家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

粒子を侮る事勿れ

 さて、材を混練りする作業。もしかしたらこれで失敗をする者が、子孫の内にいているかもしれない。何せ、先祖自身がやらかしたから。

 

 漆喰に限らずセメントでも泥でもそうだが、程良い粘度はいきなりやって来る、と思う。

 何て言うのかな。検証した事が無いのでハッキリとは言えないが、砂浜にあるぐらいの大きさの砂に水を掛けると、湿り具合は目で見て分かり易いと思う。しかし、それ以下の粒子になればなる程、表面積が増大する所為か、ちょっとぐらいの水だと吸い込んでしまって団子状になる。それが足をすくわれる。

 例えば、セメント5kgと砂10kgでモルタルを作ろうとする。それらを空練りした上で、水を1ℓづつ加えて混ぜていく。暫く団子状態が続く。度々混ぜるのは面倒だし疲れるし。よって、水投入量を2ℓに倍増。それでも暫し硬くて変化具合が低い状態で、だけど混ぜるのは大変で。しかし、何回か目の投入で急にモルタルが軟らかくなり過ぎる。仕方なく無駄にセメントと砂追加。以上、失敗実例。

 

 材に対して水の適量が把握出来れば一番良いが、粘度は時や使用箇所等によって違ったりする。また、セメントのような工業製品だと水量明示があったりするが、土壁なんてものには無い。漆喰の場合は、購入当時の数年前には購入先サイトで明示されていたはずだが、サイトが全く様変わりして簡素化。と言うか、必要だったり有用な内容がほぼ無くなってしまっていた。

 

 だが、心配は無用。まぁ、こんなアホな失敗は回避出来る。始めチョロチョロ、後ドバドバ、とするから失敗する。逆。始めドバドバ、後チョロリで問題無い。勿論、ドバドバの限度はある。なので、手始めに消石灰10kgに対して水を目分量で5ℓとした。

 そもそも、粉末海藻糊と麻スサも混ぜないといけない。水だけの状態で、まずは海藻糊を混ぜてから、手でバラシながら麻スサを混ぜる。これは作り手に依るようで、消石灰にこれらを空練りしてから水を投入していくモルタル等と同じような方法の人もいた。要は、均質に混ざられるのなら何でも良いのだろう、多分。

 

 これらの作業中は手袋使用。漆喰は強アルカリ性の為。よって、一切写真無し。

 文字だけで表現するならば、目指す練り具合はホイップクリーム。ケーキ職人がスポンジに、しゃもじかヘラかどっちやねん、みたいな形状の器具を使って塗るようなふわふわ状だ。理由は、そんな漆喰材写真を見て美味しそうだったから、もとい、塗り易そうだったから。トロ舟で練られている最中の写真では、溢れ出さんとばかりのモコモコ泡のごとくになっていた、漆喰なのに。不思議で仕方が無い。

 セメント、土等、湿式材に幾度かは触れてきたお父さん。高額な漆喰で同じ過ちは犯さない。見た目はホイップクリームよりは少し緩くなったが、良しとした。

 

 ところで、漆喰は練置きを要するとの事。消石灰と水とを反応させる必要があり、そうした方が施工性が増すと。貝灰だと三日、石灰だと二日を最低とする。

 しかし、この間、空気中に触れる箇所の漆喰は硬化が始まってしまわないだろうか。少し時間が経った表面は、乾燥か硬化か不明ながら固まってきた感がある。という事で、練った漆喰に水を張り空気を遮断して置いておいた。

 

たかが糊、されど海藻糊

 そして最後に、糊の事。これは今までの土壁に無かったな。 いや、正確に言うと、藁からのリグニンがこれを担っていたのか。土佐漆喰と同じくで。スサを麻と称した物や紙の繊維をスサ材として使う場合、別途で糊成分を要するようだ。

 この目的は、消石灰の細かい粒子を纏める事で塗り易さを得る事。そして水引き抑制、糊が水を留めるとの事。

 

 糊となると化学技術のお得意分野。そんなわけで、漆喰用の糊としてよくありそうなのは、メチルセルロースというものらしい。

 セルロースというのは、地球上のそこらかしこにある炭水化物らしい。確かに聞いた事がある。さらに、メチルセルロースは保水や増粘等の目的としての食品添加物。漆喰の水引き抑制に打ってつけ、かつ安心っぽい素材だな。

 

 だがしかし、これが非自然素材だとやり玉に挙げられる対象となる。まぁ、そう目くじらを立てなくても良いと思うのさ。外食は当然として、そこら辺の普通のスーパーでしか買い物出来ない所得世帯だと、既にどうせ山ほど口にしていると思うのさ。米や野菜を自然農法で完全自家栽培、ヤギの乳等からチーズを作ったりして自家加工、酒税法をかいくぐったどぶろく造酒、とかでもしない限り避けられんよ。

 

 余談だけども、そのような自然農法等も現代では限りなく困難だ、という事を聞いた事がある。昔の人はやっていたんだから人力労働さえ厭わなければ、と思っていたお父さんは認識不足だったようだ。と言うのも、昔と今の土は違うからと。

 山には広葉落葉樹等があり、その栄養分が川に流れて農地に引水、時には川が氾濫して供給される。結果、農地の土は肥料や農薬が特段不要な状態に自然に維持されていた。要は、災害も自然の営みであり全体的にバランスが取れていたと。だけども現代はそうでないとな。

 という事もあって、一部の事象だけを見て現代社会を批判する事に対し、批判的かつ懐疑的、また視野狭窄ではないかと訝しさを抱くようになった現代人のお父さん。自然素材ばかりのこの家屋の本施主施工を通して、却ってより一層そう思うようになった。なので、メチルセルロースで現代漆喰事情を凌ぐ事にも寛容。

 

 ただ、供給面や価格面、性能面でこれに頼らずに済むなら話は別。それが海藻糊。

 海藻糊にも種類があるらしく、お父さんの分かった限りでは布海苔とか角又とか銀杏草とか。昔は普通、現代は職人や条件次第で、現場で海藻から糊成分を煮だして作るそうで。この海藻にしても、何も生のままで現場に持ち込むとかではないらしいぞ。ちゃんと加工者がいて諸々の手間暇をかけて製品化して、それを職人が仕入れてと。いやはや、糊一つで物凄い工程。

 

 でも、素人向けに、はたまた現代の工期に縛られる玄人向けにも、煮だしてどうこうではなく粉末化されて水に混ぜれば使えるという優れものがある。煮だした物と水混ぜ粉末物との違いは知らん。だが、販売業者氏は、海藻産地の供給問題から新潟県産から北海道産に切り替えた旨を書かれていた。あくまで海藻糊に拘る姿勢。

 

 国内自給が出来る資源の為か消石灰自体は、ビックリするような価格では無い。麻スサも種類に拘らないと割高感は然程無い。しかし、海藻100%の糊の市販価格はそこそこする感じ。それら総じた事からか、購入した漆喰は少々高め。だけども当時、その購入先の拘りと熱意具合等々はよく伝わり、言うならば顔が見えるような安心感を覚え、また応援の意味も含めて購入した次第。

 

多重人格

 施工者としては漆喰仕上は非常にやりたくなくなった。施主と設計者としては依然として漆喰仕上。お施主さんと設計の先生がそう言うんだから仕方が無い。お父さん、多重人格じゃなかろうか。

 そう言えば、個人の施主が諸々段取りと調査等をした上で、左官職に自宅土壁への漆喰仕上げを求めた記述があった。結果、要所要所にひび割れ発生したそうな。プロとして、出来ない事を引き受けた事への叱責は免れないという見方はあるかもしれない。しかし、何が何でも、大丈夫だから、等々にて説くお施主さんに抗する事は容易では無かったのかもしれない。その後、その左官職は塗り直しを自ら買って出たそう。お気の毒に。

 

 まずは、材料の事から。楽観時代のお父さんでさえ、流石にこれはお手上げと考えていた。その事もあり実質既配合品を購入。

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 練り済品という物が漆喰にはあるが総じてそちらが高そうで、自分で練る粉末品にした。その為、漆喰等向けのスサ材用攪拌機羽根をとうの昔に購入している。漆喰施工は既定路線。漆喰だけでも数百kg分を練るので買って正解。

 

 漆喰には、貝灰と石灰の種類があるそうな。貝灰の方が元祖との事で、太古の昔から利用されていた漆喰はこちらだとか。石灰は中世からだったかな。石灰の方が燃焼温度を要するそうなので、そこらの技術的な差が歴史の差なんだろうな。

 当施工においては石灰漆喰を用いた。サンプル品の貝灰漆喰は黒異物が入っていた事から、見た目により決定。石灰漆喰の方がちょっと割安だった事もある。

 

 だが、かなり後に見つけた記述によると、石灰の方は粒子が均一で貝灰はそうではないとの事。で、粒子が均一だとヒビ割れが起こりやすいとの事。

 あぁ、確かにそれはあるだろうな。って、もう納品されちゃってるし。ちなみに、高みにいそうな本職の方だと、貝灰と石灰を混ぜて作られるそうだ。あははは、やっぱり凄いわ、真の職人さんは。はぁ。

 

 そうは言ってもちゃんとヒビ割れ防止材がある。すっかりお馴染みになったスサだ。

 漆喰に使われるスサも複数種類があるそうで。土佐漆喰という種類は、お馴染みの藁スサが使用されるのだとか。よって、少し黄ばんだ色になるそうだが、時間と共にそれが消えて白くなるようだ。しかも、藁のリグニンによるのか、後述する糊を使わないとかかんとか。

 

 お父さん購入品は、一般的と思しき麻スサ。

 麻と書いても、昔ながらの真の麻では無いらしい。GHQにより禁止にされたような麻だけでなく、そこらややこしくない品種があるそうで。国内で栽培もされているそうだけど、生産量が少ないのかな。という事で、他の植物による代用繊維を漂白して売られていたりする。また、化学繊維もある。

 ちなみにこのスサを、漆喰の量の嵩増しをするだけの不要材だと論ずる販売業者氏がおられた。お父さんはこれに抗する知見を持ち合わせていないのでよく分からないが、現代の新建材壁相手とかだとあながち間違っていないのかな。ただ、昔ながらの土壁を相手にするお父さんとしては、そのような挑戦はとても出来ない。いつも通り先人に従う。

 

漆喰にまつわる諸々の容易

 さぁ、さぁ、やって来ました。不安しかない左官工程最大の壁、土壁への漆喰仕上塗り。不貞腐れていては到底越えられ無さそうな壁。それにしても、中塗り下地塗り開始からほぼ一年経過でようやく仕上げ開始。短工期が貴ばれて久しい現代にこの長工期。嫌になるなぁ。我ながら引くわぁ。

 

 本手記では、漆喰塗りについて最難関とも素人作業とも書いたりしている。これは時系列がある。設計や概算見積時に比較的簡単という愚察から始まった。しかし、左官について触れていくと全くそうではないと認識したのだ。

 

 漆喰は、通信販売だけでなく、巷の平凡なホームセンターでも売られている。よって、建材の中でも値段把握は容易。 

日本プラスター うま~くヌレール 18kg 白色 12UN21  (シロイロ)

日本プラスター うま~くヌレール 18kg 白色 12UN21 (シロイロ)

 

 

 漆喰壁等を目にする事も容易。インターネット上だけでなく、テレビや雑誌で幾度も目に触れる。実物にしても、この家の地域でなくとも見受けた事は今迄数え切れない程ある。きっと二人もそうだろう。

 そして、その塗り手が素人という事例も数多あるようで、インターネットでも書籍でもそれを検索して見つける事も容易。

 よって、お父さんにとっても諸々容易な建材と断定。

 

 が、それらは幾つかの条件の下での事だと分かってくる。最も顕著で分かり易いそれは、「石膏ボード等の新建材の下地壁」に、「化学製品を塗る」事をしておき、また別の「化学製品を混入させた漆喰」を塗っている場合。これらの施工法を批判する漆喰材販売業者は幾つか見受けられる。

 何度も書くが、自身や家族の身体への影響が無いのであれば、自然素材云々を特段優先しない。個々人の主義思想により選択すれば良い程度の問題だ。気に食わないのは、例えば科学と化学の力と先人の努力によって成り立った移動機械を、化学製品の液体等を燃やして空気を汚しながらそれを動かす事で、直接的間接的恩恵を受けている自然素材原理主義者の輩だ。完全自給自足生活を成立させてから出直してこい。

 

 一方で、何やらかんやらを添加しない、元来の漆喰という建材をアピールする業者等の論にはお父さんなりの同調をした。

  漆喰とは、消石灰というものを主成分として、それにスサと糊を入れたもの。仔細は後述。で、消石灰は空気中の二酸化炭素を吸収して硬化していき、元の石灰石に戻っていくわけだな。これは、自然界で安定した状態になっていくという事。それは、理想的長寿命建材と同義語。

 

 このような建材に、わざわざ薬剤みたいな物を使う事に何か引っかかったんだな。漆喰の特性から考えると化学製品を使う意義は、価格と施工性に集約されるのではなかろうか。価格については、予算から許容範囲。施工性については、販売業者の記述から何だかクリア出来そうな雰囲気。

 という事で、結果的に完全自然素材と謳われる漆喰材にて施工する事を決定。大量発注による割引があるとの事からそれに応じた量を、搬入等の仕事を用意する必要があった事から探検さんご来訪時に合わせて発注した次第。

 

 で、それから凡そ一年半。この間、あれ程有った漆喰の施工性への楽観は、きれいさっぱり消え失せた。

 

 左官本職でも高難度である。本職でも化学製品を使う。本職でも不慣れや技量不足で不具合を起こす。本職でも土壁下地への漆喰施工をした事が無い人は多い。本職でも。本職でも。本職でも。本職でも。

 そのような記述も容易に見つかる。なのに、当時のお父さんは掘り下げず。もう大量発注済だし。いや、そもそも化学繊維と化学糊の漆喰に買い替えたとしても、消石灰消石灰。別に何ら解決しない。泥土と藁スサによる中塗土仕上げでさえも上手くできなかったお父さんという施工者成分が、容易な事ではない大問題なんだ。

 

床板漆仕上げ塗り

 おばあちゃん発言を引き摺りながらも、立ち止まる事は許されない。しかも、そろそろ四月が終わる。そうこうしていると梅雨。漆に大敵な梅雨。季節の移り変わりもお父さんを容赦しない。と自分の尻を叩いて行うのは床板材の摺漆。漆を引き摺ってやるんだ。

 これは左官の合間作業ではなく、左官を中断させてでも行う作業。昨年秋に気候要因で中断した四回目塗りを、本年末頃にはもしかしたらもしかして床板施工を行えるかもしれない、という希望的観測により行っておく。

 

 床板漆塗りについて書いた前回、三回目塗り状態の写真が無かった。よって、撮影してみたがよく分からんな。砂埃が堆積したまま撮っちゃったし。

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 さて、四回目塗りはMR黒透漆を原液のままで実施。三回目は灯油で希釈せざるを得なかった。しかし、漆塗り作業場である母屋二階のこの頃は、最高気温で25℃程、同湿度は30%以下が多い過乾燥期。原液で問題無く塗れる。

 一方、漆硬化面では問題、湿度不足で。灯油ストーブを焚いて湯を沸かすにも、高温度になってしまい大いに行えない。結果、一日経っても何だかイマイチ。

 悩んだ挙句、ようやく今頃になって加湿器を購入。三千円以下の安物中古品。こんな事ならもっと早く買っておけば良かった。

 

 そんな事もあり、四回目塗りは無事終了。四人工弱で漆は350g強使用。仕上塗りという事で、拭き紙はケーク紙使用。

 だけど、別にもう仕上がり具合なんて適当でいいんだ。所詮お父さんは素人だし、所詮は施主施工だし。

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