家屋伝承

我が子たちに伝えておきたい、伝統構法の我が家のこと。

社会の役割分担による専門化等の有難さ

 この年、農家の方から罠にかかった猪肉を分けてもらう機会があった。きょうこは覚えているかもしれないな。

 猪は、我が家でスーパーで買うレベルの普通豚と違う。噛み進めると口に入れた最初に感じた調味料の味の向こうに、これが肉だと感じる味がやって来る。筋肉に脂肪が挟まりまくってるってそれはもう病気か何かじゃないのか、と思ってしまう霜降り牛肉の甘味を感じるか否かはさて置いての脂味。これとは別次元の全く違うこれが本来の肉味じゃなかろうか。この味は、我が家の食糧消費レベルでは日常お目にかかる事が無い。

 しかし、野生肉だからかとても硬い。猪肉としての上級部位は無かった。貰い物なので贅沢は言えない。だけど、歯が弱くなったお父さんには結構辛い。そうでも無いお母さんも似たような感想。顎が弱そうな現代っ子のきょうこも格闘気味。りょうすけは早期戦線離脱。

                                         

 改めて強く思う。そこそこの値段で硬くない豚肉がいつでも買える事の素晴らしさ。この畜産技術と従事者の並々ならぬ日々の努力の恩恵。味は猪に負けていてもそれは代償として仕方がない。文句があるならその分の金銭負担をすれば応えてくれそうな畜産家がいる選択肢の有る有難さ。

 また、精肉加工業者や料理人の力を認識。パックに入った状態になるまでの肉の処理設備と技術。これを慣れない人間が自宅にて、まな板と普通の三徳包丁でしようものなら一仕事な上に歩留が悪い。また、野生肉を美味しく調理出来るのは人類が獲得した財産と言って過言じゃないと思う。このスキルを意のままに操るジビエ料理人は、高い報酬を貰う事は当然の対価と認めざるを得ない。お父さんはほぼせずにお母さんがやってくれたが、骨から肉を取ってそれを調理したり、骨からスープを取る事は傍から見ていても大変そうだった。狩猟を志す者として考えさせられる。

 

 元はタダのような物だとしても、それを利用する為には人の手と知恵が大いに求められる。自然素材と言われる物を主として扱っている施主施工者としても、同じ事を事ある毎に思う。

 木材に限っても、苗を植えたりして育て、山に行って伐倒し、それを運んで製材し、現場で加工されてようやく目的の材となる。書けばとても簡単。育てる、伐倒する、運ぶ、製材する、加工する。この家に越してから一応全てを経験する事になったお父さんは、哲学者や宗教家になるのかと思うぐらい色々考える。そこらの理屈だけの輩とは違い全ての実践者だぞ、と差別化して自信を高めているのでちょいと危険だけど。

 

 さて、今回の施工も一々製材から始まる。梁束梁貫用の板材作りだ。

 買えば楽チンだが、節だらけフローリング材の余材があるのでこの活用を進めて元を取らないといけない。目先のお金問題が動機としてあるのだ。だが、以前も少し書いたが板材は自己製材だと難易度が高い。これが山程あるのに、薪にするのはとんでもない放蕩贅沢と思う身体になってしまっている。

 

 節だらけ材が山程。よって、選別抽出だけでもう一苦労。それでもやる。半人工強は裕にかけての選別作業。そこから製材をしていく。フローリング余材は30㎜厚。既存材に倣った上で中塗土塗厚を鑑みて、梁束は20㎜強、梁貫は10㎜強程とする。よって、30㎜厚は過分。

 ここで自動カンナで削りまくって仕上げる、とは行かない。節が少ない材の確保が容易では無かった。最も長い梁貫で1.8m程。これ程の寸法で無節材の確保は不可。妥協して上小節でも不可。梁束で一部隠れる事から梁貫材は一枚物とせずにする。繋がっていない方が、材端部に既存柱がある同材の設置はし易い。それ以上に、先述通り材確保が出来ないし。半分の0.9m弱だとそこそこの材を確保出来た。だけどもそれでも完全に数不足。小節レベルを容認し、30㎜厚板を半分厚に切り割る事でようやく足りる有様。

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 そもそもだ。自動カンナで10何㎜も削ると、膨大な時間と標高数十cmの木屑山が出来てしまう。その用途は肥料にするのが関の山。そもそも何も野菜とかを育てていないから肥料は不要。山土となるだけ。貴重な板材を山にするなんて勿体無い。

 その後、ソーテーブルにて30㎜厚板に切れ目を入れ、刃が届かず残った箇所を手鋸で切断。粗い面を自動カンナで平面化していく。選別から入れるとこの段階までで大体2人工強は要している。人工代を考えると馬鹿らしいのでちゃんと計算していないが、恐らくまたもやアルバイト代の程度だろう。しかし、そういう事が大事では無いんだ。板材という人類文明により得られた貴重な材を、有効に使えた事に大きな意義があるのだ。

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 てな具合に延々と自分に思い込ませる。そうでもしていないとお父さんの場合は、予算死守の施主施工を今後も続けていく事が出来そうにないのだ。

 

伝統構法長期自然材多用施主施工の特有スキル

 単なる家主と違って見れば見る程萎える長押。では残そう、と思うのは施主施工者として自然な心理だと思う。但し、どう残すかがまた検討課題となる。と言うのも長押裏が見える改修だからだ。

 それは階段の存在。今までの2m未満の生活視線なら気にならなかった箇所が、縦動線の出現でそうはいかなくなる。長押の裏は大きく隙間がある。そこには、それはそれは埃等々が溜まっている。もしかして、ゴキがコンニチハしてくる映像が目に入るかもしれない。入られると殺虫剤を居室高所でふりまくるしか手が無い。

 もう埋めるしかない。万が一、家屋の為にわざと開けられている空洞だとしても。

 

 さぁ、どうやって埋める。隙間の大小関わらず、まさかコーキング充填などは有り得ない。埋める事自体が愚行でも、こんな所にコーキングは最高位な愚の骨頂。埋める材代表格のコーキングを否定すると選択肢は土しか思い付かない。という事で、梁束梁貫仕様云々の遥か以前の平成28年真夏に荒土プールにて準備開始。

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 その後の中秋の頃、紙を詰め始める。その後の工程である繊維仕上げ剥がしと中塗土削りの際、それら壁から落とした物が長押裏に入っていくのを減らし、さらに取り易いようにする為だ。それに、充填土による重量増加を少しでも減らす為。特に欄間壁は、言っても厚みが大して無い鴨居材三本と吊束っぽい縦材一本による壁だから。同時に充填土の節約も。これらの為、何か月も前から梱包緩衝材として届く古新聞を蓄えておいた。隙間が狭い所はそのまま土を充填する。

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 長押対策はこのように何ヶ月も前からの計画なのだ。片や梁束梁貫仕様への変更は急遽だが、これだって以前から悶々していた事案。

 書面にする気が起きない程の許容を超える膨大な工程表内容が、書面にしていない所為か脳内で撒き散らかされている。その状況下で、懸案事項とされている設計や施工は山程あるので、時に脳内が混乱したり短絡して停止したりする。そんな中で先の工程を見付けて、それを見据えて段取りしていくように努める事を要される。急遽の変更等があっても、その殆どがそのような長らく懸案検討事項としてあったもの。本当に急な計画というのは数少ない。この長期施工生活下において、夏は海に冬は温泉にとか家族旅行を計画しようとは沸き立たない。んんん、言い訳かな。

 

 工程管理を業務とする現場監督のような本職は、経験を重ねる毎に脳内処理速度が鍛えられてお茶の子さいさいかもしれない。天候は基より、関係者の勝手な都合にも対応する能力が高い人は所謂、出来る監督だ。以前にも書いただろうか、素人施主施工者の多くはこの経験が無いか、お父さんのように極々僅か。規模が大きく工程工種が多い程、この工程管理等は結構な負担業務。本職依頼を嫌煙する一つの要因となっている。

 しかし、お父さんが知る限りインターネットで見る施主施工者の方々の多くは、施工のお披露目が殆ど。一部の方は設計について触れていても、工程管理についてはほぼ無く、記載があっても結果内容の完成形の類のみか。そのような素人も本職も施工のような書き応えある物と違い、工程管理等は書くに及ばずとの認識か。読み手にしても読み応えがないのかもしれない。

 

 昔と違い今のお父さんは違うわぁ。度々書いてしまっているが施工内容には興味の無い物が多い、特にプラモデルな在来工法については。そんな事よりも工程管理や資金や人工等の事の方が関心事で興味があるし学びを探す。自然材相手ばかりの伝統構法家屋の長期施工をしているとそれらが重要になるが、それらをしている人が絶対的に少ないから仕方ないわな。

 

 伝統構法を世界文化遺産にして盛り上げよう、という活動をされている学者や本職の方々がいる。その団体に暗に意見を述べた事がある。本気で伝統構法復活を考えるのなら、遺産とかよりも施主施工という選択肢を確立する事が必要だと。勿論完全無視されているのだが、もし採用されたのなら工程管理の雛形や費用目安表等が本職方によって作成されるかもしれない。そんな魂胆は実現しそうに無い。

 ブログアクセス数等を気にしないが、古民家先輩のブログ公開主旨に共感して公開だけはするお父さん。自分が興味あり伝統構法を残すには必須だと考えるので、素人による設計や施工法に付け加えて工程管理的な面で試行錯誤してきた事ばかり書く。一方で、読み手のウケが良さそうな施工についてはあまり書かないんだな。それはお父さんよりは読み手に優しい古民家先輩にお任せ。

 

立ち塞がる日本建築様式材

 梁束梁貫仕様に決定したとしても、全体的には間違いなく伝統的日本建築様式の破壊中な事には変わらない。破壊話の流れでもう一つしておこう。それは「長押」について。「ながおし」と書いて「なげし」と読む。木地のままで鴨居の上に付いている板材を指す。

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 これは一体何なんだ、と検索した事がある。元々は構造材だが後年は意匠材との事。鴨居上部位置に取り付ける事で鴨居材の見付高の低さを補う材。まぁ、平たく言うと、座って見た時に鴨居辺りが立派な材に見えてゴージャスな印象を与える。お父さんはそう解釈した。

 ここで疑問。そうかなぁ。

 材を太く見せたい、と言うならば何故本当に太い材を入れないのか。特にこの家に関しては、本職含めた詳しそうな方複数人から、そこらの文化財家屋よりも立派な材がふんだんに使われている、と言われている。長押を上回るゴージャス材を使用するのは、この家の初代当主からすると間違いなく容易い事。それに、太く見せるのなら何故に古色塗装の鴨居と同色にしないのか。明らかに長押は後付材としか見えず、鴨居が立派とは特に見えん。

 

 そういう太ければ同色であれば、という単純な観点では無いのだろう。問答無用の様式というだけでも無いとも思う。大工職の仕事がそれだけされている事が重要じゃなかろうか。きっとそうだ、多分そうだ。実際、現代の大工職曰く、長押は大工職の仕事ぶりを表す一つの指標らしい。まじまじ拝見しても無駄な部位とは思わない。

 単に家主としてはそれで充分だが、本施工の施工者としては不足。特に必要な内容は、どうやって取り付けられているか。これがイマイチ分からない。隠し釘なんて無粋な物は勿論無い。実物を見回っても、インターネットで検索してみても。長押の裏側は傾斜が有り、固定にはこの裏側に何かしら手が入っているっぽいが、詳細がやはり分からない。

 

 さて、この扱いをどうするか。山ほどある懸案事項の一つだった。取り外す事は可能だろう、鋸刃を入れれば。問題は柱や梁等にどこまで切り欠きが入れられているか。取り外すとこれらを綺麗に埋め木しないといけない。見た感じからどのように取り付けられているか分からないという事は、相当の切り欠きが入っている可能性が高い。今までのパターンからするとそうだ。

 さらに面倒そうなのは、欄間が入っている元奥の間南北小壁の長押に隠れた部分が空洞なのだ。その空洞には長い鉄ボルトが横渡っているのが見えた。柱間を固定すると言う差鴨居の一役割を担う為の材なのだろうか。何にせよ、そのデカイ空洞を埋める必要がある。どちらが良いかではなく、どちらが面倒さが少ないかという後ろ向き検討が続く。

 

梁束梁貫仕様の因数分解

 では、梁束梁貫仕様にすれば良いではないか、とはならない。それはそれでゾッとする。出るか出ないか分からないヒビと、確実に施工負担増大する仕様変更。なかなか決断に至らない。こういう時は思考の因数分解

 

 梁束梁貫仕様にしない場合。要は、小壁が大きな壁になる仕様。

 大きな壁は、面を出すのが比較的難しいというのが感想。小さい面よりも大きい方が一気に塗られるが、それでも小さい方が確実に楽だった。他の壁の事だが、可能であれば付鴨居等の見切り材を大いに入れていくつもり。面を小さくしておくと、ヒビが入ったりしてやり直すとしても労力は小さくなるだろうな。

 難易度が下がる、という事は塗り厚と面出し基準としてのマステ貼を省略できる。お父さんレベルの未熟者でも小さい面だと可能となっている。汚す事に関しても頻度と度合いは減っている。

 

 そして、もう一つは「布連」の省略。読み方は「のれん」。だけど、暖簾と書くのではなく「布連」。

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 これは左官副資材の一種。柱等のチリに釘にて取り付けられる。左官壁の乾燥時の収縮により、チリに隙間が出来ないようにする為の物らしい。寒冷紗が使われている当壁にもしっかり使われている。一方で、梁束梁貫仕様壁には使われていないかもしれない。チリに隙間がある箇所が幾つかあるからだ。大きな壁のチリに隙間が長々と入っていると非常に不格好。小さな壁なら許容出来るかもしれない。既存の梁束梁貫仕様の小壁の隙間は今まで特に気になっていない。という事で、同仕様にすると省略が出来る物と認定。

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 この布連、採用について設計段階で検討した事がある。しかし、断念した。

 これを取り付ける為にはチリ厚がそれなりに無いといけない。布連自体が埋まった上で仕上材を塗るらしいからだ。以前にも書いた通り、既存荒土壁等にこのチリ厚の余裕が無い。その前提でチリ厚をふかしてくれた施工ではない。石膏ボード下地の左官壁は尚更。布連を無理して使うとかになると、左官材の塗り厚は1cmとか程度になるのではなかろうか。布連を取り付ける寸法分、石膏ボードを透かして貼れば良いのだろうか。う~ん、謎しか無い。

 

 ついでに言うと布連は市販されていない。と言うか入手先が分からない。需要が細くなって供給が限られているっぽい。そもそも土壁需要が細々としている。施主も元請けも左官職も布連を用いた伝統的工法を採らない、若しくは採られない、若しくは知らない。現在でも製作はされていてどこかの店頭では売られているらしいが、そこらの巷には無い。そもそも左官資材を販売している専門店がそこらに無い。建材店と称する所に平日昼間に片っ端から電話をしまくる覚悟と時間と電話代がいる。

 後に知るが、古民家先輩も同材を検討されたらしいが結構費用が掛かるそうだ。需要が高ければ工業技術で作られそうな代物に見えるのだが、手作業割合が高めの製作なんだろうな。知りもせず無責任で酷な考えかもしれないが、伝統を重んじるだけでなく、作り手側から製作方法と施工に対する革新を提供しないと復活しないのではなかろうか。

 

 ここまで来ると梁束梁貫仕様が優位。

 しかし、問題がある。どうやって梁束と梁貫の材を取り付けるのか。場所は柱や梁のチリ。ここにホゾ穴を掘って材を入れる。既存壁面に近い所にホゾ穴を掘る事はかなり無理がある。持っている普通の形状の鑿では真っすぐ刃を入れられないからだ。当然、インパクトで荒掘りする事も出来ない。設計段階から長らく気になっていたものの梁束梁貫仕様にしなかったのは、この問題が最大のネックとなっていたからだ。やりたくても出来ないと。

 

 という事で既存状態のままで段取りを始め同仕様を完全に断念する事に腹を括りかけた時、ふと思い付く。本当にこのパターンが結構ある。差し迫った状態でないとお父さんの脳内電球は通電しない事が多いようだ。で、その思い付いた施工法は、またまた登場の隠しビス法だ。

 今までの同法は、取付材の木表木裏等の面に対して行っていた。しかし今回は、既存柱や梁と接するのは取り付ける板状の材の木口しかない。その為に思い付かなかったかもしれない。木口にビス頭が引っ掛かる細工をしても、木の繊維方向からして強度はあまり期待出来ないかもしれない。ただ、そもそも強度は不要。取り付けて外れなければそれで良しじゃないか。枷になっていた取付施工法問題が外れた事によって損益分岐点が低減、労力対効果を得られると判断。懸案事項だった仕様問題はその瞬間に解決。

 

ゾッとする話

 さて、話を戻そうか。竿縁天井解体後の小壁施工についてだな。想定よりも長い工期になっている事にも絡むので、寒さや加齢以外の本筋の話をしておこう。

 

 まずは当初計画。当該箇所の施工について、設計段階から繊維面を撤去した後にそのまま中塗土仕上としていた。

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 一方でこの間ずっと、そしてちょっと気にしていたのはその他の居室の同壁の意匠との兼ね合い。

 小壁は一大面ではなく、縦材と横材により区切られて小面となりそれが複数枚となっている。正式名は知らないので、縦材を仮に「梁束」、横材を同じく「梁貫」と称しよう。手による打音から、梁束は束としての角材ではなさそうで、梁貫は間違いなく板。よって、同材全てでは無いかもしれないが、意匠要素が強い材と思われる。

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 そして、この意匠はこの家でだけでなく近隣の他の伝統構法家屋でも漆喰仕上で複数見た事がある。同じ伝統構法でも元豪農庄屋で茅葺家屋の古民先輩邸は、小壁を敢えて区切った意匠でなかったような気がする。茅葺だからかと思いきや、同条件で大阪府内のそれは区切られていたような気がする。しかも、畿内だからかやはりお馴染みの漆喰仕上。これだけで考えると地域性のものかと思うが、記憶力にも自信が無い上に不勉強なので推理はここで終了。

 いずれにしても、日本建築様式の破壊を厭わずとした奥の間。床の間も書院も竿縁天井も撤去。この際、伝統的意匠の兼ね合いを気にする事に今更感がある。そもそも、同じような意匠にする為の施工負担が追加されるのが嫌だ。

 

 そんなわけで、気にはなりつつも兼ね合いは無視をする前提でお母さんに中塗土の撤去工程へ入ってもらっていた。その間、出るわ出るわ、寒冷紗と思しき15cm程度四方の黒布。以前、元母屋階段廻りの垂れ壁撤去の際にも何枚か出てきた。購入した寒冷紗とは見た目からしてガーゼ。これまで全く馴染みが無い、ガーゼと違って。何故、寒くて冷たいとかの名前になったのか全く分からない。

f:id:kaokudensyou:20170223172022j:plain←新品寒冷紗

 

 物心ついてから寒冷紗という名称をハッキリ意識したのは、漆喰下地用としてが初めてだと思う。漆喰購入先にて、石膏ボード等の引っ掛かりが無い壁下地材に対して貼り付ける事で、漆喰が剥離しないと謳われていた事による。孵ったばかりの雛が初めて見たものを親と思うが如く、お父さんにとって寒冷紗とは左官副材であり下地材である。よって、中塗土から出てくる寒冷紗っぽい黒布は、最高位の居室である奥の間の繊維壁の下地土を何としても剥落させない材、と見ていた。

 しかし、さらに土を削り進めると、並び貼り付けられている藁が見えてきた。その奥は明らかに土の種類が変わっている。大班直し土、もしかして中塗下付土だ。

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 ここで一気に寒冷紗の謎化勃発。

 荒土と中塗土の剥離云々を言うならば、この藁の位置に寒冷紗を貼り付けるべきではないか。実際は、中塗土の中に入っていた。そもそも、荒土と中塗土の剥離って何だ。お父さん施工のそういう土壁は何年か経ったが剥離しそうに無い。剥離が出る所は乾燥過程である初期にとうに出た。十年、百年後の為なのか。理屈から言ってそれは考えにくい。一度一体化した荒土と中塗土を剥離させる事がどれ程面倒かは経験済だ。

 で、出た結論。剥離では無くヒビ防止だ。これなら合点が行く。そもそも漆喰下地材としての寒冷紗も同様の目的ででも入れられる。しかし、お父さんは左官材が乗りにくい箇所に使う目的の方ばかりを着目し、用途の認識が固定されていた。第一印象と固定観念。お父さんとした事が。

 

 謎は解消されたが今度は不安が増大。作業員レベルや土間コン屋さんと卑下する人がいなかったであろう、数十年前の本職施工であってもこれほどに寒冷紗を入れないと、それほどにヒビの発生確率があるものなのかと。

 確かに、素人左官による漆喰下地としての中塗土でヒビが出ている所がある。出ていない所もある。水の加減か材厚の違いか。いずれにしても、漆喰で隠れるだろうからとさほど気にせず見逃していた。しかし、此度の中塗施工は違う。それが仕上げだ。ヒビが出た頃には床材を貼っている可能性が高い。そのような完成状態にて、いくら養生したとしても中塗土をまた削って砂埃が舞ってやり直すなんてゾッとする。