家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

遠回り具合が過ぎる

■同第七回目:丙面

〇主目的

・砂漆喰の調合具合確認

〇施工方法

・砂漆喰のみ一回塗り

 

 購入漆喰材の調合具合確認の為、まずは砂漆喰から確定を目指す。砂漆喰は塗付後、早々に上塗漆喰に隠れてしまうので単独塗付だ。

 そして翌日、何ら不具合が見当たらない。下塗りに問題ないのであれば、上塗材調合にヒビ問題があると推定。砂漆喰については、上塗りの水引きと糊費用との兼ね合いを考えながらの調整を目指そう。

 

■同第八回目:丙面

〇主目的

・砂漆喰塗付翌日の上塗り施工の可否

・上塗下付に砂投入

・本職用仕上鏝の使い勝手

〇施工方法

・砂漆喰への水湿し後、上塗材の重塗り

 

 七回目の砂漆喰が勿体ないし、翌日施工が可能であれば工程が結構楽になるので実験。前者は言うに及ばず、後者は補足しておこう。

 練習やら実験やらの段階が故にもあるが、砂漆喰と漆喰を交互に使うのは手間が掛かる。道具をいちいち洗って拭く事がだ。鏝も鏝板もだし、本番になれば攪拌機等々もだろう。井戸横水道に短時間に何往復もして難儀。

 また、砂漆喰と漆喰の攪拌容器と練置容器の数に限界がある。本職の様な山と積まれた容器を用意したら、竣工後の処理が大変だし勿体ない。砂漆喰と漆喰の施工に日を開けられると、容器は実質倍となる。

 

 だが、そうは問屋が卸さない。上塗材はすぐに水が引く。砂漆喰内の糊がまだ乾いていないだろうから、水で湿してやれば水持ちが復活するんじゃないか。そういう目論見はハズレ。

 

 この実験条件が悪かった事で、他の実験やらが不調に終わる。その一つは、上塗下付材に珪砂を調合する事。

 以前からの参考サイトにてこの調合が示されていた。同サイト上の施工では、もしかすると塗厚確保の観点からの砂調合なのかもしれない。しかし、お父さんには別の事情がある。上塗下付材に珪砂を入れる事で緩衝材となり、上塗上付面のヒビが起こらないのではないか。それに、材料単価も下げられる。上手くいけば良い事ずくめだが、前述の砂漆喰により水引きが強いわ、やっぱりヒビが起こるわでよく分からず。

 

 もう一つは、新たな仕上鏝の具合も見たかった。

 既存の仕上鏝は、普通の価格の普通の仕上鏝。これをチムニー左官中に屋根から滑り落としてしまっていた。結果、薄いステンレス板の角が曲がる。それでも叩き直して一応使ってきた。だが、よくよく考えると最も多い塗り材は漆喰である。その数、300平米以上。もし仕上鏝を上塗塗付にも使う事にするならば、1,000平米程にもなる。はぁぁ。

 

 少し触れた事があるが、鏝は千差万別。本施工においてだけ言うなら、中塗鏝、上塗鏝、塗付鏝、仕上鏝、こなし鏝、押さえ鏝、柳刃鏝、モルタル鏝、土間鏝、煉瓦鏝が今の所は考えられる。今後、もっと関連する鏝があるかもしれない。また、前述の鏝と同じ用途ながら、剣先や角といった形状別、大きさ別、金属別に様々だ。素人左官としては出来得る限り汎用出来る鏝を選ぶ事が求められるが、それ自体が難しい。

 

 そんな中、中塗鏝を本職用にしたのに、漆喰仕上げで曲がった鏝を使い続けるのは如何なものか。そんな訳で、既存の倍価格の鏝を仕入れた次第。その鏝が届いた事でいざ実践、と思ったのに前述の水引きでよく分からず。はぁぁぁぁ。

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メダカの前で漆喰材を見直す

 六回目に来て前進したような、はたまた停滞か、或いは後退したような。漆喰検索していると、施主施工者の方の事例に当たる事がある。チラッと拝見すると、やはり新建材壁にシーラーやらプライマーやらを用いたり、そもそも漆喰ではなく漆喰調の材を用いたり。そのお陰だろうか、左官施工が猛進してたりする。

 葛藤等により精神的に悪いので他施主施工者の記述は見ない様にしてきたが、やはり誘惑が多過ぎてイカン。漆喰やら伝統的工法やら長寿命やらを断念してからお世話になろう。

 

 工法が同じ志向、所謂、伝統構法家屋においての伝統的工法同志という人は、棕櫚刷毛を紹介されていた御仁お一人だけ。いや、同志と言うのは臆がましいか。お父さんは石膏ボードを使ったりするんだから。その御仁はお父さんより遥か上方。ではその方以外、たかがお父さん如きより施工法等に拘る人は如何程か、となるとついぞインターネット上では見付けられなかった。御仁のサイトも今や見付からず。当然ながら相談出来る人もいない。

 そういう事もあってか、一回目以降から既にメダカをボーっと眺める事が多くなった。家畜魚がお友達とは、お父さんも焼きが回る。

 

 時は五月。メダカが大いに活動するようになった。かなり増えたのに春先までに結構死んでしまった。しかし、回収死体の数からして減り方の数が合わん。ヤゴらしき水生昆虫のせいかもしれない。ボウフラ駆逐家畜としながらも活躍しているか甚だ疑問ながら、新たに二匹追加し合計四匹。エビも二匹追加。喧嘩をしないか、雌雄不明の為に産卵有無確認を、ヤゴ駆除を、と観察。

 

 漆喰の乾き具合を観察する為に施工時間が制約されている。りょうすけの幼稚園の送迎が絡む時間には施工せずに待っておく。観察中は集中を要するような他の施工が行えない。諸々時間を持て余す事が手伝ってメダカ観察が増加。

  もしかしてその逆、漆喰に悩む事から逃避する為に家畜魚を日に幾度も眺めているのかもしれない。そして六回目後に、メダカを眺めながらふと思った事がある。ヒビが出来る不具合など、初歩的段階にしか思えない。技量以前に材料が違うんじゃないかと。

 

 美しさや強度、それらを何十年も維持させる寿命。これらを実現させる事こそが左官職人の成せる業。度々書いた様に、そんな事は嫌と言う程承知。国内外で活躍する有名な方は、三年目で賞を貰うようなレベルだったらしい。そういう特異な方は別として、十年でようやく一人前という世界らしい。それをお父さんが昨日今日で出来るとは思っていない。

 しかし、施工直後のヒビは果たして素人が故なのだろうか。鏝技術で完全にどうこうする類の物でないような気がしていたのだ。

 

 塗りが速くて綺麗で正確な事は、水引きに対して有効だろう。工期にもだな。お父さんの場合、鏝に一時間も要していても水引きには追いついた。工期は勿論無い。諸々妥協してみると、後は「押さえ」に関する事に概ね集約するのではないか。そして、三回目のヒビ数の激減は、塗り方を変えた事による鏝速さよりも、材調合を大きく変えた事が要因ではないのだろうか。

 そんな事を沸々と思っていた事を踏まえ、メダカを眺めながらふと思ったのは購入漆喰材の事。これも漆喰に違いないものの、素人向け新建材壁用に調合された品ではないのか、と。販売業者サイトでは「土下地へは使用困難」等の注意書きは無いが、現代常識からしてそもそもそのような事は想定していなくとも無理はない。

 

 具体的に大きな疑問として残っていたのが、糊スサの配合量の差。

 購入品は空練り済ではなく、糊スサはそれぞれ別梱包をされている。お蔭でその分量がハッキリしている。その上で、以前から参考にしていた前出の建築事務所サイトでの本式漆喰の配合と比べ、糊スサがかなり少ない。糊は重量比半分以下。スサに至っては、同数十分の一といった具合。

 ただ、これら数字だけで単純比較がお父さんには出来ない。糊に関しては、本式のそれは煮出し物の為、重量は恐らく乾燥加工した海藻のままの物と推測。という事で煮出された糊の重量は不明だし、自然物だけに粘度の違いもありそうだし。板ふのり、となるとさっぱり分からない。スサにも種類や長さの違いがあるし。

 

 いっその事、同量近くしてみれば良いとはならなかった。糊やスサが多過ぎると不具合を起こす、という記述が足枷になっていた。購入品は実質調合完成品として売られている。そこに数倍、数十倍ともなるそれらを入れる事に躊躇いもあった。よって、施工練習をしながら並行して調合実験をしてきた。

 比較的重量差が大きく無かった糊は追加投入。三回目以降は多いかもしれないと思うぐらいになったが、それも正解は分からない。一方、スサは倍増しても、元が少ないだけに増加重量は二桁グラムに過ぎない。参考記述では数百グラム台。おっかなびっくりの増加では依然大差。

 

 しかし、購入品がシーラー等前提の新建材下地壁品とするならば、おっかなびっくりしていてはゴールになかなか到達しないのではないか。と思うに至ったが、過剰投入による不具合懸念以外の問題もある。

 それは、糊もスサも値が張る事。違う角度で言うと、購入品が既に高額だっただけに、そこに新たに大量の糊なりスサなりを要すると、それはそれはもう。

 メダカで脳が休まった事でもしかしたら解に近づいたのかもしれない。しかし、今度はお金が足に絡みついて進めない感じ。くぅぅぅぅぅ、新たなストレス。

 

漆喰にドライヤー

■同第六回目:同乙面

〇主目的

・均等的乾燥実験

・「押さえ」鏝圧実験

〇施工方法

・乾き斑の強制解消実験

・軽い「押さえ」二回

・他、前回と同様

〇所要時間

・今回、及び以降非計測

 

 圧が強いと思われる押さえを行った結果、表面強度に強弱が出た事により割れがあった。という見立てから、今回は鏝圧を意識して弱く、回数も減らしてみる。

 

 しかし、乾き斑問題は解決していない。そこで採った方法はドライヤーで乾かしてしまえ、と。

 そのままだと熱風が既に乾いた所にも当たってしまうので、鏝の剣先を温めてなかなか乾かない数か所をピンポイントにあてがう。二人にも分かると思うが、こんな事は本番施工では駄策。綺麗になんかならない。押さえとしても良くない。

 ただ、練習、と言うか実験施工中である。強制で疑似的ながら均等に乾くとどうなるかを知りたかったのだ。で結果は、所々に相変わらずヒビはあるのだが、五回目のような割れは起こらず。

 

 割れが無かった要因は乾き斑を抑えただけではなく、押さえの鏝圧を下げた事にもあるかもしれない。

 テカリが何じゃい、という気で五回目は強く押さえた。今回はこれを、撫でるような具合で行った。擬音で表現すると五回目はムンギュー、六回目はスススー。これにより、圧斑と言うのか強度斑と言うのか分からないが、面の乾燥収縮差が前回より弱まったのかもしれない。亀甲状模様も無い。

 

 そして、壁の表情も大いに違う。

 五回目の特にテカリ部はカチコチ感で一杯。見た目からしても硬さを感じさせた。今回は、打って変わって軟らかそう。石灰なのに石膏のような感じ。粒粒が残っていたりするし。鏝圧や回数によりこうも表情が変わるとは。

 今思うと、これは「押さえ」仕上ではなく「撫で切り」仕上げ、或いはそれに近いのかもしれん。それでも良いけど、既存が明らかに「押さえ」なんだなぁ。どうしようかなぁ。

 お、仕上げの違いが分かるようになった事は数少ない成長だな。

f:id:kaokudensyou:20170528185259j:plain←既存の仕上げ

 

 いずれにしろ、これが漆喰の難しさであり面白さである。

 とか何とか、これが本職格好付け営業ブログとかなら言っちゃう所だろうな。お父さんには難しさしか感じないけどもな。

 

敵の裏方は味方

 ツバメとの根競べでは勝敗が付いたが、漆喰施工の勝敗は未だ付かず。いや、今の所は負け濃厚。

 一歩進んだように思えたが、「押さえ」にて大きく後退した感がある第二の挫折。しかし、勝利に寄与するかは不明なものの、五回目にて乾き斑を無視して押さえた事による新たな発見はまだある。

 

 乾きが遅かった場所に大きな割れが幾つか入った。周囲が先行して硬化した事で、収縮運動が軟らかい箇所に集中したのかも。その一つの割れからは、海藻糊色した大きな水粒が表面に出ていた。周囲が押さえられた事により、水の逃げ場になっただろうか。

 

 乾きが早かった箇所は箇所で、亀甲状の模様が大いに発生。乾燥して割れた田圃の泥面のような感じ。見た目では割れてはないが、小さいながら水粒が無数に浮いていたので、微細な亀裂があるのかもしれない。

 一体何なんだ。割れ切っては無いという事は、スサが効いているから免れたという事なのか。ならば、スサは充分量という事なのか。

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 他にも幾つも疑問が生じ、何が何だか分からない迷宮状態。

 そこで、本職動画だけでなく、インターネット上の記事を兎にも角にも読み漁る。ここまで目を凝らしながら血眼に検索及び閲覧したのは、湖畔の中古家屋を逃した事により家探しが爆走モードに入って、数をこなす為に電柱架線等から物件所在地をネット上で特定しまくったりしていた頃以来。あの頃より目が衰えた事をちょっと感じてしまった。お蔭で、幾つか知ったり分かったりした事がある。

 

・とある本職御用達既調合漆喰の素性、及び実績と情報の多さ

 

・「水打ち」と今まで幾度も書いたが、どうも正式名称は「水湿し」と言うらしい。

 どうでもよいと思う事勿れ。名称が正しいか否かで結果が変わって来る事があるんだよ。

 

・糊が多過ぎると施工性が劣るだけでなく亀裂が生じる。スサが多過ぎてもダメ。

 亀甲状模様はこれに該当するのかもしれない。やはり配合が起因なのかな。

 

・「引き糊」として、海藻糊水溶液を下地に塗布、又は海藻糊を効かせた砂漆喰を薄塗りする方法がある。

 お父さんが考えていた、いざとなったらのシーラーはこんにゃく糊の水溶液だ。こんにゃく糊が固まると膜を作ってくれる。下地土に薬剤を混ぜるのは気持ちが悪いし、将来の材料取りでどうかと思っていたがこんにゃくなら良しだろう。だた、吸放湿性問題は解決せずだった。

 しかし、ちゃんと昔から「引き糊」と言う存在があり、シーラー役の材は利用されていたんだな。既に行っている砂漆喰はその目的であるが、不陸調整効果ぐらいしか感じず要領をイマイチ得ていなかったかもしれない。引き糊役としては糊が不足してたのではなかろうか。

 

 他、諸々新たな知識を得る。その中で思ったのが、本職の記事のほぼ全部はお父さんのような人間にはほぼ役に立たない。

 前述して来た通り、素人に対しては「難しい」という表現で大抵終始。その他は、自身の施工の出来栄えについてとそのご披露が殆ど。失敗例やその原因等の具体的な事については無い。そりゃそうだろうな。書いても得が無いだろうからな。

 片や、施主や建材業者のそれは違う。本職の失敗事例や抱える施工上の問題点等々が堂々と多数記述されているからだ。書いても損が無いだろうからな。

 という事で、現段階でのお父さんが欲しい有用な情報の殆どは、本職の周囲の人からもたらされた。立場が変われば損得も変わって記事内容も変わる。だって皆、やっぱ人間だもの。

 

左官鳥との根競べ

 ところで、春真っ盛りのこの頃、今年もやって来た。ツバメが。糞害に憤慨した事により、転居時にあった巣は撤去済。これで来ないかも、という期待は大いに外れ。

 

 巣を作り始めた時点で壊してやる事にした。人間が恐ろしそうなだけでなく、実際に危害を加える生き物だと解れば寄ってこないだろう。そう思ったが、翌日にはまた作り始めている。

 ああ、そうかい。ならば根競べだ。と毎日毎日、日に何回も破壊神として熊手を振り回すお父さん。

 

 門屋は糞まみれにはならないものの、泥と藁だらけ。手間も掛かる。それに、流石に心苦しくなってくる。産卵期を逃さないのだろうか。一度決定すると、別の場所に変える事はしない生き物なのだろうか。

 という事で、ご近所さんの真似をして短冊状の紙片を垂らし付ける事にした。これは効果があった。ツバメの巣作りが止まったのだ。相当戸惑っていたし、これで諦めるだろうと安堵。

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 がしかし、数日後には再開。短冊を無視してその上に泥藁を付け始めた。破壊と構築の争いを再開するが、ある日、巣作り予定地直下の地面に割れた卵を発見する。巣が全く出来そうにもなっていない段階で、我慢し切れずに産卵してしまったのではないか。

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 この卵事件前から葛藤が生じていた。

 ツバメは、泥と藁と唾液を用いて、自己の能力で巣を造ろうとしている。そして、そこで子育てをしようとしている。片やお父さんも、泥や藁や漆喰や砂や糊やスサを用いて、自己の能力で家を造ろうとしている。そして、そこで子育てをしようとしている。同じだよな。左官で苦労するお父さんは、頑張って左官をしているツバメ夫婦との闘いに焦燥し始めていた。

 

 そこに来て、ツバメ夫婦は卵一つを失ってしまった。これはアカン。ツバメのように行動が一直線ではホモサピエンスの名が廃る。思考の因数分解だ。

 お父さんが嫌なのは糞害。それ以外の鳴き声や泥藁や飛来行動は構わない。お母さん等は、飛来して来るのを怖がったりしているが、平日昼間に居ないから土日だけ我慢すれば良しだ。という事で、糞害さえなければ巣作り子育ては良しだな。

 

 そういう事で、予定地に糞落下防止板を設置した。

 りょうすけに尋ねられたのでトイレだと答えると、ツバメはトイレが家なのかと言う。それも良しだ。ツバメが糞を落とせない事で諦めれば良し、板がカラスの足場になる事を恐れるのも良し。後はツバメ次第とする。

 ちなみに、後日暫くしてこの板の上の、しかもわざわざ端に巣作りを開始。端だけに糞を落としてくるかもしれない。だが、今年はこれで諦めよう。この根競べはお父さんの負け。

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