を造られる人、糸や布の特徴を把握し着心地の良い衣服を仕立てられる人、などなどは職人と呼ばれると思う。


 寿司を作る人も職人。しかし、回転する寿司はどうか。とある大手の回転寿司企業の社長で、元寿司職人の方がおられる。その方は、自身で商品開発される事があると記憶している。米やら魚やらのバイヤーも精通している人が就いているらしい。そのようなプロが作ったレシピを基に各店舗で寿司を実際に作る人達は、作業の一端を担っているに過ぎない。なので、各分担作業の熟練従事者は居ても、職人とは思わない。

 一般的には、「職人」とは尊敬の念を込めた言葉であり、敬称、称号での使用が通用するのではないか。

引越作業員で優秀な方がおられた。新人アルバイトへの適格な指示、荷物の捌き方や積み方、時間管理、そして接客、いずれも卒が無い。「いやぁ、職人やなぁ」とお父さんは言ったが、本当にそう思っているわけではない。あくまで熟練の作業員であるが、褒め言葉として使った。

 一方、お父さんがどうこう言う前に、当の職人の世界ではその言葉の定義がしっかりされているように感じた事がある。

建築現場の世界では、この称号を得られる職方は大工、左官、建具、板金、屋根・瓦ではなかろうか(拾い落しがないかな…)。この内の職人との会話の際、ベテランという意味合いで水道工事作業員に「職人」と呼称したら、「はぁ?」という反応をもらった事がある。

他、例えばクロスは「職人」など呼ばれたりしてたと思う。が、お父さんの認識では微妙。工業製品のビニールと糊をいくらキレイに早く施工出来ても。サッシや水道、電気、ガス、塗装に土木や鳶、これら職方の作業員は「熟練」や「ベテラン」などと呼んでも、明らかに「職人」とは違うと思っている。


■「大工職人」

 大工、と言っても種類がある。昔、木を扱う右官と、土を扱う左官が揃って初めて家屋が造り上げられていた。左官の呼称はそのまま健在だが、何故か右官は大工となった。

以下、その右官である大工を指すが、木を読めて、ノコ、カンナ、ノミ等を駆使して建材に仕立てる術や腕がある。これらを素早く華麗にこなしてしまう。寺社仏閣や伝統構法家屋を扱えるのは、こういう人達をお父さんは「大工職人」と捉えている。


■「大工さん」

 しかし、今やプレカット工場で加工された柱や梁で家を建てる。木先と木元の違いぐらいで、木そのものを読む必要性がないんじゃかろうか。道具も、電動工具やエア工具が主流。設計は簡素化されて工期は急かされている。昔ながらの大工道具は出番がない。そんな現代日本の建築現場の事情により、習得・研鑽されるべき技術は限定された。

だけども、その限定内のものは全て習得していて、華麗に木材を加工し施工できる術も腕もある。他職方への一定以上の知識もある。ただ、それをフルに発揮できたり高めたり出来るような現場は多くはない。伝統構法等の大工技量が大いに求められる現場が多ければ、より高みに昇ったであろう。そんな熟練大工を敬意を込めて「大工さん」と呼ぶ。


■「大工作業員」

在来工法の中でも、たった12ヶ月で建ってしまうような家がある。搬入された材をただただ早く卒なく組み立てる作業員。電動等工具と違って、カンナやノミはもちろん、手鋸、玄翁などはろくに扱えない。ただただ目の前の、自分に与えられた仕事を無難にこなすのみ。業界のベテランや熟練者達が最も嘆いている職方。このような方を「大工作業員」と呼ぶ。

 さて、お父さんが目指すのは「大工さん」だ。
 「大工職人」はさすがに恐れ多い。加工面はもちろん、知識面だけでも座学では得られない事が多岐にある。ハードルが高過ぎるとヤル気が起きないのだ。「大工作業員」も反対の意味で論外だ。熟練作業員にお父さんは敵わないと思うが、目指す方向性がそもそも違う。

 「大工さん」にも到底敵わない。しかし、「大工さん」の手元(補助者)レベルは目標としたい。木の収縮やら先を見越した納めは困難かもしれない。ただ、キレイに収める事だけならば、時間をかければある程度には到達できると思う。工期がない点が唯一の強みだ。